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「化粧品って売れるじゃん?中身はなんでもいいから」と言われた思い出
化粧品業界にいると、「あなた、本当にそれ売る気ある?」と聞きたくなる販売者に出くわすことがある。いや、売る気はあるのだろう。むしろ「売れれば中身なんてどうでもいい」という恐ろしい思想の持ち主だ。
これは、私がまだ化粧品の開発をしていたころの話。当時、外部にも製造を行っていた。ある日、クライアントがやってきた。美容業界とは無縁の、どちらかというと「機械オイル」とかを売ってそうな工業系の会社の社長である。
「化粧品って安定的に売れるんでしょう?」
「通販で売る仕組みはもうあるし、あとは適当に決めてもらえればいいんで」
……はい?
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一緒にいた女性の営業担当が、グッと拳を握ったのが見えた。いや、それどころか「女性をバカにしてるのか!」と怒りで今にも爆発しそうだった。
たしかに、化粧品は「売れる」市場だ。けれど、それは「誰が作るか」「どんな想いが込められているか」があってこそ。今の日本では、どこの製造工場でも、それなりに製品ができるのは確かだ。しかし、安さを追求して「この油を顔用に・・?」など成分の良し悪しはもちろんのこと、ブランドの世界観や哲学、肌悩みの何を解決する製品か、などがあって、初めて消費者は心を動かされるのだ。
「申し訳ありませんが、販売する側に商品イメージがないと、ゼロからの開発は難しいですね。完成品の化粧品を卸している会社もあるので、そちらをご検討ください」
と、彼女はきっぱりお断りした。正直、プロとしてはちょっと冷たかったかもしれない。だけど、こういう会社が作った化粧品が市場に出回るのは業界のためにも消費者のためにもならないので、彼女の反応は正解だったと思う。
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「売れる仕組み」だけでは通用しない
実は、この手のクライアントは珍しくない。
「売れる仕組みがあるから化粧品を作りたい」
「うちには顧客リストがあるから、何を売っても売れる」
そう言って相談に来る企業は後を絶たない。そして、私が知る限り、そういう会社で成功したところは一つもない。
なぜか?
答えは簡単で、販売する本人たちが興味がないものは、いくら売る仕組みがあっても売れないからだ。
美容の知識がない販売者が、敏腕な美容ライターを雇ったところで、肝心の情報の源流をつかめなければ意味がない。いくらうまい言葉で飾っても、興味がないものの魅力を語ることはできない。結果として、どこかの広告のコピペみたいなページが出来上がり、「あーあ……」とため息が出ることになる。時には、事実とは言い難いことを適当に付け足していたりする のだから、もはや論外である。
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売りたい人 vs. 届けたい人
長年、化粧品業界にいると、広告や商品ページを見ただけで 「どんな会社が作ったか」なんとなく分かるようになってくる。
「本当に届けたい」と思って作られた商品と、
「売れればいい」と思って作られた商品の違いは、一目瞭然だ。
もちろん、今や化粧品は女性だけのものではない。しかし、「どうでもいいものを作る」という姿勢は、ある意味 女性を冒涜していると思う。 女性だけではない、開発に携わる技術者たちも、原料のメーカーも、パッケージ会社も。全員が良いものを届けようと躍起になって日々頑張っているのに…。
私が望むのは、「売りたい」ではなく「届けたい」と思う人が増えること。
そして、そんな販売者と一緒に、本当に価値のある化粧品を生み出していきたい。
そういう信念があるからこそ、売れるものなら何でもいいという販売者は、私にとっては敵なのだ。
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