「ないなら造ろう」 せっかくおいしいりんごがあるから、おいしいりんごのお酒が飲みたかった
りんごをかじった瞬間、みずみずしさが口いっぱいに広がる。
りんごがもつ清涼感に、刺激的な炭酸、ホップの爽やかな香りを感じ、グビグビと飲み干したくなるのが「紫波サイダリー」のハードサイダー。
搾汁したりんごを発酵させて造るお酒を、主にアメリカでは「ハードサイダー」、ヨーロッパ(特に仏)では「シードル」と呼び、世界各地で親しまれています。
ただ、日本ではビール、日本酒、ワインに比べると、日常的にりんごのお酒を飲んでいる人はまだまだ少ない印象です。
「せっかくおいしいりんごがあるのに、なんでりんごのお酒を造らないの?」
このふとした疑問から、岩手県紫波町でハードサイダーを造りはじめたのが、紫波サイダリーの代表ハワード・ジェフさん(写真右)と、醸造家のワレニウス・ミカさん(写真左)。
今回、紫波町に移り住んで10年以上になるミカさんらに、「はじまりの学校」から委託醸造を依頼。
日本酒、ワイン、シードルなど、紫波町の多様な醸造文化を「ミックス」するというコンセプトのもと、紫波町産の米・ぶどう・りんごを使って醸造酒を造るという、今まで誰もやったことがないジャンルのお酒が完成。その名も「はじまりのハードサイダー」。
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醸造家のミカさんに聞いてみたかったのは、
そもそも、どんな経緯で日本へ移住し、紫波町でりんごのお酒を造ることになったのか?
「はじまりのハードサイダー」の開発秘話とともに、ミカさんと紫波町の出合いについてインタビューしました。
【プロフィール】
コンセプトは「ミックス発酵」
──今日はよろしくお願いします。今回発売される商品について教えていただけますか?
「紫波サイダリー」のワレニウス・ミカです、よろしくお願いします。今回造ったのが「はじまりのハードサイダー」という商品です。
通常のハードサイダーはりんごの発酵によって造られますが、この商品はその過程に麹米とぶどうの皮も添加した、いわゆる「ミックスファーメント(ミックス発酵)」という新たな手法に挑んでいます。
──お酒の原料にりんご、ぶどう、お米を使っているんですか! なぜその3種類をミックスしたんですか?
紫波町はお酒造りの盛んな町です。りんごを使ったサイダリー、ぶどうを使ったワイナリー、お米を使った日本酒の酒蔵がそれぞれある。そんな紫波の醸造文化をぜんぶ「ブレンドする」というコンセプトですね。
──どういった味わいですか?
りんごの果実感がお米とうまくブレンドすることで、日本酒がもつ軽やかさ、まろやかさのあるお酒になりました。りんご酸、白麹のクエン酸、ぶどうの皮がもつ酸、それぞれの酸のニュアンスが混ざった、けっこう刺激的なお酒になっています。
発泡感があるので、乾杯のお酒としてもいいと思います。シャンパンとは違って、お祝いのときだけじゃなく、仲間と集まって一緒にわいわい食事をするシーンに飲んでもらえると嬉しいです。
日本での「飲みニケーション」が楽しかった
──そもそもミカさんが紫波町にやってきたきっかけを聞いてもいいですか?
育ったのはアメリカのシアトルのほうですね。大学時代に1年ほど、東京の大学に留学しました。留学を終えてシアトルに戻ったとき、日本に戻りたいという気持ちが強かったんです。
──日本での生活が楽しかったんですね。どんなことが思い出に残りましたか?
とにかく今までの人生にない経験ばかりだったので。特に、大学で新しくできた友達やサークルの仲間たちとの、高田馬場での「飲みニュケーション」が楽しかった(笑)。
──いちばんの思い出が、飲みニケーション(笑)。
学校の勉強より、そっちの交流が楽しかった。サークルは1つが囲碁部で、もう1つが早稲田インターナショナルサークル、これは飲み会の多いサークルで若い自分には向いていましたね。そこで毎週のように飲んでました。
日本にまた行けばそんな楽しい日々が続くのでは?と思って、2007年に再来日して、紫波町の隣町で英語教師を4年半ほどやりました。2012年から紫波町に移って、小中学校の英語教師を8年ほど勤めました。
子供たちとの交流は楽しくて、仕事はけっこう真面目に頑張っていました。自分の知識を教えることもできますし……この場合は「英語が得意」って言えばいいのかな(笑)。
おいしいりんごがあるのに、りんごのお酒がなかった
──英語が得意(笑)。仕事に楽しさ、やりがいを感じる中で、どうしてお酒造りを仕事に?
英語教師をやって10年が経ったときに、将来への悩みが出てきました。英語教師を続けようと思えば続けられたけど、新しい職にチャレンジしたいという思いがあって。そのときに考えた職業の1つがお酒造りでした。
──なぜお酒造りに興味が?
出身地のシアトルがワイナリーやブリュワリーの多い町で、その影響で興味を持ったのかな。紫波町に来て、町内にある4つの酒蔵で日本酒を飲んで、初めて日本酒のおいしさも知りました。だから、紫波町の影響も大きかったと思います。
──シアトルと紫波町、どちらもお酒の文化が盛んな地域ですからね。
そうなんです。日本酒、ワイン、ビールの醸造も考えました。そのとき、選択肢に唯一入ってなかったのがりんごを使ったハードサイダーでした。
──ハードサイダーは候補じゃなかったんですね。
僕が将来に悩んでいたとき、元々交流のあったハワードさん夫婦に「オガール祭り」というイベントで久々に会ったのが転機でした。
ハワードさんとお酒を飲みながら、「実は、私と奥さんもお酒造りを考えてるんだ」と、どんどん夢が膨らむ濃い話になっていって…。
──人生の転機にいつもお酒がありますね(笑)。
そうかもしれない(笑)。それから1〜2ヶ月後に、ハワードさんからチームを組まないかという相談が来て、そこからがスタートです。
──誘われたときはどう思いましたか?
