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「ショートショート その2」 その後の行方は
#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門 #ショートショート #サーカス
デミダゾール一団の その後がどうなったか 知っているかい?
かつては あんなに有名だったデミダゾール一団の 行く末を?
若い人たちには、まったく 初耳であった
まったく 想像すら出来なかった
遙か昔、デミダゾール一団は この州でも 有名なサーカス団だった
それはそれは人気のある サーカス団だった
その一団が来るのを、
子供たちは、設えた演舞場の周りで キャーキャー騒げ
恋人たちは、張られたテントの陰で いちゃいちゃ出来る
その時が来るのを、心待ちにしていた
町の入り口の曲がり角に、その一団が さしかかり
その楽団の、ブンチャラ ドンチャラ という響きが聞こえ出すと
もう人びとは、いてもたってもいられず
やっていた仕事も ほったらかし
着ていた着物すら 脱ぎ捨てて
靴を履く間も 待ちきれず
その一団を見ようと 走り出していた
さらに、町の中では 興奮のあまり、
持っていた銃を 天空に向け撃ち鳴らす者
持っていた剣を 天空高く突き上げる者
中には、銃を互いに向け また、剣を互い突き出す馬鹿者も
出てくる始末だった
そんな騒ぎのなか、サーカスの一団は、
町の中央に広がる大広場へとすすみ
そこに、デ~ンとばかり 居座った
そして、そこで荷を解き 車輪に、歯止めをし
中央に、どこからでも見える 大テントを張り
その周りに、売店兼住居となる 小テントを張り
着々と 公演の準備を すすめた
あるよく晴れた日の朝
高らかなラッパの パッパラパー という音が響き
サーカス団の興行は 始まった
煌(きら)びやかな衣装を身をまとった団員たちの アクロバットな演技
それは、とても 華麗なものだった
観客たちは、その演技に 心から感動した
厳(いか)つい鞭と椅子を持った猛獣使いたちの 手に汗を振る舞い
それは、とても 勇猛なものだった
観客たちは、その振る舞いに 心から震撼した
大きな赤い鼻つけたピエロたちの 腹から笑いが突き起きるやり取り
それは、とても 愉快なものだった
観客たちは、そのやり取りを 心から享楽した
また、サーカス団の居る広場のその裏手には、
きれいな屋台がひらかれており
そこでは、ヌクヌクとした毛につつまれた人形や
ホクホクとした得体の知れない焼き肉が、所狭しと並べられ、
サーカス会場から出てきた観客が、
人形を手に 焼き肉を咥(くわ)え ひしめき合っていた
そんな日々が、数十日ほど続いた
そして、ふと気がつくと
町中に あまたいた猫たちの
ニャーニャー ギャーギャー という猫なで声や
扉を ガリガリ ビリビリと 引っ掻く音も
犬たちの 互いに バオバオ ガオガオ と叫び合う声や
猫を追いかける ダダダッツ ドドドッツ という足音も
次第と聞こえなくなってきたような気がした
その一団が来てからは
そして、人びとは 猫や犬が少なくなったのをかん違いし、
「あの温厚なミダウルトさんが、野生の猫や犬を保護してくれて
本当に助かりますね」
「慈善家のナハビッチ夫人が、猫や犬の赤ちゃんを拾い
保護団体に自費で回収してくれて、本当に恐れ入りますね」などと、
自分本意な解釈を、ささやきあっていた
またある日、ティンカートンさんの家に
役所から、感謝状が届けられた
「貴殿は、野生の猫の駆逐に 大変貢献してくれました
そこで、お礼をするので、役所までご厚顔を出して下さい」とのこと
さらに、ノマルディさん家にも、表彰状がやってきた
「貴君は、野良の犬の征伐に 大変役に立ちました
そこで、寸志をあげちゃうので、役所までおいで」と
しかし、ここに至っても 人びとは、
猫や犬が少なくなったのは、
温厚で慈善家の裕福な人たちの粋なはからいであると
まだ、信じ込んでいた
そんな折、サーカス団が過ごしていた
すぐ近くの墓場で 一大事が起こった
なんと、人の骨に混じって
大量の動物の骨が見つけられたのだ
なかには、ミケニャーやポコワンなどという名札も混じっていた
いったい誰が、こんなことを
この時まだ、人びとは サーカス会場で買った
暖かなぬいぐるみや美味しかった焼き肉と
この一大事の関連に、なんの疑問も持っていなかった
さらに、子供たちの あんなに キャーキャー ピーピー 騒いでいた声も
