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「御社の独自性は?」「ありません」 品質至上主義ではなく、誰でもマネできるものづくりにこだわる理由


こんにちは、「はじまりの学校」公式noteのライターを担当する山田和正です。

みなさん、岩手県紫波町にあるハードサイダーブランド「Green Neighbors Hard Cider(グリーンネイバース ハードサイダー)」をご存知でしょうか?

ハードサイダーとは、りんごを原料としてつくられる発泡性の果実酒のこと。僕はグリーンネイバースのハードサイダーを飲んだとき、そのおいしさに衝撃を受けました。

はじめてグリーンネイバースを知ったのは2022年。友人である料理人・井上豪希くんが、「ひづめゆ」という銭湯のスパイスカレーを監修したと聞いて、食べに行きました。

紫波町にある地域をつなぐ温浴施設「ひづめゆ」


銭湯でスパイスカレーなんて、最高じゃないか。

そんなことを思いながら、ひづめゆに到着すると、受付のお隣に「Green Neighbors Hard Cider」の醸造所とタップルームを発見!

(撮影:井手勇貴)


銭湯に併設された醸造所!?!?

ズラッと並んだ12のタップから、目の前のタンクで造られたハードサイダーを飲むことができるという。

(撮影:井手勇貴)


これってアレですよね…

ひとっ風呂浴びて、ハードサイダーを飲めってことですよね…

(撮影:井手勇貴)


このハードサイダーが格別にうまかった。

クリーンな酸味に爽やかなりんごの香り。どこまでも自然で心地いい味わいに、ゴクゴクと一気に飲み干してしまいました。

(撮影:井手勇貴)


さらにあたりを見回すと、風呂あがりのお客さんがグリーンネイバースのスタッフに「元気にやってる?」「実はこんなことが最近あってさ…」と、楽しそうに雑談している光景が。そんな気持ちいい空間で飲むハードサイダーに、なんだかとても癒されたのを覚えています。

それが僕とグリーンネイバースの出会い。


そして今回、はじまりの学校と「Green Neighbors Hard Cider」のコラボ商品が登場。

クリーンで爽やかな酸味が特徴。摘果りんご&摘果ぶどうをブレンドした「はじまりのハードサイダー #02」。


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新商品の取材にかこつけて、Green Neighbors Hard Cider醸造長の及川貴史さんに、ハードサイダーのおいしさと居心地のいい空間の秘密について聞いてみたい。そう思い、インタビューをオファーしました。

及川貴史(おいかわたかし)/Green Neighbors Hard Cider醸造長
岩手県大船渡市出身。2019年9月、それまで盛岡市で営んでいたクラフトビール専門店を閉業し、造り手の道へ。約2年の準備期間を経て「Green Neighbors Hard Cider」を岩手県紫波町にて立ち上げ、2022年9月より醸造を開始。


話を伺っていくと、大の酒場好きである及川さんが「理想の酒場」とは何かを考え、試行錯誤のなかでたどり着いたのがハードサイダーだったという。

「及川さんにとって“理想の酒場”って、なんですか?」

及川さんと理想の酒場をめぐる「まじわり×はじまり」の物語をうかがいました。



酒場はすべてが揃って、いい表現になる

──まずは、醸造家になろうと思ったきっかけから聞いてもいいですか?

醸造家になるまでは、盛岡でクラフトビールの専門店を経営してました。そのときに自分でクラフトビールをつくりたいと思ったのが出発点です。


──最初はクラフトビールをつくりたかった。

そうですね。クラフトビールに出会った16年前は、世の中にまだ「クラフトビール」という言葉がない時代で。都内のクラフトビールを扱う店を全部回って、みんながまだ知らないだけでこれは面白いぞと。


──クラフトビールのどこに魅力を?

多種多様なビールがある幅の広さと、つくり手との距離の近さですかね。それまでのビールは目に見えない、手の届かない場所でつくってるイメージがあって。それがクラフトビールになると、つくり手に直接会えるので、その人柄に魅力を感じて飲みたくなる。


──「人柄」で飲みたくなる。

最初の品質がそこそこでも人柄に魅力があると、不思議と絶対に良くなっていくんです。自分でお店をやるようになってからも、取り扱うビールはそういう基準でけっこう選んでましたね。


──好きがこうじて、お店をはじめるわけですか。

2009年に弘前で焼鳥屋をやったあとに、2014年に盛岡でクラフトビールの専門店「クラフトビア ホッパーズ」を開業しました。酒場が大好きだったので、酒場を表現したくなった、それが動機です。

「クラフトビア ホッパーズ」時代の及川さん


──酒場を表現?

