ニューヨーク・ジャズ紀行 第一夜「Smalls:ラテン・ジャズの夜」
今回は、2007年ニューヨーク・ジャズ紀行の第一夜。
8月20日、ニューヨーク入りした当日の夜、スモールズ(Smalls)という店に行く。バンドの編成は以下の通り。一見して、ホーンセクションが大きいと言うことが分かる。
New York
Rafi Malkiel - Trombone, Euphonium, Compositions
Abraham Rodriguez - Vocals and Percussion
Anat Cohen - Clarinet
Chris Karlic - Tenor Saxophone
Itai Kriss - flute
Gili Sharett - Bassoon
Jack Glottman - Piano
Henry Cole - Drums
Pedro Giraudo- Bass
トロンボーンのリーダーに、管楽器がクラリネット、フルート、バスーン、テナーサックスと並び、それにピアノ、ドラム、コンガ、ダブルベース(コントラバス)。
バスーンとクラリネットは女性で、残りは男性。
このメンバーで、ジャズというより南米音楽を演奏する。芸達者が揃っていて、皆悪くはない。クラリネットの女性などは、一見、少し太めの気の良いウェイトレスかと勘違いするほど、どこにでも居そうな親しみやすい人なのに、実際に演奏すると、そのままの雰囲気で、とても滑らかで弾力のある音を出し、柔らかく速い指捌きも鮮やかに、リズミカルな演奏をする。ピアノもベースも、上手い方だ。
しかし、このメンバーの中では、やはり、トロンボーン、フルート、ドラム、そして、ボーカル兼コンゴ担当の男性、メンバー中、おそらく最高齢の50代後半くらいで、南米から普段着のままやってきたようなラフな出で立ちの野球帽の男性が、特にいい。
ところが、こう書くと、ほとんどメンバーの半数が、になってしまう。つまり、それくらい芸達者が集まって、楽しみながら音を合わせていく、そんな集団ができあがっているというわけだ。とにかく、良い意味でとてもリラックスしていて、遊び心が抽象的洗練に向かうのではなく、子供でも楽しめるような解りやすい掛け合いになっている。その点、今回の第二夜や第五夜の演奏とは対極にあって、親しみやすさい大衆性と個々の高い演奏技能が二つながらそなわっているというわけだ。
明るく、健康的で、弾むようなリズム、南米の太陽と笑い声が似合う、そんなライヴだった。個々人の技量や個性が、個性を失うことなく、一つの生きた全体的な個性になり、なおかつ全体として弾んでいる。
コンゴとドラムの競演は、互いにソロをとるのではなく、まさしく同時進行で間合いを読みながらの掛け合いで、演奏としては最大の山場だったともいえる。
また、コンゴのアブラハム・ロドリゲスという男性のヴォーカルも、明るく伸びやかでよく響く、南米らしい雰囲気に会場全体を包み込むような力があったし、フルートのソロは、この楽器としてはかなりよく音が出ていて、速いリズムや幅のある強さが、音色を妨げない。
もちろん、リーダーのトロンボーンも、明るく弾むような演奏で、安定感と遊び心が両立していて、それでいて音が掠れることもない。
そういう意味で、今回の五つのライブの中では、全体としてもっとも充実した内容だったと言えるかも知れない。
初出:2007年9月3日(mixi)
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