見出し画像

ほくほく東北〜アートでつなぐ、対話が芽吹く〜 【プレイバック!はじまりの美術館 3】


現在、臨時休館中のはじまりの美術館。これを機に、はじまりの美術館のこれまでの展覧会をみなさんと一緒に振り返ってみたいと思います。

はじめて展覧会を見る方も、実際に展覧会を鑑賞された方も、写真やスタッフの四方山話を通して、改めて作品や作者に出会っていただければと思います。当時の裏話?や関わったスタッフの想いなども改めて振り返ってみました。残念ながら今は展覧会を開催できない時期ですが、この6年間の展覧会を改めて見つめ直して、この先の企画を作っていく足場を固める期間にしたいと思っています。

スタッフ紹介

プレイバックはじまりの美術館

ほくほく東北
〜アートでつなぐ、対話が芽吹く〜


会期:2015年2月7日(土) - 2015年3月30日(月)
出展作家:坂本三次郎、佐々木早苗、佐藤ブライアン勝彦、スガノサカエ、tttttan、千葉奈穂子、土屋康一、橋本彰一 × 片山正通 × NIGO(R)、史緖、森田梢
主催:社会福祉法人安積愛育園 はじまりの美術館
https://hajimari-ac.com/enjoy/exhibition/tohoku/

画像3

大政:それでは、第3回企画展「ほくほく東北〜アートでつなぐ、対話が芽吹く〜」展について。私がお客さんとして初めて見たはじまりの美術館の企画展は、この展覧会でした。私が見に行った日は、ちょうど町内でお茶の教室もやっている青木宗寛さんのお茶会のイベントの日で、地域の方が美術館に集まっている様子がとても印象に残っています。あとは外に雪がたくさん積もっていて、展示室に入るとすぐに、とても大きなシロクマが出迎えてくれたことが印象に残っています。

画像4

スクリーンショット 2020-05-07 18.49.09

岡部:そうですね。シロクマは、初めてはじまりの美術館の美術専用輸送車(以下、美専車)で作品を借りに行った思い出がありますね。ちょうど展覧会がはじまるまえの2014年のクリスマスの日に、美専車であるキャラバンを日本財団さんから寄贈いただきました。

大政:シロクマはどこまでお借りしに行ったんですか。

小林:シロクマは、埼玉の大きな倉庫に取りに行きましたね。この作品は、橋本彰一×片山正道×NIGO®の《Life size polar bear in papier mache》という大きな張り子作品ですね。元サッカー選手の中田英俊さんたちによるREVALUE NIPPON PROJECTで生まれた作品を出展いただきました。福島県郡山市の西田町に「デコ屋敷」という伝統工芸の張り子で有名なところがあるんですが、そこの人形師である本家大黒屋代表の橋本彰一さんとのプロジェクトでした。このときは、他にも仙台や山形県は山形市や酒田市に作品をお借りしに行ったり。東北地方をいくつか行きましたね。

画像6

岡部:この企画はそもそも私と元学芸員の千葉さんで開館準備中に企画ラッシュ(※企画のアイデア出しをはじまりの美術館ではこう呼んでいます)をやって、企画のテーマをたくさん出したその中にあったものです。企画担当は千葉さんでしたね。

小林:それで、会期は真冬の2月から春に向かっていくタイミングでしたし、この東北の冬の時期を乗り越えて、春に向かっていく気持ちみたいなものを展覧会を通して伝えたい、みたいな。そういう流れで、「ほくほく東北でいこう!」っていうふうな感じになったと思います。

岡部:そうですね。思い出しました。ちょうど震災の3.11の時期をまたぐ期間の企画っていうこともあって。震災でダメージを受けて、再度立ち上がろうと力を蓄えてい状況や、生きることに困難さがあって、それをはねのけていく力が内にだんだん高まっていっているようなそういう状況と、冬ごもりをして、春の芽吹きを迎えるために力を蓄えていってる、そういう想いを重ね合わせた企画趣旨でした。

