けんじの日記1

はじまりの美術館企画展「（た）よりあい、（た）よりあう。」の出展作家しらとりけんじさんは、展示室の中に「けんじの部屋」を構え、猪苗代町および はじまりの美術館にて滞在を行なっています。

滞在は4月17日から7月11日までの展覧会会期の約３ヶ月間。しらとりさんは毎日、展示室で過ごしてお客さんとお話されたり、散歩に出かけて１日数百枚の写真を撮影されたりしています。

ここでは、美術館に滞在する日々の中で起きた気持ちの変化やできごとなどを、しらとりさんがプロジェクトのメンバーに宛ててメールした、日記のような記録と、その日しらとりさんが撮影した写真の一部をご紹介していきます。

2021年4月24日 11:22「猪苗代滞在とけんじの部屋」

みなさん
お世話になります。

こんにちは、白鳥です。

何だか良い感じの波に乗って、気の向くまま過ごしていたら、もう明後日は、水戸にいったん帰る日です。
月並みだけど、速いなぁ！！

この十日間の感じとしては、胸を張って順調といえないまでも、なかなか良い調子で進んでいると想ってます。
もともと、積み上げつつ整えつつ、充実してゆく展示だと考えていたので、慌てず行ければ良いなぁと想ってます。

ということで、写真の展示については、任せっぱなしな感じですけど、よろしくお願いします。
猪苗代で撮る写真も、こないだスーパーまで歩いたりして、撮れる目途が立ってきたので、まずはほっとしているところです。
でも、一昨日から右足のこおの辺りが痛くて、散歩もできず、少々鬱陶しい思いもしてます。
それも、今朝になるとだいぶ楽になって、今日は出歩けそうな感じです。

そうそう、もう一つ、非常にほっとしていることとしては、展示室でのお客さんとの会話が、それほど苦にならないことです。
なにより、お客さんたちの、美術館との付き合い方が良いと思うんですよね。
それプラス、俺も営業活動はしないと決めてます。
「けんじの部屋」に呼び込みするのは、ほとんどしないと思うし、まずは、挨拶を交わせる人と、展示物に反応した方たちに対して、オープンマインドで行くつもりです。

そして、これからの計画！
「協力お願いカード」とか「…ボード」みたいなものを作って、お客さんとか地域の方と、関りを作ってゆこうと思ってます。
まずは、物の提供をお願いしたいです。
主に、離れでの生活のために、家具とか家電とか、家財道具です。
冷蔵庫・電子レンジ・オーブントースター・炊飯器・湯沸かしポット・やかん・食器棚・デスク・どんぶりなどの食器・物干しざお。

それと、散歩協力。
一緒に歩いてくれる人に、白杖を持ってもらって、俺は写真を撮るというやつです。
最初に、しらとりが、歩きながら撮っているのを見てもらって、その後手引きをしてもらいながら、散歩と撮影をします。
３０分とか１時間とか…。
いや、なかなか、滞在製作っぽくなる感じです。

昨日大政さんに言われて、滞在中の、記録とか報告とか、できたら良いなぁと想うものの、どうしましょうかね？

という感じの、４月二十四日です。

白鳥建二

2021年4月27日 9:20「水戸からしらとり」

みなさん

おはようございます。
白鳥です。

昨日、猪苗代から水戸に帰ってきまして、いつも通りの家飲み、いつも通りの朝となってます。
疲れがどっと出ることもないようで、自分でもちょっと拍子抜けしたような感じですね。
なにはともあれ、これで、次の猪苗代滞在も、６週間ばっちり行けそうです！

ということで、ひとまず報告でした。

白鳥建二

2021年4月30日 23:12「水戸からしらとり」

みなさん
こんばんは、 しらとりです。

水戸での予定も着々と進み、先ほど、小曽根真のライヴを見てきたところです。 やぁ!!これぞ贅沢、大満足です!! そして、連続で、明日も聴きに行くという......!!何とも良い気分です。 水戸の飲食店は、時短営業なので、ふらふら飲みに行けないけど、余韻に浸りつ つ、猪苗代のことを考えるのは、いい感じです。 
あっ!もちろん家飲みですけどね!!

