ブックガイド(14)「粘膜蜥蜴」飴村行
(2009年 10月 17日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)
「粘膜蜥蜴」飴村行(角川ホラー文庫)
なんとも不思議な小説だ。
太平洋戦争前の昭和と思える時代背景。爬虫類のような外貌の爬虫人(ヘルビノ)の下男。サディズムとエロスとユーモアとグロテスクに満ちた物語。でも気がついた、これは丸尾末広のマンガを活字にしたわけだ、と。
特に、「雪麻呂ぼっちゃん」の応援歌(何の応援かは読んでからのお楽しみ)のくだりは、もう丸尾キャラが日の丸の扇子を振っているところに、リボンや紙吹雪が舞うが如き絵が浮かんでしまった(苦笑)
解説を読むと、作者はかつて漫画家を目指し、「ガロ」に持ち込みをしていたというから、これは丸尾末広の活字版という指摘は、あながち的外れでもないのだろう。むしろ、それを確信犯的に行う小説家は今までいなかったのだからユニークでもある。
というわけで、この作品に登場するキャラクターたち、すべて俺の頭の中では、丸尾末広のキャラで描かれてしまうわけである。
爬虫人の下男・富蔵が「ぼっちゃん」と言うシーンなど、俺の脳内では、丸尾末広の「薔薇色の怪物」(「夢のQ作」だったかもしれない)の作品に出てくる赤座というキャラが被るわけである。
解説には、軍国主義の支配する物語の舞台設定に対して「日本の過去の帝国主義思想とアジア諸国に対する傲岸な態度を皮肉ったもの」という指摘があったが、それは考えすぎだろう。
作者は「丸尾末広」がやりたいのである。
ヨーロッパの作家がサディズムを描くのにナチスを使うのが便利なように、日本の作家にとっては、昭和の軍国主義が都合がよいのは丸尾や団鬼六を見ればわかるだろう。
そして昭和の軍国主義は、現代では皮肉的に描くしかないじゃないですか(苦笑)。
丸尾末広は軍服をモチーフにして、泥絵の具で描いたようなエロスやサディズムを描写する。
そう思えば「粘膜蜥蜴」は昭和のホラーでもあるのだろう。
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