けんじの日記3
はじまりの美術館企画展「(た)よりあい、(た)よりあう。」の出展作家しらとりけんじさんは、展示室の中に「けんじの部屋」を構え、猪苗代町および はじまりの美術館にて滞在を行なっています。
滞在は4月17日から7月11日までの展覧会会期の約3ヶ月間。しらとりさんは毎日、展示室で過ごしてお客さんとお話されたり、散歩に出かけて1日数百枚の写真を撮影されたりしています。
ここでは、美術館に滞在する日々の中で起きた気持ちの変化やできごとなどを、しらとりさんがプロジェクトのメンバーに宛ててメールした、日記のような記録と、その日しらとりさんが撮影した写真の一部をご紹介していきます。
▼これまでの日記はこちらから
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2021年6月10日 6:28「はじまりからしらとり」
みなさん
おはようございます。
しらとりです。
猪苗代で、美術館周辺を歩いていて、
特徴的だなぁと想うのは、やっぱり水の音なんだよね。
こういうのも水路というのか分からないけど、
あちこちから水の流れる音が聴こえていて、歩く時の目印にもなったりしてる。
いかんせん、季節とか時間帯とか雨とか、
変動要素が多いから、あてになったりならなかったりなんだけどね。
あと、車の音なんかで消されやすいのも、ちょっと使えんところだ!
昨日歩いていて、改めて思ったんだけど、今の時期、
猪苗代の風は、冷っと冷たいんだよね。
ここ数日日差しが暑いので、適度な風が気持ちいい!
田んぼに水が入ったからということらしいですが、
これも、猪苗代ならではということかな。
ならではネタをもう一つ。
単独で歩くとき、側溝のふたを辿ることがあるんだけど、交差点になっても、
それまでと同じ感じで、車道を横断しているところがある気がする。
そうすると、俺は曲がり角をスルーすることになって、
しょっちゅう信号無視してるかも......。
まあ、側溝の蓋のせいにするなっていうはなしですが...。
今日は、ちょっと早朝散歩にしよっかな。 そんな、6月十日4時半です。
しらとりけんじ
2021年6月12日 10:36「はじまりからしらとり」
みなさん
おはようございます。
しらとりです。
昨日は、特に何かがあったわけじゃないけど、
ふとした思い付きで、1日のほとんどを、離れで過ごしてましたよ。
来館するお客さんで、しらとりリクエストがあれば、
連絡すると言ってもらったこともあって、のんびり小説なぞ読んでました。 「んー!久しぶりの、今野敏の隠蔽捜査シリーズ、
やっぱりキャラが立ってるよねぇ。」
そして、17時半過ぎに、メール便を受け取りに美術館へ行ったらば、
お客さんがいてにぎわっていたので、ちょっと動揺するしらとり!
まあ、「猪苗代滞在に疲れたらしい」の具体が、例えばこんな場面というわけ。
そう、「滞在に疲れた」というのは、適切な言い回しじゃなくて、
「日常の揺らぎが分かるようになった」ということかもしれない。
日々平和に過ごしていても、誰かと関わっているなら、ちょっとしたイラつきとか、戸惑いや不満・小さなラッキーなど、そんなことはよくあるはず。 そういう意味では、生活が落ち着いてきたからこそ感じられることでもあるんだよね。
だから、望んでいた状況になっているともいえるわけ。
そういえば、5月の半ばくらいまでは、すごく楽しくて興奮してたけど、
あれは、「平和な日々」っていうのとは、ちょっと違うよねぇ!!
さて、今日はどう過ごそっかねぇ!
もちろん、「けんじの部屋」も良いし、
今野敏をもう1冊読むのも引かれる。
いやいや、散歩はしよぉ!
飲みにも行こっかなぁ!
あっ!昼から飲むのも良いよぉ!!
とまぁ、いくつもフラッグが立って、何をしたいのか分からなくなりそうな、 6月12日。
しらとりけんじ
2021年6月14日 9:42「はじまりからしらとり」
みなさん
おはようございます。
しらとりです。
さて、今日は水戸へ帰るわけだけど、
帰るというよりは、出かけるといった気分なんだよね。
3泊4日の、日程がだいたい決まっていて、
「えっと、何と何をするんだっけ?」という感じだし、
かなり本気で、猪苗代に住んでる気になっているらしい。
こないだなんかは、「けんじの部屋」で、お昼ご飯をどうするかと聞かれて、
「家で食べてきたから大丈夫」と答えかけて、
「おいおい!家ってどこだよ!」という突っ込みを入れたくなったという...!