そうそう、猪苗代では、楽天で買ったデスクパソコンが到着して、セッティングもほぼ終わってます。
手当たり次第に持って行ったすぴーかーも、訳どころに大路て、配置も決まったし、けんじの部屋も、また少し進みました。

それから、俺が水戸に出発してから、そうめんとか宅配便が来てると想うんです が、それも展示物なので、見えるところに置いてください。 よろしくお願いします。

水戸に来てから、「今ここにいて良いのか」みたいな気分にもなりましたけど、 あせらず悪乗りせず、7月までやって行きたいなぁってな感じです。

ということで、明後日の午後には、猪苗代で活動開始を楽しみにしている、4月 30日です。

白鳥建二

2021年5月2日 18:02「はじまりからしらとり」

みなさん
こんにちは、しらとりです。

昼過ぎに、猪苗代に到着して、早速けんじの部屋にいたりします。 離れだとwi-fiが無いので、ニュースチェックとかは、けんじの部屋でするというのが、何だか良い感じです。

気が付けば5月の連休なんですよね。 俺の中では、4月はどこに行ってしまったんだろう!? てなことを思いながら、水戸から来ました。

昨晩は、水戸芸で、小曽根真のコンサート、二日目を楽しんでたんですが、アンコールのときに、「みなさんに紹介したい人がいます」という流れで、
かんの みすずとか、レコーディングノエンジニヤとかに続いて、盲人白鳥も呼ばれちゃいまして......!!
久々舞い上がってしまって...、がちがち緊張して、まったく棒立ち状態だったと いう感じでした。
でも、ふと想ったのだけれど、「マジシャンの散歩」のときに、小曽根さんが来てくれたのは、「盲人のファンがいて...」ということだったのかもですよね。 だとすると、思いっきり「盲人特権」だったのかもしれないですよね。 そうそう、もひとつすごいことに、マッサージの白鳥じゃなくて、全盲の美術鑑賞者と呼んでくれたので、さすが!!と想ったわけです。

というわけで、平常心で行こうと、改めて考えてる、5月二日です。

しらとりけんじ

2021年5月4日 11:14「はじまりからしらとり」

みなさん
おはようございます。 しらとりです。

大政さんに煽てられて、とりあえず報告がてら、些末な文章を書き始めましたが 、「けんじの部屋」の出来事なんかは、むしろ書き留めておきたい気分にもなっ てます。

お客さんから、「しらとりさんの表現は何ですか」みたいなことを聞かれて、 「そもそも写真の展示があって、日常という流れで、こんな転回です」、 てなことを話したんですよ。
 でも、俺の中では、カメラのボタンを押したときに、ほとんど完結しているので 、「表現」と言われれば、撮影している行為そのものという気がしてきました。 うん、それなら、映像に対して執着が無かったり、展示のアイディアが出てこな いのも、納得してしまう。
 考えてみれば当たり前だけど、写真の何にこだわって、どこにたどり着くのかは 、作家にしても見る人にとっても、それぞれのストーリーなんだよね。 俺は、あらき のぶよしの「母子ヌード」というのが好きでして、といっても見 たことは無いんですよ。
 いつだったかテレビで、撮影場面を見たことがあるだけなんだけど、 「あらきが撮る母子ヌードなんて、良いに決まってるじゃん!」と強く想ったわ けです。

5月三日のけんじの部屋は、結構長い時間にぎわってまして、親子とかカップルに点字を教えたり、知恵の輪やったり、「ウノやろうよ」といわれたけど、それはパスしたです。(笑い)
そんな感じで、お客さんと一緒に座卓にいるのも、なかなか良いなぁと想ってま す。
「白い鳥」の中で、星野さんが、「ほんとは、絵なんか見てなくて、誰かといたいんですよ」っていうのがしみるよねぇ!!

点字の地図を孫に買ってあげたいから、どこで売っているのかと聞かれたりして 、そぉ見た目にも美しいかもしれないけど、どんなお孫さんなのかという話は聞 かなかったなぁ。 知恵の輪なんかも、「売り物ですか?」と言われたりして、商品名を調べておこ う!
それにしても、パズルや知恵の輪にはまる人が多いよねぇ!