画像7

大政:個人的に、展覧会としては、本当にいろんな素材を使った作品が集まっていた印象があります。刺し子や張り子のような手仕事の力を感じる作品だったり、サイアノタイプの写真の作品だったり、あとは実際の植物を使ったインスタレーションもあれば、植物をモチーフにした作品もあったり。そしてドローイングもいろんな幅のあるドローイング作品があって。すごくバリエーションに富んだ展示だなと思っていますした。

小林:そうですね。まず作家選定は、「東北の作家」ということは強く意識して、なおかつ、作品としてもなんか少し手作り感や温かみがあったりとか。そういうところを、意識して選んだ記憶がありますね。割と素材のバラエティーに富んだ感じっていうのは、やっぱり冬の時期に見に来て、楽しんでもらえたらいいなっていうのを考えてたので、自然といろんなバリエーションというか、素材になったなと思います。今見返しても、ある意味豪華な展覧会だったなと思います。

スクリーンショット 2020-05-07 18.48.42

スクリーンショット 2020-05-07 18.47.24

スクリーンショット 2020-05-07 18.48.04

スクリーンショット 2020-05-07 18.47.41

小林:県内で活動されている方も何人かいました。出展作家の史緒さんとttttttan(タン)さんは、もともと2人がお知り合いだったということもあり、2人同時に公開制作を行いました。会期前に制作の日を設けて、「この日この時間に来ていただいくと制作が見れますよ」っていうような形でやりました。
そのときに、2人の知人でもある福島県内在住のシンガーソングライター・chanoさんも歌いにきてくれたんでした。この次の年から、はじまりの美術館のマルシェイベント「はじまるしぇ」で、chanoさんはほぼ毎年歌ってくださっています。あと制作についてですけど、前回のDr.N展で作った壁が、すごく立派な仮設の壁だったんですよね。それを1回で壊すのももったいない……っていうことで考えていたときに、tttttanさんに直接壁にドローイングを描いてもらおうとなったり。いろいろとつながっていったことを思い出しました。

画像12

画像13

小林:同じく出展作家さんで、今は亡くなられてしまったのですが岩手県の坂本三次郎さんっていう方がいらっしゃいました。坂本さんは暮らしている施設の敷地内で、毎日、木の棒や石、植物を並べ続けているというようなことをしている方でした。展覧会では映像と写真での展示でしたが、映像自体はそこまで作り込まれたものではなくて、風の音とかがゴォゴォ言いながらも、三次郎さんが淡々と並べているっていうような作品ですごく強烈な印象があったことを覚えています。

大政:はじまりの美術館でも映像作品の展示だったり、資料としての作品のそばに映像を展示することも結構あると思うんですけど、このときは「行為としての表現」みたいなものを紹介していたのが印象的でした。

画像14

大政:あと、佐藤ブライアン勝彦さんのバーキンバッグの作品を見たときに、他の作品とは少し雰囲気が異なるのかな、と思って気になっていました。

岡部:あのバーキンバッグは、素材がブルーシートでてきてるんです。これはとても高価なブランドとして知られるエルメスのバーキンバッグを、安価に手に入れることができるブルーシートで作っている、という作品でした。実は、震災直後はブルーシートが何よりも、貴重な資材でした。屋根の瓦が落ちたりしたところを塞いだり、避難所で敷いたりとか、いろんな用途でブルーシートが使われたんですけど、高価なバックをその素材で作るというところで、いろんな意味合いを持たせた作品になっていますね。

大政:なるほど。今回のようなコロナ禍の状況でも、これまで身近だったマスクがなかなか手に入らなくなりましたよね。今後、マスクを素材に使ったり、マスクをモチーフにした作品も生まれてくるかもしれないですね。

