創作エッセイ(86)鶴舞公園と鶴舞中央図書館(ショートストーリーも)

今回は個人的な思い出の地を散策。末尾には、ここを舞台にしたショートストーリーを掲載。

「虎に翼」のあの場所ですね

名古屋公会堂。入るの30年ぶり。当時、友人とジブリ映画四本立てのイベントでここの大ホールに入りました。

この斜路はリフォームで追加
重厚です。

1930年(昭和5年)9月に完成。戦後は占領軍専用劇場にもなっていた経緯がある。今年の4月からネーミングライツで岡谷鋼機名古屋公会堂になっている。

鶴舞中央図書館地下。湧き水あり。

今から13年前、うつを患って中途退職した後、やや寛解した頃から働き口を探して見つけたのがバイク便の受託ライダー。ちょうど旧・民主党政権の時代で、53歳のハゲ親父は、時給900円の仕事にすら採用されず、最後の最後に就いた仕事だった。
他者との接触の少ない仕事で、治療しながら社会の中に居場所を持つには最適だったかもしれない。その市内待機場所の一つとしてこの図書館を利用していた時期があり、待ち時間を読書に充てていたのだ。これが、素晴らしいインプットになっていて、この当時の出会いは重松清さんの諸作品や、荒山徹さんの柳生シリーズとか。文庫で買いなおしたぐらい夢中になった。そんな読書スペースがこの地下。

名古屋公会堂と鶴舞公園は歴史的な建造物も多くて、一時期コスプレ趣味の人たちの映えスポットとして有名でした。
ということで、ショートストーリーを一遍。
以下------------------------------------

「スチームパンカー」
 公会堂で散々写真を撮った後、俺たち三人は隣の鶴舞公園に向かった。
 大阪から来たOL女史と、東京から来た中年紳士、そして地元名古屋の俺である。
 今日は市公会堂を借り切ったコスプレイベントだった。大多数の参加者がアニメやゲームや映画のキャラに扮している中、俺たち三人はヴィクトリア調の時代を背景にした「スチームパンクSF」風のコスプレをしていた、いわゆるスチームパンカーだ。
 SNSでしか知らなかった二人との初のオフ会だった。
 俺は皮の飛行帽とゴーグルでアヴィエイター(飛行士)というスタイル。OL女史は夜会服に歯車系のアクセサリというヴィクトリアン。中年紳士は黒のコートにシルクハット、カラスのクチバシのようなマスクの「ペスト医師」スタイルだった。

「ここ人気のスポットなんですよ、雰囲気がぴったりで」とOL女史が奏楽堂の前に立ちポーズを取る。
「この公園、なんでこんなにインスタスポットが揃ってるんすか」と俺。
「戦前に御大典奉祝名古屋博覧会があった会場だよ」と紳士が言った。
「君たち名古屋の人って、意外と名古屋のこと知らないよね。則武の産業技術記念館なんてスチームパンクの聖地だし」とOL女史。
「そうなの?名古屋ってコンサートでも飛ばされる街って言われてたけど」という俺に、
「典型的名古屋人だね、その自虐意識は」と言って紳士がクチバシの頭を振った。
 公園内で互いに写真を取り合ううちにイベント終了時刻が近づいてきた。
「夕食どうします」と聞くと、
「大須に知ってる店があるの」とOL女史が提案した。
「いいですな、大須」と紳士も乗り気だ。
「皆さん詳しいんですね」と驚いていると、
「君、大須は街全体が中野ブロードウェイみたいなサブカルの聖地だぜ」と逆に紳士が驚いた。
「彼には少し教育が必要よ」とOL女史。
「よし、今夜はじっくりと名古屋とサブカルの話をしよう」と紳士が言った。
 長い夜か、それもまた良しだな。
(おわり)
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お後がよろしいようで。
(参考)
アヴィエイター

ヴィクトリアン

ペスト医師

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