映画『チリの闘い』(原題:La batalla de Chile)三部作
また、凄い映画を観てしまった。チリでマルクス主義を掲げて選挙によって民主的に政権を取った人民連合政府のアジェンデ大統領と、その転覆を図るアメリカに支援された資本家と右派政党と軍部、アジェンデを支えようとする労働者と農民たちの闘いを、克明に記録したドキュメンタリー映画『チリの闘い』(原題:La batalla de Chile)三部作。そのあまりのリアリティーに、ドキュメンタリーを超えた圧倒的なストーリー性を感じた。大変ショッキングな映像もあるが、その志の高潔さゆえに、芸術的な叙事詩大作と言っていいくらい美しい作品にもなっている。下高井戸シネマで4月29日に終映なのが残念。是非、多くの人に観て欲しかった。
特に、私のような経済学や経営学を専門とする立場からすると、人民連合政府が進める社会主義的な経済改革を破綻させるために、資本家と技術者と商店経営者による「ストライキ」や、富裕層による日用品の買い占めと闇市への横流しなど、一連の経済停滞運動が展開されたのに対して、生産や流通の現場にいる無数の労働者と農民が、誰に指導されるでもなく、自ら主体的に経営に参画し、生産管理、労務管理、販売管理を行い、さらには消費者と生産者を直結した新たな流通ルートを確立してゆく。工場や農場や卸売店や商店における経済活動を維持し、国民の日常生活を支えることを通じて、アジェンデ政権を守るべく闘うのだ。
資本主義を超えた未来社会というものがあるとすれば、それは一部の専門家や政党が描いた青写真に基づくものではなく、生産や流通や消費の現場にいる無数の人々の、創造的な実践によって初めて可能になるものであろうことを改めて実感した。未見の方はDVDがあるので、是非そちらで。