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あした と きのう の まんなかで 【プレイバック!はじまりの美術館19】

現在、臨時休館中のはじまりの美術館。これを機に、はじまりの美術館のこれまでの展覧会をみなさんと一緒に振り返ってみたいと思います。

はじめて展覧会を見る方も、実際に展覧会を鑑賞された方も、写真やスタッフの四方山話を通して、改めて作品や作者に出会っていただければと思います。当時の裏話?や関わったスタッフの想いなども改めて振り返ってみました。残念ながら今は展覧会を開催できない時期ですが、この6年間の展覧会を改めて見つめ直して、この先の企画を作っていく足場を固める期間にしたいと思っています。

スタッフ紹介

プレイバックはじまりの美術館


あした と きのう の まんなかで

会期:2019年4月6日 - 2019年7月7日 
出展作家:クワクボリョウタ、国立療養所菊池恵楓園絵画クラブ金陽会、杉浦篤、鈴木のぞみ、瀬尾夏美、高橋和彦、谷川俊太郎、ハナムラチカヒロ
 
主催:社会福祉法人安積愛育園 はじまりの美術館
助成:公益財団法人アサヒグループ芸術文化財団

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大政:はい、今日は第17回目の企画展「あした と きのう の まんなかで」について振り返っていきたいと思います。今日は特別ゲストとして、関根詩織さんにお越しいただきました。関根さん、よろしくお願いします!

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関根詩織 SEKINE Shiori
1991年福島県須賀川市生まれ。猪苗代町在住。千葉大学大学院園芸学研究科修了。2014年、はじまりの美術館開館準備に学生インターンとして関わる。2017年社会福祉法人安積愛育園入社、展覧会やイベントの企画や運営に携わる。2020年7月、猪苗代町内の地域商社 株式会社アウレ入社。

関根:元スタッフの関根です。よろしくお願いします。今日は呼んでいただいてありがとうございます!

小林:お久しぶりです!あれですよね。千葉さんがゲストで呼ばれているのを見たぐらいからいつか私にも来るなって思ってましたよね(笑)

関根:はい、ドキドキして待ってました。あと千葉さんの写真が大きかったので、私もああいうふうに載るのかってドキドキしてます(苦笑)

岡部:関根さんと言えば、はじまりの美術館が開館する前から関わってもらってましたよね。美術館の東側にある離れを開館準備室として、スタジオLのインターンで2ヶ月ぐらい立ち上げにも携わっていただきました。そんな美術館の成り立ちから知っている関根さんが社会人になって、一度社会を経験してから美術館のスタッフとして中に入っていただいて、そして担当した企画展ということで楽しみにしてました。

小林:早速、企画展「あした と きのう の まんなかで」について、いろいろ話していきたいと思います。この企画は、分かりやすく言うと「風景」をテーマにした企画展でしたね。まずは関根さんから、このテーマになった背景というか、経緯をお話いただければなと思います。

関根:はい。日々の出来事の積み重ねが風景に現れているなと考えていました。先人たちが暮らしてきた痕跡が風景の中には刻まれているなって。時の流れの中で、風景は変化していて、その風景を作っている土地の上に私たちは暮らしている。そう考えてみると、私たちが暮らすことは、未来の風景を作ることだなぁって思いました。
過去があって、今がある。そしてこれからの未来、私たちはどう暮らしていくかっていうのを考えるきっかけになるような展覧会になればいいなと思って企画をしました。

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大政:関根さんは学生時代、ランドスケープが専門でしたね。

関根:そうなんです。ランドスケープを専門に学んでました。展覧会のテーマを考えようって思っていたときに、自分の好きなものをやりたいっていうのも正直思っていました。そのときに自分が好きなものは何だろうって考えたら「風景」が好きだと気づいたんです。そこから風景について考え始めたっていう経緯もあります。

小林:関根さんがはじめて担当する企画展ということで、タイトルとかも含めていろいろとみんなで話し合って、いろんな案が出ましたよね。「あした と きのう の まんなかで」っていうタイトルは、風景っていうテーマからみると、意外とイメージしやすいようでしづらいものになった気がします。でも、この企画展自体も、風景っていうわかりやすい言葉じゃなくて、その風景の中にある、さっき関根さんが言った時間の流れみたいなものがすごく軸になってましたよね。そういう意味では、このタイトルがすごく的を得ていたなと思います。

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岡部:そうですね。積み重ねてきたものを振り返りつつ、明日も見ていく。そこに今生きている自分たちがいるっていうことを改めて考える機会でしたね。この企画を考えたときに関根さんが一番最初にお呼びしたいなってイメージしてた方なんていますか。

関根:一番最初に考えていたのは岩手の高橋和彦さんです。高橋さんの作品は、仙台のArt to You!の展示で初めて見たんですが、ものすごく一目惚れをして大好きになり、いつかはじまりの美術館でも展示できたらら嬉しいなと考えていた方でした。

