ビオクラシー 〜途方もない今の少し先へ【プレイバック!はじまりの美術館15】
現在、臨時休館中のはじまりの美術館。これを機に、はじまりの美術館のこれまでの展覧会をみなさんと一緒に振り返ってみたいと思います。
はじめて展覧会を見る方も、実際に展覧会を鑑賞された方も、写真やスタッフの四方山話を通して、改めて作品や作者に出会っていただければと思います。当時の裏話?や関わったスタッフの想いなども改めて振り返ってみました。残念ながら今は展覧会を開催できない時期ですが、この6年間の展覧会を改めて見つめ直して、この先の企画を作っていく足場を固める期間にしたいと思っています。
スタッフ紹介
ビオクラシー 〜途方もない今の少し先へ
会期:2018年2月24日 - 2018年3月25日
出展作家:赤間政昭、アサノコウタ、岩根愛、梅原真、古久保憲満、SIDE CORE、佐賀建、佐藤菜々、田島征三、Chim↑Pom、平井有太、藤城光、宮川佑理子
主催:社会福祉法人安積愛育園 はじまりの美術館
特別協力:みんな電力株式会社、株式会社SAGA DESIGN SEEDS
https://hajimari-ac.com/enjoy/exhibition/biocracy/
大政:はい、15回目のプレイバック企画は「ビオクラシー 〜途方もない今の少し先へ」についてです。
岡部:この展覧会は「ロックとアートの蜜月な日々」に続く持ち込み企画でしたね。「企画伴走者」という形で一緒に企画いただいた、ライターでありながら様々な活動をされている平井有太さんからご提案いただいたところからスタートしましたね。
小林:平井さんは震災後から福島に移住されて、「土壌スクリーニング」という農地の線量を図る活動をしながら、いろんなネットワークを広げていった方です。その平井さんが書かれたこの展覧会タイトルと同名の著書「ビオクラシー」で、岡部さんを取材いただいたのがきっかけで今回のお話につながっていきましたね。
岡部:書籍「ビオクラシー」は、震災後に県内でいろんな取り組みをされている方を「活性家」と捉え、取材した活性家の方々を紹介する書籍でした。
大政:ビオクラシーは、日本語で表すと「生命主義」ということで、この展覧会では、命とか、そういうものをテーマに平井さんからご推薦いただいた作家と、はじまりの美術館からも作家を何名か提案させていただいた形でした。
岡部:ビオクラシーの「ビオ」が生命ですね。今、世界的にはデモクラシー=民主主義が多くの国の基礎的な考え方となっていますが、ある意味それは「人」に基準があるものですよね。でも、人っていうのも元々この生命だっていうことを前提に、もっと生命を基準にいろんなことを考えていくことが大事じゃないかっていうことを訴えた本だったかなと思います。福島での原発災害があった後に、とても大事なテーマだと思います。
小林:この展覧会も、ちょうど震災から7年を迎えるということを意識して開催されましたね。少しさかのぼると、実は平井さんは2016年に、アーティストランスペースとしてChim↑Pomが運営している高円寺Garterで「ビオクラシー」の個展を開催しています。最初はその巡回展を福島で開催したいというお話でしたね。
岡部:その高円寺の会場で展示していた作品も含めて、13組の作家さんで構成された企画でしたね。
大政:会期は短いけど作家数は多かったですね。
岡部:そうですね。「ロックとアート」展のときもそうでしたけど、とても豪華なラインナップでしたね。
小林:特に平井さんからご提案いただいた中では、Chim↑Pomだったりとか、SIDE COREだったりとか、梅原真さんといった著名な方々にも出展いただきました。そのほかに福島で活動している方もいれば、ビオクラシーというテーマに沿ってご紹介いただいた方もいました。はじまりの美術館からもビオクラシーというテーマに合わせて、田島征三さんや藤城光さん、古久保憲満さんや宮川佑理子さんなど、以前から気になっていた方をこの機会に提案しましたね。
岡部:みなさん印象的でしたが、とくに記憶に残っている作家さんはいますか。
