ブックガイド(157)「パンドラ 猟奇犯罪検視官 石上妙子」
「猟奇犯罪捜査班」の“死神女史”こと石上妙子の、若かりし頃の事件。
「ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子」シリーズの前日譚でもあるスピンオフ。
まだ院生の妙子のもとに事件はやってきた。この事件が、かつて日本中を震撼させた「大久保清事件」をモデルにしたもので、当時、中学生だった自分も連日のようにテレビで流れた事件に驚いた覚えがある。
大久保清事件とは
大久保清は連続殺人犯である。
1971年(昭和46年)3月 - 5月までの2か月足らずの間に、路上で自家用車から声をかけて誘った女性8人を相次いで殺害し逮捕され、1973年に死刑判決を受け、1976年に刑を執行された。
スポーツクーペを乗り回し、稚拙な文学趣味をひけらかせて十代の娘を誘惑してはレイプして殺した犯行は、「劣等感の裏返しとなった自己顕示欲」が感じられて、当時中学生だった自分ですら「40歳近い歳でこれは痛いなあ」と感じたものである。
ベレー帽・ルバシカ(ロシアの民族衣装)姿で画家を装って女性をナンパし、自家用車内に誘い込む手口に当時の世相が覗える。60年代から70年代は、ロシア文学やロシア民謡が左翼インテリ界隈の必須アイテムだった。
大久保清は、画家の他にも全学連等、左翼の闘志を装ってナンパもしていた。
石上妙子と厚田の出会い
シリーズ屈指の名コンビの馴れ初めも描かれていて興味深い。長いシリーズを書きながら、キャラクターが育つという好例だ。作者自身にとっても思い入れができてくるのだ。
こんな境地に立つ内藤了さんがうらやましい。