あんなに ジダンダ バダンダ 踏みならしていた足音も
何故か少なくなってきたような気がした
その一団が来てからは
そして、子供たちが居なくなったことをかん違いし
「ミチューシャさん うちの馬鹿息子が
長々お世話になっており 本当にすいません」
「いえいえ、サウデャージさんこそ うちのどじ娘が
お世話になっており ありがとうございます」 などと
かみ合わない会話が あちこちで 交わされてもいた
またある日、ピンカドールさんの家に
学校より 勧告状が届けられた
「貴殿のアホ息子は、ここ一週間 授業をサボっています
至急、顔を見せて 謝りなさい この馬鹿親は」 とのこと
さらに、マルティモンドさん家にも お手紙がつきました
「貴様の尻白娘は、ここ十日間 教室にそのお尻を見せていないぞ
サッサと顔を出して わびを入れろ このアホタレ一家は」 と
しかし、ここに至っても 人びとは、
子供の行き先が分からないのは
子供たちは互いに ただ外泊をしているだけだと
まだ、思い込んでいた
そんな時、変なうわさ話が巻き起こった
サーカス団のテントの脇で
ピエロが、子供たちにお菓子や小遣いをあげ
テントの中へ しきりと誘っていたという
猛獣使いが、子供たちをその鞭や恐ろしい顔で脅し
テントの裏に 引きずり込もうとしていたという
そして、その子供たちは、
二度と家に顔を見せなくなると
いったいどうして、そんなうわさが
この時、人びとは
最近、行き先の分からなくなった
出かけたまま、帰ってこない子供たちと
変なうわさ話の関わりに、目を向けようとはしなかった
しかし、何処に行ったか分からない飼い猫や犬たち
その為、静まりかえった町並み
そして、サーカス団の近くの墓場でおきた一大事
また、なかなか見つからない子供たち
その為、口論が途絶えた家々を
そして、サーカス団のテント脇についてのうわさ話
それらの関連を、訴える人たちが出現するに至り、
ようやっと 人びとは
サーカス団が来てからの数々の異変に
サーカス団の真実の姿に、気づき始めた
そう、このサーカス団は とんでもない影を持った集団だった
町の至る所にいる動物たちを捕えて、
かわいく見える人形に変え
美味しそうな焼き肉にしたてあげ
人びとに、売りつけていたのだった
さらに、町の子供たちを、
その巧みな口ぶりで誘い その酷(むご)い鞭で脅し
遠い国へと 途方もなく高い値段で、売りさばいていた
その事実が明らかになった時
人びとは、口から目の玉が飛び出るくらいに 怒り
おへそから胃が飛び出しそうになるくらいに 噴り
手に手に 柄杓(ひしゃく)やしゃもじやを持ち
サーカス会場だった広場に 押し寄せた
しかし、広場は はげ頭のように もぬけの空だった
サーカス団の悪徳メンバーは、
ボウフラを散らすかのように 居なくなっていた
それはとにかく、
あれだけ煌びやかだった 大きなテントも
あれだけ賑わっていた 小さな屋台も 無くなっていた
あの楽しげだった 大きな演舞場も
あの厳(いか)つかった動物の檻も すべて、失せ去っていた
あの華麗なアクロバット団員たちも
あの勇猛な鞭を操る猛獣使いたちも
おの愉快な赤鼻のピエロたちも すべて、その姿を消し去っていた
広場に残されていたのは 幾多の猛獣たちだけだった
それも、監獄から解き放たれ 自由になり
腹をすかせ 貪欲な食い気に満ちた
そして、獲物を捕らえる磨ぎ澄まされた鋭い爪と
一筋の容赦もないギラギラと輝く眼(まなこ)で
今にも、飛びかからんとする 猛獣たちだけだった
人びとは、考えた
これは、夢を見ているのだと
これは、単なる幻想に過ぎないのだと
そして、静かにしていれば 目を閉じて祈っていれば
楽しい現実に戻るのだと
そう信じたかった
その時、ひときわ大きな猛獣が
仲間たちに 攻撃に備えるよう
お腹の底に響くような
野太い咆哮(ほうこう)を上げた
そこで始めて、人びとは
自分たちの置かれた立場に気がついた
そして、人びとは、猛獣たちの猛々しさに驚き
その凄まじさに 恐れおののいた
人びとは 広場から逃げだそうと、
静かにうなり声を上げ 低く身構える猛獣たちに背を向けて
走り出そうとした
脇目もふらず、飛び出そうとした
でも、もう遅かった
何もすることは、出来なかった
何をするすべもなかった
最後に聞こえたのは、人びとの泣き叫ぶ声と
頭蓋骨をかじる ガリガリという音だった・・・
デミダゾール一団の その後がどうなったか 知っているかい?