小林:ご本人たちが設営に来ていただいたということもあるんですけれども、あの真ん中の小さい部屋で展示いただいたSIDE COREの作品はすごく印象に残ってます。その作品は、もともとは石巻で開催されたReborn-Art Festivalで展示した作品で、電気を使って赤く明滅するような作品でした。電気というのもこの展覧会を構成する重要な要素でしたよね。平井さんが関わっている「みんな電力」という再生可能エネルギーの普及を進める電力会社がありますが、この美術館の電力もこの展覧会を機に電力を切り替えました。その電気を使った作品がこの展覧会場の中心に位置していて、その明滅する様子が、心臓のようなようにも見えて、なんかこの展覧会自体の鼓動のような、そんな印象も含めて記憶に残ってます。
大政:主に工事の時に道路上で注意を促すために使う道具が素材になっていて、単管パイプを支持体にしているのでかなり重量がある作品でしたね。何百キロにもなるから、安定した場所じゃないと展示が難しいというお話でした。
小林:この美術館は木造なので、少し不安もあったのと展示スペースの兼ね合いで、実際にはReborn-Art Festivalで展示したときより一回構成し直したんだった気がします。
大政:パッと見るとシャンデリアみたいに感じますけど、石巻のときは見上げるような構図で展示されていたのが、ここでは梁が低いこともあって目線と同じぐらいの高さの展示になりました。
岡部:毎展示いろいろな使われ方をする真ん中の小さな展示室で、部屋目一杯に作品があるっていうような迫力ある展示になってましたね。
小林:今回作家数も多いので皆さん紹介できないかもですが、一番奥の展示室でいわき在住の藤城光さんに展示いただいた《ボイジャー2 0 1 1》も、すごくこの震災や原発事故ってテーマに欠かせない作品でした。この作品は2016年のさいたまトリエンナーレで展示されていたのを拝見して、すごく記憶に残っていました。いろいろな機材の関係でそのときと同じようにできない部分も多かったので、作品のシステムみたいなものは今回の展示用に作り直していただきましたね。
大政:埼玉の時は真っ白い部屋の中で原発事故の被災された方々から募った思い出の品を漆で黒くコーティングしたものが象徴的に展示されていました。今回はこの十八間蔵の中に少し溶け込むような感じと、藤城さんがインタビューされた音とか声が常時重なり合って聞こえる新しいインスタレーションで構成いただきました。作家活動以外にもデザイナーとしても活動されていて、いろいろとお世話になってます。
岡部:藤城さんと同室で展示いただいた田島征三さんもいつかお願いしたいと思っていた作家さんのお1人でしたね。
大政:そうですね。田島さんは絵本作家であり、アーティストとしても知られていますが、実は2010年のアール・ブリュット・ジャポネ展にもご出展されていて、この美術館とも親和性の高い方でした。今回のキーワード「生命」をテーマに考えたときに、田島さんの存在が思い浮かびお声掛けさせていただいたところ、ご快諾いただきました。実際、会期中に会場にもお越しいただきました。
小林:あと、同じく一番奥で展示されていた写真家の岩根愛さん。はま・なか・あいづ文化連携プロジェクトにも関わられていて、この展示ではそのプロジェクトで制作された作品を展示いただきました。岩根さんにはオープニングのイベントでもお越しいただきトークイベントと岩根さん企画のパフォーマンスを行いました。パフォーマンスは岩根さんと親交の深い双葉町の標葉せんだん太鼓の横山久勝さんが、震災後の双葉町の桜を想いながら作曲した太鼓曲に、高柴デコ屋敷恵比須屋十七代当主でありひょっとこ踊りの名手・橋本広司さんが振り付けしたものでした。そのときだけ展示された岩根さんの10m近い作品を背景に行われたんですが、本当にぐっとくるような演奏と踊りですっかりファンになりました。そして岩根さんはその後、写真の創作・発表活動において優れた成果をあげた新人に贈られる「木村伊兵衛写真賞」も受賞さましたね。
大政:私が印象的だったのは宮川さんですね。「生命」っていうものを考えたときに、思いついたのが宮川さんでした。両手を使って大きく表現されてできたあの作品の躍動感をいつかはご紹介させていただきたいと思い、今回お声がけしました。