岡部:和彦さんとは栃木のもうひとつの美術館の展覧会にunicoの作家を呼んでいただいたときに同じく出展されていて、お会いしたことがあります。とても穏やかな佇まいが印象的で、またお会いできるといいなと思っているうちに再会叶わずお亡くなりになってしまいましたが、この企画展で展示できてとても嬉しかったことを覚えてます。

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小林:私もArt to You!の実行委員で関わっていたので、和彦さんのことはよく知っていました。毎年応募されて、毎回何か賞をとられているというような、本当にもう巨匠みたいな方でしたね。ご本人はすごく小柄で、一見大人しそうな方ですよね。でも、作品はパワフルというか、何ですかね、緻密さと柔らかさを合わせた形で。地元の岩手・盛岡の風景だったりジャポネ展で行った海外の風景だったりとか、いろんな作品があってすごく好評でしたよね。

大政:特に和彦さんは60歳過ぎてから絵を描き始めたという驚異的な方でもありましたね。それまでの人生の中で見てきた風景なんですかね、学校の風景だったりお祭りだったり、本当にいろいろな作品がありましたね。残念ながら2018年にお亡くなりになってしまいましたが、和彦さんの所属していた盛岡杉生園の藤原さんに今回ご協力いただいて展示できましたね。

小林:盛岡杉生園さんでは和彦さんの作品を何十作品とポストカードにされたんですね。
この会期中は、たしか10種類ぐらい販売させていただいて、そのポストカードもたくさんの方に買っていただきましたし、何かまた和彦さんファンが増えたんだろうなって思います。

関根:実際の地名がタイトルになっている作品もたくさんあったんですけど、和彦さんの想像で描いている絵も多いと伺いました。プールに泳げないだろうってくらい人がいっぱい入っている作品とか。馬がいろんな角度に向いている作品とか、そういうのを見て和彦さんはどんなことを想像していらっしゃったのかなって考えると面白いですね。

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岡部:和彦さんの作品に向かい合うように展示されていたのが、金陽会の作品ですね。金陽会はハンセン病の隔離施設でもあった国立療養所菊池恵楓園で実施されていた絵画クラブでした。

小林:金陽会の方々の作品をご紹介してくれた、ヒューマンライツふくおかの蔵座さんはライフミュージアムネットワークで知り合った方ですね。イベントの中で金陽会のお話をされていて、その時から気になっていた方々でした。

岡部:あと、それよりも少し前に、福祉系の仕事を考える雑誌「コトノネ」の編集長・里見さんからも金陽会の活動はご紹介をいただいてました。蔵座さんが書いた金陽会の本なんかもいただいてて、一度はじまりの美術館でも紹介できる機会があるといいなと考えていました。
それと蔵座さんですが、アール・ブリュット・ジャポネ展の国内巡回展を開催していたときに、熊本市現代美術館の学芸員として勤務されていて、そこで福祉と表現活動に関わる全国の名だたる方をお呼びしてトークイベントを開催された方ということでも存じ上げていました。

関根:今回は蔵座さんの作品解説と一緒に作品を展示しましたね。蔵座さんの言葉を読むと作家さんのお一人お一人がどんな風に暮らされていて、どんな想いで描かれた作品なのかっていうのが分かりました。

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大政:ふるさと奄美の風景を皆さん描かれていますよね。ぱっと見ると、みんな風景画なんですけど、一点ずつ見るとなんだろう、すごくそれぞれの方の思い出とか、エピソードに沿った作品を描かれているんですよね。独学で描かれたんだろうなと思う作品から、写実的な作品まで、作品の幅はとても広いのですが、伝えたい残したいみたいな想いを強く感じる作品がたくさん残されているなと思いました。

関根:ハンセン病を患ったことが発覚して、家から施設に行くときに見た風景を、それから何十年も経った後に施設で描いたという作品もありました。人にとって風景っていうものが、そういう記憶の中で、とっても大事なものだったり、大切な記憶や存在になるんだと、この金陽会さんの作品を見て改めて考えさせられました。

小林:こうやって金陽会の作品をいろんなところに紹介するようになったきっかけについて蔵座さんから伺ったことがあります。奄美出身の方が施設を訪れてある作品を見たときに、これ奄美のあの場所の風景だっていうようなお話をされたっていうことがあったそうです。蔵座さんもその風景が実際にある場所だとその時まで思ってなかったので、今でもある場所が描かれてるんだって思ったときに、この作品をやっぱり奄美に返して、奄美で展示しなきゃっていう想いからはじまったそうです。
この展覧会のタイトルでもある、やっぱりその過去から現在があって、未来があるっていうような、何て言うかテーマにもすごくぴったりっていうと安っぽいですが、この企画で紹介できてよかったなと思います。

