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映画『リトル・チルドレン』vs『スキャンダル・ノート』;女優ケイトはスキャンダルがお好き?

 初出:2007年2月1日(mixi)
 さて、最近は、コンスタントに日記を書けていないが、月曜恒例の割引映画は、実はきちんと観ている。この2週間で観たのが、上記の2本。日本ではまだ邦題がついていないようだが、『リトル・チルドレン;Little Children』と『スキャンダル・ノート(筆者訳);Note on a Scandal』だ。実は、この映画、両方とも女性のスキャンダルもの。前者は既婚で子供のいる専業主婦と専業主夫のいわゆるダブル不倫で、後者は家庭のある女教師と15歳の男子生徒。しかも、スキャンダルの渦中にある女優は2人ともケイト。前者がケイト・ウィンスレットで、後者がケイト・ブランシェット。現在大活躍中のこの2人、まだ書き始めたばかりのこの日記でも、ウィンスレットは『ホリディ』に、ブランシェットは『バベル』に、すでに登場している。もっとも、私は『バベル』のブランシェットには全くふれていないが…。
 そういう訳で、何かと共通点の多いこの二つの作品を、今回は扱ってみたい。ちなみに、この二つは、いつも割引の日に通っていた映画館ではなく、同系列のシーダー・リーという映画館でしか上映していない。まあ、大人向けの刺激のある映画はこちらということだ。割引ということもあるが、やはり皆さんスキャンダルはお好きなようで、昼だというのに、客は決行はいっている。まあ、どちらも大胆なセックスシーンもあることだし。でも、90歳近いおばあさんや、70代くらいの老夫婦などが結構多いのを見ると、ちょっと微妙な気分である。
 で、本題だが、結論から言うと、今回の「ケイト対ケイト;スキャンダル女優対決!!」(日本のスポーツ紙みたい)は、ケイト・ブランシェットの『スキャンダル・ノート』に軍配をあげざるを得ません。
 『リトル・チルドレン』は、すでに幾つかの映画賞も受賞していて、とくにケイト・ウィンスレットは、アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされるなど、熱演である。いわゆる濡れ場も大胆に演じ、というか、この映画の最大の売りは、そこじゃないかと思われるほど、しっかり脱いで、セックスに溺れる様を演じている。またアカデミーでは、脚色賞と助演男優賞にもノミネートされている。助演男優賞候補のジャッキー・アール・ヘイリーも、少女性愛者という役柄を、アメリカ映画にありがちな、単なる俗悪な変質者ではなく、母親の愛に守られながらも、内気で人並みに成長しきれない繊細な人物として、好演している。だから、個々の俳優の演技ということでみれば、この作品は、確かに、悪くはないのだが…。
 しかし、しかし、しかし、である。
 率直に言って、作品自体の構成が…。これは、ベストセラー小説の映画化だということなので、原作にそもそも問題があるのかもしれないが、全く必然性のない二つのストーリーが、無理矢理一つのストーリーとして結合されている、という点で、まず無理がある。つまり、本来のスキャンダルである、ケイト・ウィンスレットの不倫は、それ自体として進行するのだが、それと同時に、変質者ジャッキー・アール・ヘイリーのストーリーも、平行して語られる。ところが、この二つの間には、何の接点もない。というか、無理矢理接点を作り出しているだけで、作品のテーマにとって、この変質者がなぜ必要だったのか、全くわからない。では、不倫自体がメインテーマかというと、そうでしかあり得ないのに、そう成りきっていない。この束の間の性愛が、どのように必然的であったのか、どのように単なる浮気と、単なる遊び、単なるポルノと違うのか、それが、まったくわからないのだ。全体としては、高所得者の集まる恵まれた高級住宅地の住人が、暇と金をもてあましつつ、見栄を張りながら、子育てをし、暮らしている世界。そこで、そのような俗物的な価値観を共有できない女と男。それが、たまたま出会ってしまった…。というような設定で、まあ、同じ地区に住む変質者の男も、そうしたアメリカ社会の見栄と建前の嫌らしさを際だたせるための道具立て、ということなのだが…。私には、そのような道具立て自体、そして、主役2人の不倫愛自体が、作者の意図とは異なって、人間の本質に迫るようなものには感じられなかった。    
 まあ、原作者トム・ペロッタも、監督トッド・フィールドも、軽いんだろう。アメリカの理想的家庭の虚飾を暴く、というテーマでは、すでに成功した映画『アメリカン・ビューティー』があるだけに、小説家も映画監督も、もう少し主題を掘り下げる努力が必要だ。
 それでも、一応、この映画を観ていて楽しめるのは、ひとえに、ケイト・ウィンスレットやジャッキー・アール・ヘイリーなどの、存在感と演技力のおかげ。だと思う。おそらく、客の多くは、彼らを観るだけで、もちろんスキャンダラスで大胆なシーンが期待通りだったことを前提として、満足して帰って行ったことだと思う。
 というわけで、次のケイトだが…。長くなったので、次の日記に。

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