岡部:宮川さんもそうですけども、私は古久保さんですね。古久保さんの作品は以前からいろいろな展覧会で拝見していました。大きな画面に細やかな地図のように街の様子を書き込んでいく作品を制作される方ですけども、やっぱり古久保さんもいつか皆さんにご紹介したいなと思っていた方の1人でした。作品の中に《復興する東日本・福島》というタイトルの作品もあって、今回の展覧会にすごく親和性を感じ、思い切ってお声がけした経緯があります。また機会があればご一緒したいなっていう方の1人です。
小林:一緒に滋賀のご自宅までお借りしに伺いましたね。ご自宅が仏具屋さんで、小久保さんは規格外サイズの作品もたくさん描かれてますが、その額なんかもお父様が作っていて、家族みんなで古久保さんの活動を支えているというのも印象的でした。
大政:そうですね。何度かお伺いした際に、制作している様子とかも見させていただくんですが、どんどんどんどん密度が濃くなっているように感じます。本当にこれからどうなっていくのか楽しみな作家さんの1人でもあります。
小林:佐賀建さんは当初は出展予定ではなかったんですが、この展覧会のベースとなった本である「ビオクラシー」を出版されたのが、福島市にあるサガデザインさんで、佐賀さんは作家活動をしながらそちらで働いている方でした。サガデザインさんはデザイン業をやりながら出版業もやって会社で、今回のチラシをサガデザインさんにお願いしたところ佐賀さんがメインビジュアルを担当してくださいました。この青い花は「ミズアオイ」という花で、絶滅危惧種だったんですが、津波の影響でこの花に適した湿地生態系が整ったことで沿岸部で甦ったと言われる花です。そのエピソードもビオクラシーに合っているということで、ミズアオイを描いていただいたのですが、その作品がすごく良いものだったので急きょ出展いただく流れになりましたね。
大政:会場の外では同じデザインを元に作られた木のオブジェを、雪の上に咲く花のような感じで展示いただき、すごく印象的な風景になってましたね。
小林:そのアイデアは、デザインを担当したお兄さんの佐賀達さんから提案いただいた企画でした。ミズアオイをモチーフにした花を来た方に持って帰ってもらうことで、この展覧会を家に帰っても考えていいただくような、そんな広がりをできたらいいんじゃないかっていうようなことでしたね。このときの素材はMINA企画さんにお願いして作っていただきましたね。
大政:あと、忘れてはならないのが3月11日に、直前まで確定せずチラシに載せられなかったイベントが行われましたね。特別企画として「太陽を盗んだ男」上映会と長谷川和彦監督のトーク、そしてALKDO(アルコド)さんのライブと、10時に開場して16時に終わるという盛りだくさんのイベントでした。
小林 :上映会は今までこの美術館でも何度かやってましたけれども、この日は一般の映画館でも少なくなっているフィルムで上映という試みで。あのときはフォーラム福島さんに相談して、そのつながりでフォーラム山形の上映技師さんに来ていただいて実施しましたね。多分、その方々もこんな環境でやるのは初めてだったんじゃないでしょうか。
岡部:そうですね。今ではなかなかお目にかかれないフィルム上映機が2台設置されて、テープ交換のタイミングは本当に見事でしたね。
大政:普段上映会をやるのは夕方からが多いんですけど、この日は朝10時半からの上映っていうことで暗室環境を作るのが大変でしたね。実は最初ちょっと光がもれていて……ちょっと大変でしたね(汗)
小林 :長谷川監督は愛称がゴジラから由来する「ゴジ」というくらいですからね(苦笑)今回の企画を交渉した平井さんもすごく丁寧に何度も何度も監督とやりとりしながら当日を迎えましたね。当日無事に監督が来てくれたってことだけで、何かこう、すごくほっとしている平井さんの姿が忘れられないですね。
岡部:その日は上映後のトークの中盤に、震災のあった14時46分がきて黙祷のサイレンが鳴ったので、一旦トークも中断してみんなで黙祷しましたね。長谷川監督からも普段語られないようなご自身の生い立ちだったりとか、そういうのも含めて貴重なお話を伺えました。
小林:トーク後にライブしたALKDOさんですが、愛知県で全て太陽光発電を利用したフェスティバル「橋の下世界音楽祭」なんかもやられている方々でしたね。毎年この時期には福島に来て歌っているということもあって、この日も来ていただいて、すごく熱のこもった演奏をしていただきました。