いやはや、そこまで居心地が良いということなんだよね。
はじまりのみなさんのおかげ、といのはもちろん、
ここで知り合った人たちも良い感じ。
それと、自分の適応力というのも、
こんな風に発揮されたかぁてな感じだね。
展覧会終了まで、1か月を切っているわけだけど、
いまだに、自分がどうなりたいかとか、
何かを目指したいというのが出てこないんだよね。
考えてみたら、ここまで自由な気分というのは、
大学に行っていたころ以来のことだから、ずいぶん懐かしい感覚かも。
あれやこれや、いくつか候補はあるけど、どの色にするのか決めかねてる。 いや、今は決めたくないということかもしれないし、
もしかすると、自分の色なんて、すでに決まっているのかもしれん。
まあいいや、ティーンエイジのころから、やってみて確かめるというのが、俺の基本パターンなので、そのうちに何か気付くかもしれない。
あーあ、それもこれもとりあえず放置しといて、
今日はのんびり、水郡線で水戸へ行っと。
6月14日
しらとりけんじ
(※この日はしらとりさんの撮影なし。 写真:はじまりの美術館)
2021年6月19日 10:25「はじまりからしらとり」
みなさん
おはようございます。
しらとりです。
残り3週間だと考え始めたら、何だかそわついてきてしまって、
一昨日なんかは、「急いで猪苗代に帰らなきゃ!」みたいな感じで、
新宿発7時半のバスに乗ったりしてます。
友達が来てくれるとか、取材だとか、幾つか予定が上がってきて、
ほんとに会期末なんだなぁと、何度も日程を見直してしまう。
昨日の朝歩いていたら、自転車の人から、
「気おつけてぇ」と言われたり、
美術館に帰ろうと、少し手前で間違って曲がったら、
「美術館ですか?」と声をかけてもらって、
正しいルートを教えてもらったりと、何だか良い感じ。
今朝の散歩は、雨が降っているので、片道1kmくらいを往復。
いま、雨脚が強くなっているのを見てたら、
ちょっとウキウキしてきてしまって......!
6月19日
しらとりけんじ
2021年6月20日 21:43「はじまりからしらとり」
みなさん
こんばんは、
しらとりです。
昨日と今日は、なかなか中身の詰まった二日間でしたよ!
知り合いの人が来て、いろいろ話ができたり、
オセロとかウノもやったし、
ついに、マッサージもできたので、
軽い疲労感と共に、充実感を満喫しています。
あーあ、子どもたちとのウノやってる場面とか、
誰かとのちょっとした会話とか、
そのままとどめておきたいなぁ、てな瞬間がいくつか。
記憶とか、録音に置き換えてしまったら、
その意味や価値が半減してしまうような、
そんな、平和な時間でしたよ。
6月二〇日
最終日までのカウントダウンはしたくない!!
でも、カレンダーを見ずに、予定を把握することはできなそぉ!!
21時半
しらとりけんじ
(※この日はしらとりさんの撮影した写真なし。写真は はじまりの美術館)
2021年6月22日 12:40「はじまりからしらとり」
みなさん
こんにちは、
しらとりです。
いよいよ、撤収する日程が具体的になってきて、
ほんとに現実として、その日が来るんだろうか、という気分です。
ふと、懐かしいような気がして、
そういえば、はじまりの企画が固まってきたころ、
ほんとに実行するのかなぁ、と考えてたことを思い出しました。
実感が無いというのか、現実味を持てないというのか、
それでも、流れに乗って運ばれちゃうんだよねぇ!
昨日は、ビールの買い出し行ったり、食器棚もいただいて、
まだまだ、離れでの生活充実という感じですよ。
それに、飲み屋では、ボトルキープしようとしたりして、
そちらも、やる気まんまんです!!
いや、悪あがきということか?
ま、どうやら、テンションは上がってきてるらしい。
6月22日
しらとりけんじ
(※6/22はしらとりさんの撮影なし。写真は6/21にしらとりさんが撮影されたもの。)
つづく
しらとり けんじ
1969年、千葉県出身、茨城県水戸市在住。写真家。生まれつき強度の弱視で、12歳ころ光が分かる程度になり、20代半ばで完全に全盲になる。2005年から、デジカメで写真を撮るようになり、時々会話のネタにもなっている。撮影した写真はこの16年ほどで、40万枚を越えている。
本展では会期中「けんじの部屋」として、展示室内にてしらとりがレジデンス予定。
※テキストは原文のまま掲載しております
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企画展「(た)よりあい、(た)よりあう。」は2021年7月11日まで開催中です。
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