
公開保育で寄せられた質問に答えて:改革を進めるためには?
先日行われた、スマートエディケーション主催の公開保育を通じて、多くの感想や質問をいただきました。
今回は2つの質問から、園の改革について書いてみたいと思います。
いただいた質問
一斉保育から子ども主体の保育に移行するために必要なことは何か。また、管理者として何から始めればよいか?
ICTの導入において、職員間でどのような話し合いがあり、導入が決まったのか知りたい。家庭でゲームの時間が増える中での導入には勇気が必要だと思った。
これらの質問を受けて、私自身がこれまで行ってきた保育改革の経験や考えを踏まえながら回答をお伝えしたいと思います。
改革とはリスクとリターンの両方がある
私は、向山に赴任して十数年になりますが、この十数年は改革の歴史といえるかもしれません。
保育改革のほかに働き方改革 AI・ICT導入 園舎の建て替えなど、向山は常に変化し続けています。
組織における改革は、期待するリターンに対して、大小のリスクが必ず伴います。
保育改革
リターン:保育の質の向上、園児数の増加、保護者の満足度向上、子どもの将来に与える良い影響。
リスク:保護者や職員の反発、説明責任の増加、園児数減少の可能性。
働き方改革
リターン:保育者のワークライフバランスの向上、働きやすい環境による人材確保、業務効率化による職員間の連携強化。
リスク:残業禁止や勤務時間短縮への職員からの反発、制度運用に伴うコスト増加、新しい勤務体制への移行による混乱。
AI・ICT導入
リターン:保育業務の効率化、保育者のICTスキル向上、子どものデジタルリテラシーの育成、保育現場の時代適応力の向上。
リスク:導入に伴う費用やメンテナンスコストの負担、保護者や社会からの批判、新しいツール習得における保育者の負担。
園舎の建て替え
リターン:耐震性や衛生面の向上、安全で時代に合った保育環境の提供、地域からの評価や支持が高まる。
リスク:運営予算への負担、建て替え期間中に保育環境や運営体制の混乱、工期の遅延や予算オーバーといったトラブルが起きる可能性もあり、自分の業務負担は増大。
こうしたリスクを最小限に抑えつつリターンを最大化するためには、園全体での取り組みが欠かせません。様々な研究や園の実践を通じて、改革の必要性を管理者として強く感じることもありますが、身の回りで様々な反発が起こるのも事実です。
人間も組織も『変化を嫌う』傾向があるため、改革は「ハイリスク・ローリターン」と見なされがちです。そのため、「全員が納得して進める」という理想を追い求めるよりも、最終的には管理者として決断を下し、改革に踏み切る必要があると感じています。
管理職としての役割と覚悟
私が副園長として改革を進めていくうえで感じるのは、管理職としての責任の重さです。最終的なトップではありませんが、実務的な判断や責任を担い、現場での実践を進める役割があります。
そのため、改革を進める際には、様々な批判や不安、時には孤立を経験することもあります。しかし、改革を進める者、言い出しっぺとしての責任があると思っています。
私の考える『責任』とは「何か失敗したら責任を取って辞める」ということではなく、「続ける覚悟を持つ」ことだと考えています。
園児数の減少や保護者からの反発があっても、問題に真摯に向き合い、中長期的で俯瞰的な視座になったうえで、必要だと思った改革・改善を続けることが重要です。
改革を成功させるためのポイント
改革を進めるには、周囲との信頼関係や準備だけでなく、実行に移す際の心構えや戦略が重要です。ここでは、私が実際に取り組む中で意識している4つのポイントを、具体的に掘り下げてお伝えします。
1. やりたい方向性を言語化する
改革を進める上で最初に必要なのは、目指す姿を具体化し、それを自分の中で明確にすることです。
組織の理念といわれることが多くありますが、自分がやりたいことを言語化するというのは、意外と難しいものです。
長い言葉で対話的には話すことができても、一言でバシッ!と言い当てるためには結構詰めて考えておかなければなりません。
組織の理念を考えるのは、それなりの時間がかかりますが、園の大きな方針転換をするのであれば、走りながらでもいいので、何をしたいのかということを、一言にまとめておくといいと思います。
迷いや反対意見が生じたときこそ、「なぜこの改革をするのか」を何度でも言葉にして伝え直す手掛かりになったり、自分の心が折れないようにするための杖になると思います。
2. トップダウンで進める覚悟を持つ
改革には賛成だけでなく、反対意見や懐疑的な声もつきものです。
すべての意見を平等に取り入れようとすると、結局何も決まらず、改革が滞ってしまいます。
もちろん、職員や保護者の声を聞きながら進めることは大事ですが、最終的には管理者が責任を持って決断するトップダウンで進める必要があると私は思っています。
いろいろな方の意見の中で、ボトムアップが大切だということを聞きますが、(批判を恐れながら言えば)それはきれいごとです。
もちろん、ボトムアップで円満にみんなで進むこともありますが、特に改革をする際には、今組織にいる人の意見が全員間違っていることだってあります。
たとえば、働き方改革で残業の原則禁止を打ち出したり、持ち帰り仕事の全面廃止を掲げた際には、「それでは仕事が終わらない」「自由にできないのは息苦しい」というような反発もありました。
しかし、その先にあるワークライフバランスの向上や保育者確保といった大きな目標を信じ、改革を断行したうえで、反発にも丁寧に対応しながら進めてきました。
ボトムアップやみんなで考えるというのは大切なことではありますが、最終的にリーダーの役割として、トップダウンで進める必要が必ずあると思います。
3. 師匠を持つこと
改革を進める中では、自分の決断や方向性に迷うことが必ずあります。そのときに役立つのが、自分の中で「この人ならどう考えるだろう」と思える師匠を持つことです。
私は、「英則先生ならどう考えるだろう?」「若月先生ならどう伝えるかな?」「高橋先生なら何て言うんだろう?」といったように、自分の中で目標とする人物になったつもりで考えたりすることがあります。
もちろん、うるさいほどに質問させていただくことも多いのですが、直接の対話がなくても、尊敬する人物の考えや行動を想像するだけで、自分だけでは出せなかった答えが見つかることがあります。
このような「心の中の師匠」は、どんなに孤独な状況でも助けとなる存在になると思います。
4. 小さな一歩を大切にする
改革を始める際、全体を一気に変えようとすると、多くの課題が噴出し、進めるのが難しくなります。重要なのは、まずは小さな一歩を踏み出し、その成功を積み重ねることです。
例えば、音声入力の導入では、まず年長に短期間だけ試験運用をさせてもらい、問題点を洗い出しました。その成果を職員と共有しながら、最終的に全体で行うことを決めました。
一つの小さな成功が次の段階への土台となり、結果として改革が加速していきます。
行動することが最大のカギ
改革の過程では「失敗したらどうしよう」という不安がつきまといます。しかし、失敗を恐れて何も行動しないことが、最大の失敗だと私は思っています。
一歩を踏み出し、改善を重ねる中で、園全体が次第に変わっていきます。その過程で生まれる小さな成功や新しい発見が、次の挑戦の土台となることがよくあります。
変化の大きい時代だからこそ、恐れずにこれからもチャレンジしていきたいと思います。この記事が、改革に挑戦する皆様の参考になれば幸いです。