「ショートショートその3」エディミョール夫人の囁(ささや)き
エディミョール夫人は囁(ささや)きます
「ブンジャコミャーさんは、本当はね・・」
さらに、呟(つぶや)きます
「ソルファーリン氏は、
あんなこと言っていますがね・・」
そう、エディミョール夫人は
大のゴシップ好きなんです
人の噂話が、大好きなんです
エディミョール夫人のうわさ好きは、
生まれつきと聞いています
なんでも、生まれてすぐに
オギャー オギャー とは泣かず
ミーハー ミーハー と叫んだといいます
まだ、話も出来ない頃は、
人の内緒話を聞くために
その耳が、次第と大きくなり
手のひらより 広がり
病院では、そのあまりにも大きな耳を
放っておくと 羽ばたいて
空を飛ぶかもしれないからと
ちょん切ってしまった方が良い
という医者まで いたそうです
幸い、病院のベッドには
医学用語の難しいゴシップしか無かったのか
耳は、次第に 小さくなったといいます
話が出来るようになると、今度は
有ること無いこと しゃべりたいため
その口が、チュルチュルと伸び
鼻の100倍位まで伸張し
病院では、そのあまりにも伸びた口を
放っておくと オレンジジュースを
ストローで飲めなくなるからと
ねじ切ってしまった方が良い
という医者まで いたそうです
幸い、病院のベッドでは
人の話を聞かない 素っ気ない看護師が多く
口は、次第に 短くなったといいます
そして、小学校に上がると
そんな噂話が好きな同好の士を集め
学校中の男子生徒のイジイジと隠された性癖や
あまた男女生徒のザワザワとした相関関係
さらには、先生同士の
とても言えないジメジメとした世間話など
何でも、見聞きできる
『ゴシップ研究会』なるものを創り
その会長として、君臨していたとも 聞いています
高校生にもなると その気質は、さらに成長し
ゴシップを ただ待つだけでは物足りず
男子生徒を誘惑し、
いきり立つ男子生徒の行状を 密かに収録し
その記録を、学校中にジャンジャンと広く流出させ
男子生徒は、自分のダサさにあきれ
転校させたこともあったとも 聞いています
また、女子生徒に好意を持つ
男子生徒がいると秘かに伝え
とち狂った女子生徒が
男子生徒に出したラブレターを
掲示板にバンバカと貼りだし
女子生徒は、恥ずかしさのあまり
性転換を考えさせたこともあったとも 聞いています
エディミョール夫人は、その後 立派に成長し
今では、この町の大変有名な 貴婦人になりました
もちろん、町の有力豪族の馬鹿息子を
今まで集めた情報を元に あらゆる 手練手管を用い
陥落させた結果です
そうして、町中の婦人たちを集め
『世界の将来を話し合う会』なるものを結成し
この町だけでは無く 隣町にまで手を伸ばし
世界の未来のための文化交流と称し
近辺の、陰でささやかれる噂話を収集し
『世界 裏話の輪 新報』なる月報を作り
仲間内で、暗々のうちに閲覧し、
さらには、誰にも分からないよう
その月報の総集版を、通信販売までして
ゴシップの拡散に 勤めていたそうです
そんな折、町の功労者を感謝する
謝恩の集会が開催されることになり
エディミョール夫人の夫も、その対象に選ばれました
その集会で 夫のウソだらけ業績を讃えた
演説を拝聴しているとき
聴衆のひそひそ話を聞き逃すまいと 思わず
その耳は、豪奢な帽子を
引きちぎらんばかりに広がりそうに
そして、夫の隠された痴情話を話したくて 図らずも
その口は、聴衆のおでこを
貫かんばかりに伸びそうになりました
しかし、ここは公の 晴れの席
チュ~チュ~ ダンボ になど
なってしまってはいけませんでした
エディミョール夫人は、
何も聞くまい 何も話すまいと
心を 鬼にしようとしました
耳と口に、近くにはえていた
ぺんぺん草で、封をしようとさえ思いました
そんなとき、夫が エヘンと咳をすると 演題に進み
感謝への返礼の挨拶をする瞬間がきました
その夫は、上着の内ポケットから返礼の言葉が書かれた
カンニングペーパーを取り出すと
いよいよ、言葉を発しようとしました
まさしくその時、
真上にある木の枝にとまったカラスが
クヮ~ クヮ~ と 鳴きました
エディミョール夫人は、とても嫌な予感がしました
そして、とてもワクワクするような気分も感じました
そうです、そのカラスは ブルッと身を震わせると
一直線に、夫の頭に近づき
ムンズとばかりに その髪の毛を掴みました
すると、髪の毛は スルリと頭から離れ
ピカリと光る 見事な頭が 現れました
それを見ると、エディミョール夫人は、
淑女然として、手を口に当てて
世間体を考え、しとやかに叫びました
「まあなんてこと
毛のないおつむが、丸出しになって
あのカラスを捕まえて、殺しておしまい!」
しかしすぐに、目の玉を、ヒンむき出して
本音を、思わずわめき散らしました
「ソ~ラみろ
格好ばかりつけてんじゃね~よ
この、ツンツルテンのはげ頭は!」 と
夫人は、こりゃいかんと気づき
慌てて、その口を
ホチキスで塞ごうとしました
恐れおののいて、その舌を
トングで引き抜こうとしました
でも、遅すぎました
一度出た言葉は、もう二度と
お腹には戻りません
一度発せられた言明は、もう二度と
お臍には返りません でした
その時からです
エディミョール夫人が、
はげ頭夫人 ツルテンピッカリ夫人と
呼ばれるようになったのは
もう、平然と 街を歩くことも出来ません
もう、公然と 会議に出席することも出来ません
もう、ノウノウと
噂話にふけることも出来ませんでした
今では、何を聞いても
その耳はピクリとも広がらず
誰が話しかけても
その口はシタリとも伸びること無く
見猿 聞か猿 言わ猿 状態になりました
私を、賢いお猿さんと呼んで と言わんばかりの
静けさを、醸し出していました
エディミョール夫人は、
もう囁(ささや)くことはありませんでした
もう呟(つぶや)くこともありませんでした
この様な日々が、繰り返し
連なっていくはずでした
本当に、穏やかな日々が
そう、あの虎模様の洋服を着飾った
口達者な 関西系のおばはんが来るまでは・・・
この際、是非「ショートショート」ウィングバード先生の言うことにゃ
「ショートショートその2」その後の行方は も、ご覧下さい
#ショートショート #夫人
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