岡部:そうかもしれないですね。

スクリーンショット 2020-05-07 18.48.23

大政:当時の展覧会の写真を見ていると、雪囲い(ゆきがこい)がチラチラ写っていますね。雪囲いのイベントをやったのも、この展覧会のときでしたかね。

小林:そうですね。猪苗代も含めて雪国は冬の時期「雪囲い」という形で、窓の外側に板をはめて、ガラスが割れないようにします。けれども、雪囲いをすると中からも外からも少し暗い雰囲気に見えてしまうんですよね。「ほくほく東北」という展覧会タイトルにもかかってるんですけども、それをもうちょっと温かみある感じで楽しめないかということで、雪囲いに自由に絵を描いて彩ろうという企画をしました。それぞれ1本1本に、板主(いたぬし)ということで、描いてもらう方にオーナーになって管理してもらおうという狙いでした。数年後にメンテナンスもかねて「板主総会をしよう!」っていって、ちゃんと名前や住所などの情報も書いてもらっていましたね。ちなみに板総会は未だに開かれてはおりません(苦笑)。毎年冬の時期になるとこのときの雪囲いを出すのが定番となっていて、結構来館者の方からは好評ですね。

いろとりどり雪囲い

とりどり雪囲い

画像18

大政:他に何か関連したイベントとかワークショップとかってありましたか?

小林:福島市在住の作家・森田梢さんと一緒に、コラージュをするワークショップをしました。おそらく、作家の方を招いてそういったワークショップしたのは、このときが初めてだったんじゃないかなと思います。岡部さん、そういえばデザイナーさんと自分達だけでやりとりしたのもこの展覧会が初めてでしたよね。

画像19

画像20

岡部:そう、山形のhalken(ハルケン)さんですね。

小林:東北芸術工科大学の先生もしているアイハラさんとフォトグラファーの三浦さんのお二人が主催するhalken LLPに、「ほくほく東北」展のデザインをお願いしました。もともとは、この展覧会の出展作家のスガノサカエさんとのやりとりをする中でお会いしました。スガノさんも残念ながら2016年にお亡くなりになられましたが、スガノさんのマネジメントや展覧会、作品集のディレクションをしていたのがhalkenさんで。そういったつながりもあって、デザインの方もhalkenさんにお願いしようっていうようなことになったと思います。
最初、halkenさんとは、メールや電話でやりとりしてたんですよね。いろんな趣旨を説明して、芸工大でhalkenさんが出演するイベントがあるときに、それに参加するのと合わせて打ち合わせをしようという話になったんです。そのとき、ちょうど企画担当の千葉さんが体調を壊してですね、まだ入って半年くらいだった私1人で行くことになったという……。今、フラッシュバックしました。(笑)

スクリーンショット 2020-05-07 18.48.55

大政:それは大変でしたね。(苦笑)

小林:先方としては打ち合わせする気だったんですけれども、私だけが来たので、本当に千葉さんへのメッセージだけ聞いて帰ってきた記憶があります。それまでの展覧会フライヤーでは、作品画像がメインだったり、巡回展だったり、ほとんどデザインのイメージができた状態だったというか。作品をビジュアルに使わないデザインっていうのもこのときが初めてだったと思うんですけれども、halkenさんもいろんな案を出してくれて。その中から、このテーマに本当にふさわしいデザインっていうのを、議論しながら詰めていって、最終的に完成したデザインに落ち着いたんですけど。そういうやりとりも含めて、すごく勉強になった展覧会かなと。

岡部:あと記録集を作るのに、寄稿文を誰かに依頼するのも、これが初めてでしたね。誰がいいかって話し合ってたときに、当時からお世話になっていて、震災後もすぐに福島県内でいろんな活動してた福島県立博物館の方にお願いしたいとなって。学芸員の小林めぐみさんにお願いしました。「ほくほく東北は、ほくほくか?!」というタイトルで寄稿文を書いてくださった。
文章が、今読んでもすごくいいなぁと思ってます。「ほくほく」と言いながらも、いろんなチャレンジをした部分を汲み取ってくださって。当時は美術館の常識を知らなかったからできた部分もありますが(笑)
あと展示風景の記録撮影も、出展してくださった千葉奈穂子さんに撮影いただいたりとか。すごく東北っていうことにこだわったというか。いろんなことを試して、今につながっていることもたくさんある企画だったなと思います。

画像22


企画展「ほくほく東北〜アートでつなぐ、対話が芽吹く〜」の記録集は、はじまりの美術館online shopで販売中です!


ここまで読んでいただきありがとうございます。 サポートをいただけた場合は、はじまりの美術館の日々の活動費・運営費として使わせていただきます。