最後のお客さんは、南そうま[だったかな]で、レジデンスのできる場所を、こ れから始めるという人で、「けんじの部屋」も気に入ってくれたみたいだったし 、軽く宣伝してみました。

さて、今日は天気も良くて、朝日がいっぱいの離れです。 ますます調子乗っちゃうなぁという、5月四日です。

しらとりけんじ

2021年5月5日 18:13「はじまりからしらとり」

みなさん
こんにちは、 しらとりです。

本日の猪苗代は、しとしと雨です。 お客さんも少なそうだし、雨の日の撮影をしようと、レインコートで出かけまし たよ。
防水カメラも中古で安く買えたし、雨具もそろって「かんぺきじゃん!」と思っ ていましたが、ちょぉ疲れたです。 考えてみれば当たり前だけど、音の環境が変わるので、修業が必要でした。 いろいろ思い出してきましたが、歩きなれた道なら、それほど疲れることは無い はずなので、そのうち気軽に撮影できる予定です。

さて、気持ちを入れ替えて、近くの飲み屋開拓に行こうという、5がつ五日です 。

しらとりけんじ

2021年5月7日 11:03「はじまりからしらとり」

みなさん
おはようございます。 しらとりです。

一昨日、けんじの部屋に、俺の欲しいものリストを掲げる、ホワイトボードが設置されました。
離れでの生活を快適にするために、物の提供をお願いしちゃおぉということです。

それから、誰かと一緒に、散歩しながら撮影する話は、イベントとしてやるというアイディアをもらったので、早速告知するつもりです。

歩く道になれようと、昨日は、スーパーとコンビニと、それぞれ1往復してきました。
アプリによると5km歩いたことになってるけど、それはちょとあやしい! 4kmこえてるのは確実だと思うんだけどね。

猪苗代滞在が、まるまる2か月あって嬉しい気持ちと、2か月なんてあっという間だという考えと、両サイドあって、ちょっとどきどきだね!
何がどこまで出来るものなのか、まあやってみてのお楽しみですな!

しらとりけんじ

2021年5月10日 11:14「はじまりからしらとり」

みなさん
おはようございます。 しらとりです。

猪苗代生活は、ほんと心地よく過ごしています。 けんじの部屋でも、座布団並べて横になったり、離れにきてお昼食べたり、気ままに散歩に出たりと、かなり自由な毎日です。
「そんな、ごろごろしてて良いのかよ」という思いもよぎるのだけど、 「まあ、俺の日常だし、やりたくてやってんだからね」てな感じで落ち着いてま す。

世の中では、コロナで盛り上がっていますが、俺自身は、全く違う時間を過ごしているような感じです。
何か、すっきりさっぱりしちゃったなぁ!

近所を歩くのにも慣れてきたし、なじみの飲み屋もできて、日々の写真も撮れているので、「けんじの部屋」では、ipadで見てもらおうと想ってます。
 そして、ipadのセッティングをしてもらったら、今までとは違う楽しみがありそ うな感じで、またまたちょと嬉しいです!

「少しずつ進んで行くんだなぁ」と、実感している、5月十日です。

 しらとりけんじ

2021年5月12日 10:50「はじまりからしらとり」

みなさん
おはようございます。 しらとりです。

先日、お客さんから、「何で天上に投影してるの?」と聞かれて、 「うーん、意地悪だから?」...と答えときました!

別の方との会話で、 「気分が良いと、シャッターボタン押しちゃうんですよねぇ」てな説明してたら 、「ああ、同じだねぇ」という反応に、一瞬「??」のあと、 「そっかぁ、シャッター切るときって、嬉しいとか楽しいってことかな?」 と考えたしだいです。

昨日なんかは、離れで本読むようになったり、 お客さんのいない「けんじの部屋」で、誰からも声をかけられないと、やっぱりつまらないなぁと思ったりして、これって気持ちのゆとりの表れかね。

猪苗代に着て1か月、なにをどうしたいのか、分からないままやってるところもあるんだよね。 でも、経験して確かめるというのは、分かりやすい方法の一つだから、 とにかく、直観勝負で行こぉ!!

という、いつも同じような結論に達する、5月12日です。

しらとりけんじ

つづく

しらとり けんじ
1969年、千葉県出身、茨城県水戸市在住。写真家。生まれつき強度の弱視で、12歳ころ光が分かる程度になり、20代半ばで完全に全盲になる。2005年から、デジカメで写真を撮るようになり、時々会話のネタにもなっている。撮影した写真はこの16年ほどで、40万枚を越えている。
本展では会期中「けんじの部屋」として、展示室内にてしらとりがレジデンス予定。

※テキストは原文のまま掲載しております

（た）よりあい、（た）よりあう。｜はじまりの美術館