大政:あとは地産地消のエネルギーを考えるというテーマでトークイベントも開催しましたね。震災後に会津電力という会社を立ち上げた大和川酒造の佐藤弥右衛門さんと、当時JAふくしま未来の組合長・菅野孝志さん(現・JA福島会長)、そしてみんな電力の代表の大石英司さんをお招きしました。
このnoteの終わりに平井有太さんによるレポートのリンクを掲載しておりますので、ぜひご覧ください
小林:あと、チラシにお名前は出てないのですが、平井さんがその取り組みや存在自体をアートと捉え、展示にご協力いただいた方々もいらっしゃいました。今は二本松に移転していますが、この美術館と同じNew Day基金で生まれたチャンネルスクエアさん。川内村で「満月祭」というお祭りを開催して、電気を使わない自給自足のような暮らしをしている獏原人村さん。平井さんが福島で一緒に活動されていた、放射能の市民測定所の活動をされているふくしま30年プロジェクトさんですとか、本当に盛りだくさんの展覧会でした。
大政:はじまりの美術館としては、2015年に「絶望でもなく、希望でもなく」という形で、震災をテーマにした展覧会を開催しましたよね。やっぱり3.11の時期は外部の方から今回のように震災に関連した企画をやりたいってお声がけをいただく機会も多いですが、「絶望でもなく、希望でもなく」って言った後に、ちょっと主義主張があるというか、それが前面に出てくるのは何か個人的には難しいなぁとも感じました。
岡部:いつも持ち込みの企画というか、外部の方と企画を一緒に作っていくのは、なんて言ったらいいんですかね、大変というか、エキサイティングというか。勉強になる部分がすごくあるなって思います。はじまりの美術館としては、いろんな切り口でいろんな捉え方がある、そしていろんな表現があるっていうところを、様々な視点で見てもらって、それを受けてもらう。受け止めたお客さんがどんなふうに考えていくかっていうきっかけを提案するっていうか。
共同で作るというのは、自分たちだけで終始完結する企画ということではないのでそういう意味での難しさと、自分たちだけではできないことができるのが醍醐味というか。
小林:そういう意味でも、ただの場所貸しの貸館というのはまだあまりやりたくないというか。多分仕組みというよりも自分たちがこだわっているのかなと思うんですけれど。やっぱりこの美術館でやるものっていうのは、何かこう自分たちもかかわって作っていく、いかなきゃなっていうような気持ちもあるので。そういう意味では共同する相手の方の想いと我々の想いのバランスをうまくとりながら作っていく。多分、先方にとっても思ってもみなかった方向にうまく転がることもあって、お互いに何ていうんですかね、良いところともう少しやれたなみたいなところを面白いと思ってもらえるかどうか、ですかね。
小林:今回平井さんが提案された「ビオクラシー」という言葉に、副題として「途方もない今の少し先へ」っていう言葉をこちらで加えましたね。元々は、愛育園の50周年式典のときに岡部さんとの筆談トークのゲストでお呼びした齋藤陽道さんから「途方もない今」という言葉が出てきたんですよね。「途方もない今」っていうのが、これなんか「あしたと きのうの まんなかで」展にもつながる言葉じゃないかなと個人的に思ってるんですけど。今っていう点でありながらも、その途方もなく続いていく感じ。さっき大政さんが言っていた「絶望でもなく、希望でもなく」みたいな要素も含んでいるような言葉が刺さったんです。「ビオクラシー」というある意味強い言葉に加えることで、何かこう、我々のスタンスみたいなものを示せれば、みたいなことを思いましたね。
岡部:そうですね。「ビオクラシー」というテーマを考える上で「この先を生きていく自分たちが、なにをどう考えていくか」という投げかけとして、マッチしたサブタイトルだったんじゃないかな、と思います。
また本展は、持ち込み企画ということもあって記録集を作れていないのが残念でしたが、記録写真は、出展作家でもある赤間政昭さんに撮影いただきました。震災後の福島をファインダー越しにずっと見つめてきた赤間さんが切り取る本展写真も、ぜひじっくりご覧頂ければと思います。
平井さんによる展覧会のレポート
「ビオクラシー|すべては再生可能である」
平井さんによるイベントレポート
「トーク|会津電力・JAふくしま未来・みんな電力」