酒場はすべてが揃って、いい表現になると思うんです。料理、接客、空間、コンセプト、もちろんお酒も全部。いまはお酒も含めて表現できるようになったわけですが。


──そんな及川さんの理想を体現してるお店ってあるんですか?

これ、あまりしゃべったことないんですけど…。 


大船渡の小料理屋での思い出


──ぜひ聞かせてください。

20歳ぐらいの頃、毎週のように通っていた、地元・大船渡の小料理屋があって。おばあちゃんが2人でやってる。


──へぇー! 大船渡の小料理屋ですか!

朗らかなおばあちゃんが、笑顔で迎えてくれるんですよね。料理もおいしかった。ショーケースの瓶ビールを「おばあちゃん、ビール1本もらうよ」と勝手にとって、飲み始められるようなお店で。居心地がすごくよかった。


──めちゃくちゃいいですね。

もう癖になっちゃって。飲みに出かけると一軒目は必ずそこから。そのときから、酒場はパブリックな場所っていう意識があるんです。


──パブリックな場所?

酒場って、年齢、性別、立場に関係なくコミュニケーションできる空間じゃないですか。だから、酒場で高圧的になる酔っ払いのおじさんがとにかく嫌だったんです。酒場はそうじゃねぇだろって。


──いますよね(笑)。

勝手に締め出してましたね。

──ええー! 20歳の及川さんが!

そりゃあ、しますよ。そのぐらいその場所が好きでしたから。あそこがなかったら、こんなに酒場好きになってないですね。はじめてがすごく心地のいい体験でした。


──そこでの経験が、今につながるわけですか。

ええ、あの頃から感覚は何も変わってない。僕の理想が詰まってます。そのときから、いつか酒場をやろうと、一貫して思ってきたんですよね。それから開業資金を集めるために、トラックの運転手、リフォームの営業マン、ホテルの支配人、いろいろやりましたよ。


クラフトビールを追い続けた人生を自己否定した


──念願叶ってクラフトビールのお店を開いたのに、どうしてクラフトビールじゃなくハードサイダーをつくるに至るわけですか?

いよいよ本気でビールづくりに取り組もうとする中で、あるブルワリーの事業説明会に参加したんです。


──ええ。

そこで、クラフトビールを地域の農業と深く関係づけない「工業製品」と捉える人たちに出会ったんです。その人たちが「世界最高の原料を集めて、この地域から世界に誇れるビールをつくる、それが地域への貢献だ」と言い切ったんです。あっ、僕はこれじゃないなと思った。


──地元の農業に還元できないビールづくりに違和感があったと。

はい。たしかに、クラフトビールは副原料に地域のものを使ったり、地域性に富んだ商品が多いですよね。


──そのイメージがあります。

でも、よくよく考えたら、ビールの主な原料になるホップもモルトもほとんどが海外産なんです。大部分の原料が輸入なのに「これが地元のビールです」と言ってることに、違和感を感じるようになったわけです。


──そこで「クラフトビールで本当にいいのか?」と迷いが出たわけですか。

それだったら地域で100%の原料を賄える、日本酒やワインのほうがよっぽど地元に還元できる。ローカルをキーワードに盛り上がって、材料は海外に依存するものづくりって矛盾があるじゃないですか。


──ああ、なるほど…。

それまで時間と労力とお金をかけて、クラフトビールを追い続けた人生だったわけです。そんな今までの自分を否定してしまったというか。改めて自分の答えを探すことになって、そのタイミングでハードサイダーに出会うわけです。


世界のコンペで賞を取るより大切なこと


──なぜハードサイダーだったんですか?

シンプルな考えなんです。目の前にあるじゃないですか、りんごが。地域で全部を賄えるもので、自分たちが飲みたい、つくりたいお酒をつくる。さらに、そのお酒がその場所で瞬間的に蒸発するぐらい人気があるものになったら、一番幸せだなって。つくりがいがあるなって。

(撮影:井手勇貴)


──地域の原料を使って、自分が飲みたいものを地域の人に楽しんでもらう。すごくシンプル。

「いいじゃん、これで」ってストンと思えたんです。例えば、他の地域の原料を使えば、品質として120点のお酒ができるとします。でも、近くの農家さんのりんごを使って、僕の努力で90点を出せるなら、そっちのほうが飲んでいてストレスがないんですよ。

──品質を突き詰めるより、地域との関係のなかでものづくりをすることが大事だと。

世界のコンペで賞を取るより、僕のなかでは圧倒的に価値が高い。そこまで品質至上主義ではないので。


──でも、飲んだときおいしさに驚きましたよ。

うれしいです。「自分が飲みたい、つくりたい」を表現してるので、褒められたときは自分の全てを肯定される気分です。僕も毎日飲んでますし。


──毎日ですか!

