映画レビュー(187)「ボルテスⅤ レガシー」
内容に関しては特筆するものはない。子供向けの勧善懲悪と母子の愛情ストーリー。だが、子供向けだからと言って決して子供だましではないところが素晴らしい。
元々は1977年の日本のアニメシリーズ(日本サンライズ)である。それがフィリピンでは1978年からオンエアされて、58%という視聴率を記録している。
当時はマルコス大統領の独裁政権下で、物語で描かれるボアザン帝国の専制政治とマルコス政権をなぞらえて、国民の心に沁みたのであろう。
1986年、エドゥサ革命(ピープルパワー革命)で、暗殺されたベニグノ・アキノ大統領候補の妻コラソン・アキノ大統領が誕生しマルコス政権は終わった。
その後もアニメは何度も再放送されて親子三代にわたる国民的作品になっている。
それを2023年に、実写版としてよみがえらせたのが『ボルテスV: レガシー』である。全90話のテレビシリーズとしてフィリピンで公開され大ヒットした。日本でも今秋より放送予定。その映画編集版がこの作品である。
(追記)
実は、1986年のフィリピン革命、メディアの放送などで、時々刻々の革命の進行を毎晩ニュースステーションで追いかけることができ、視聴率もバカにならなかった。まさに、革命当初から、軍が民衆側に立って大統領の罷免を求め首都へ進軍、マルコス大統領の亡命までの過程がすべて報道されている。メディアの力に驚かされ、「司法・立法・行政」に次ぐ第四の権力は「報道」だなと実感した。
当時、二十代後半で小説創作を趣味にしていた私は、同じく作家志望の友人とともに、「ザ・ヘクス」という作品を合作しようとしたぐらい。東南アジアの某独裁国家で起きている内乱報道が視聴率を稼いでいる。実は、争いが終息しないように、巨大報道ネットワークが戦争を裏で操っているというストーリー。その戦争の経過は、戦略ゲーム(当時はボードゲームしかありません)の名人たちが影の参謀としてゲームで戦術を決めるという裏設定。タイトルの「ヘクス」とはゲームボードを埋めるヘキサゴン(六角形)の1コマのことである。この体験で初めて箱書きでシーンを考える癖がついたのだった。