嬉しかったです。ようやく次のステップに進めるなと。将来を考えているときに気づいたのが、1人で何かを始めるのはなかなか難しい。モチベーションの維持もそうだし、自信を持って行動することも。この仕事は、チームじゃないとできなかったと思うんです。
──チームを組んで、そこからお酒造りがスタートしていくわけですね。
ハワードさん夫婦は元々ニューヨークに住んでいて、ハードサイダーをよく飲んでいたみたいで。紫波町に引っ越しても、ハードサイダーがどこにも見当たらない。「せっかくおいしいりんごがあるのに、なんでりんごのお酒を造らないの?」という疑問から、自分たちで造るしかないなと。それがハードサイダーを造りはじめた経緯ですね。
酒造りはトラブルだらけで心が折れた
──実際のお酒造りはスムーズに進みましたか?
最初から今までトラブルだらけでした。大変です。事業をゼロから始めると、想定外のことがたくさん起きて、毎日坂道を歩いてる感じですね。
──どういったトラブルが?
いやぁ、たくさんあるからどれにしようかな…(笑)。
お酒の造り方から、設備の輸入、製造免許、建物のリフォームまで、本当にわからないことだらけ。インターネットで検索しても、具体的な答えが見つからない。お酒造りで「失敗したな」とわかるのは、実際に製造した段階なので、とにかく失敗してやり直しての繰り返し。
──失敗しながら手探りで進めていくしかなかったわけですね。
最初の計画から初めてのお酒ができるまで、5〜6年はかかりましたね。いやぁ、本当に長かった。
──はじめてお酒が完成したときはどうでしたか?
お酒が瓶に入って商品になった瞬間は、やっぱり嬉しかった。とりあえず、ものはできるぞという自信にはなりました。
ただ、お酒の製造をはじめて1〜2年はずっと忙しくて。1年目は毎日休みなく夜まで仕事で、2年目でちょっと余裕は出たものの、理想の工程がつかめず試行錯誤の連続でした。1〜2年目はゾンビ状態、3年目で人間に戻って、いまが4年目。ようやくいろんなアイデアを実現できるようになってきました。
──ここまでくるのに、そんなに大変だったんですね…。
そうですね。ちゃんと心は折れました。1人だったら途中で諦めていたかもしれません。チームがあるおかげで、なんとか踏みとどまった。
地域のみなさんからの応援も本当にありがたかったですね。もう感謝だけです。
──応援というのは?
アメリカ人ということで、目立つからかもしれないですが、新聞にもよく載せていただいて。地域の人から「新聞で見ましたよ」「お酒、おいしかったよ」と、温かい声をかけてもらいました。お年寄りの方から急に話しかけれらて、「あなたもしかして、りんごの『おビール』を造ってらっしゃる方?」って(笑)。
──りんごのおビール(笑)。
他にも、近所のコンビニや販売店に商品を置いてもらったり、みなさんからの応援が力になってますね。
──飲んだ人からの感想はやっぱり嬉しいものですか?
学校の仕事と違って、今の仕事では人と会わない日々が多いんです。下手すると、お酒造りの期間は1週間で誰にも会わないこともある。だから、飲み手との交流はやっぱり嬉しい。毎日の苦労が「何かになってる」という確かな手応えになりますね。
ビール、ワイン、日本酒のように「食卓にハードサイダーを」
──紫波サイダリーの今後の展望を教えてください。
僕は商品のアイデアを考えるのがとても楽しい。当初はホップを添加するホップサイダーのみを造っていましたが、3年目からどんどん新しいアイデアに挑戦しています。スパイスサイダーだったり、冬にはシナモンやジンジャーを使ったり。
紫波町は農業が盛んな町なので、地元の原料でお酒を醸造できる強みがあります。これからはりんご農家さんだけじゃなく、地元のいろんな農家さんとコラボして様々な原料を使ったお酒造りにチャレンジしたいと思っています。
あともうひとつ。ブリュワーなど造り手とのコラボもやっていきたいです。
今回の「はじまりのハードサイダー」は、ぷくぷく醸造の立川哲之さんとコラボしました。立川さんはお米を使った「その他の醸造酒」を造っている方なので、醸造にお米や麹米をどう使えばいいかを彼に教わりながら、今回の商品を仕込みました。
ずっと原料にお米を使いたい気持ちがあったので、これからの醸造にお米や麹米を使う機会も増えると思います。
──原材料や人の掛け合わせによって、いろんなお酒が生まれていきそうですね。
そうですね、お酒造りにも慣れて、ようやくワクワクするアイデアをかたちにできそうです。ハードサイダーは日本ではまだ新しいジャンルのお酒なので、普段から食卓に並ぶようなお酒にしたいですね。家で飲むとなったらビール、ワイン、日本酒、焼酎が多いと思うんですが、そのなかにハードサイダーが入ると嬉しい。まずは酒のまち・紫波町からその文化をつくっていけたらと思っています。
この「はじまりのハードサイダー」にはいろんな人の想い、力が入ってるので、みんなに飲んで欲しい。本当にめちゃくちゃおいしいですから。
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