「自分の日常生活で飲むか?」って大事じゃないですか。自分が純粋にいいと思うものを選ぶようにしてるので、原材料はりんご果汁と酵母のみ。酸化防止剤は無添加、無濾過、非加熱で仕上げています。

──だから、もぎたてのようなりんごのフレッシュ感があるんですね。

材料もつくり方も、ものすごくシンプルなんです。醸造所をやってると、いろんな場面で「御社の独自性は?」「他社との差別化は?」って聞かれるんですね。


──なんと答えるんですか?

「いや、ありません。誰でもすぐにつくれますよ」と。でも、このやり方に物足りなさを感じたことは一切ないですね。専門家からは「それで生き残っていけますか?」とか言われるんですけど、大きなお世話だよと(笑)。


僕の仕事は、飲み仲間を増やすこと


──自分が飲みたいものをつくって、飲んでもらえる場所もあって、いま理想のかたちに近いんじゃないですか?

まだまだ理想には程遠いですね。地域の人にとって、ハードサイダーがもっと日常的なお酒のひとつになってほしい。「僕の仕事は何ですか?」と聞かれたら、「飲み仲間を増やすこと」だと言ってるんです。

──というと?

このやり方に共感してくれる仲間を少しずつ増やしたい。地域のりんごを負荷なく使って、ハードサイダーをつくる仕組みがうまくいけば、醸造所がもっと増えるはずなんです。紫波町はりんごをつくってらっしゃる方がすごく多いので。


──りんごは多いのに、お酒のつくり手はまだまだ少ないわけですか。

ええ。僕たちはりんごも育ててないし、ジュースも絞ってないし、工場さえ確保して醸造のスキルさえあれば誰にでもマネできる。僕らがこの仕組みで成功することがはじまりになって、つくり手がもっと増えればいいなと思います。


──つくり手が増えると、また景色が変わりそうですね。

ハードサイダーの醸造所が増えて、いつか振り返ったときに、あの頃がハードサイダーの黎明期だったよねって。クラフトビールの黎明期に味わった盛り上がりを、ハードサイダーでも味わえたら最高だなと思ってます。


及川さんが手がける「はじまりのハードサイダー #02」の販売が開始しました!

▼オンラインストアの購入ページ

​​摘果りんご&摘果ぶどうのクリーンで爽やかな酸味。

紫波町を拠点とするハードサイダーブランド「Green Neighbors Hard Cider」との初コラボ商品が登場!

通常の生食では活用されない摘果(※)りんごと摘果ぶどうの果汁をブレンドし、醸造したのが新商品「はじまりのハードサイダー #02」です。生食用のりんごに比べて、成熟する前に摘果したりんごはスッキリした甘さとシャープな酸味が特徴。そんな摘果りんごを使ったハードサイダーのゴクゴク飲みたくなるシンプルな味わいにポテンシャルを感じているのがGreen Neighbors Hard Cider 醸造長の及川さん。

そんな及川さんが今回、はじまりの学校とのコラボで初めて「摘果ぶどう」の使用に挑戦。摘果りんごの果汁に、紫波町でぶどうを栽培する「domaine Hasipa(ドメーヌ ハシパ)」の摘果ぶどうをブレンドし、ハードサイダーにぶどうのふくよかな果実味をプラスすることにチャレンジしました。

できあがった商品の味わいは、クリーンでドライ。りんごとぶどうの爽やかな酸味を感じ、その香りは畑で果実をもいだ瞬間のようにフレッシュ! 炭酸の爽快感、酸によるキレ、りんごとぶどうのスッキリとした甘さのライトで飲みやすい仕上がりなので、オールマイティにどんな料理ともよく合い、新定番の食中酒として可能性大!

「目の前でとれた原料を使い、目の前の人に喜んでもらう」をお酒づくりのモットーにする及川さんの人柄を現すように、シンプルで清々しいおいしさの1本が誕生しました。摘果りんご&摘果ぶどうの魅力が詰まったハードサイダーをぜひ味わってみてください!


※・・・摘果とは、1本の果樹から最適な数だけ果実を残し、余分な果実を剪定する作業のことを指します。市場に出回ることがほとんどなく、通常は廃棄されてしまう摘果された果実を有効活用しています。


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