岡部:あの蔵座さんのテキストと合わせてこの絵を見ることで、あたかもその場に自分が立って見ているような気持ちになるっていうか、その背景を踏まえてみたときの見え方がまた違ってくるなっていうのを噛み締めた作品だったなと思います。何かハンセン病っていうことについて思いを馳せるばかりでなくて、そこに立っている1人の人をダイレクトに感じた作品でした。

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小林:そういう日常の風景だったりとか、昔の風景みたいなことをちょっと想起させるのが杉浦篤さんの作品にも共通するのかなと思いました。杉浦さんは、いろんな展覧会でご紹介されている有名な方でもありましたが。

岡部:作品は日常のスナップ写真ですが、ただのスナップ写真じゃないところが杉浦さんの見どころですね。

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大政:杉浦さんが写真を大切に持ち、毎日触って見られることで角や表面がどんどん削れていて、いろんな形になっている作品ですね。
「作品」っていうと、写真を杉浦さんが撮ったのかって思うかもしれないんですけど、写真を毎日持つことで形が変わっていくのを表現と捉えている。もしかしたら、それをゴミとして捨ててしまう人もいるかもしれないけど、杉浦さんの痕跡としてその行為自体も大切にされていて、なんかいいですよね。

関根:子どもの頃から「現像された写真はあんまり触っちゃ駄目」と私は言われてきました。だけど、杉浦さんは写真を触って愛でていて、写真をこういうふうに楽しむ方法があるんだって、驚きました。写真を撮ったときの風景があって、その風景が写真として現像されて、それを杉浦さんが触って愛でて、写真はどんどん色あせて形が変わって、それが作品として扱われるようになってくる。その時間の経過にも面白さを感じて、この展覧会のテーマともすごく合っているなと感じていました。

大政:会期中ご本人とお母様と支援員の方の3人で来てくださいましたね。あとは、杉浦さんが出展する展覧会を全部見ているっていうファンの方も来てくださって驚きました。

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小林:同じように写真作品を展示いただいたのが、鈴木のぞみさんですね。鈴木さんの作品は一般的な写真とは違うユニークな作品でしたね。鈴木さんは元々大政さんの知り合いだったんでしたっけ。

大政:一方的に知っていた感じですね。大学院のときに作品を拝見して、こんなことをされてる方がいるんだなっていうのを知ってずっと気になってました。写真っていうと、やっぱり紙とかそういうものに定着するのが一般的ですけど、鈴木さんは窓や鏡などに定着させるというのが斬新でした。古典的な撮影技術だけど、新しくて。おもしろいな〜と思ってました。

岡部:鏡や窓に映された風景が、その物自体にそのまま写し込まれていて、自分が見ていた風景じゃないのに、なぜか懐かしい感じがしました。不思議な感覚を呼び起こす作品でしたね。

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関根:取り壊されてしまった家の窓など、今はもう見れない風景を残しているということにも、なんだかすごくセンチメンタルなものを感じたりとか。
あと窓や鏡に目があったとしたらこういうふうに見てたんだってことを想像できて、懐かしいような、切ないような気持ちになりました。

小林:あと、ピンホールカメラの技法を使ったシリーズ作品がありましたね。鍵穴やガードレールに開いた穴だったりとか、とにかく小さい穴から覗いて見える風景を写真として切り取ったものでした。

関根:ピンホールカメラの作品は実際の風景が写っているんですよね。最初は何が写っているのか認識できなかったのに、逆さだってことに気づいてよく見ると、建物が見えてきたりとか、最初は見えなかったものがだんだん見えてくるっていう体験もすごく面白い作品でした。

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大政:鈴木のぞみさんと同じエリアでは、谷川俊太郎さんにも出展いただきました。なんと今回、谷川さんには新作の詩を書き下ろしていただいたんですよね。

関根:ココルームの上田假奈代さんにご紹介いただいて、一番最初は谷川さんに出展いただきたとお手紙を書きました。昔から大好きな詩人で、詩集を何冊か持っていて、もう谷川さんにお手紙を書けることだけで嬉しいかったです。素直な思いを伝えてお手紙をお送りしたら、谷川さんご本人から美術館に電話がかかってきました。

小林:確かそのときの電話を取ったのが私だったんですけど、「谷川ですけど、関根さんはいますか。」っておっしゃって、た、谷川さん!?ってすごく動揺しました(苦笑)関根さんに代わって、出展いただけるというお話をしていたのですごく嬉しかったですね。

関根:その電話で、改めて詩を書いていただきたいということをお伝えしたら、すぐに書きますよと言ってくださったことを覚えてます。もうすごく、驚きました。緊張して、びっくりして、電話しながら美術館の中を動き回ってたのを覚えてます(笑)

岡部:実は息子さんの谷川賢作さんと一緒に朗読とピアノのイベントも提案させていただいたんですが、残念ながら最近遠出は難しいということで、来ていただくことは叶いませんでした。書いていただいた新作の詩は、この企画の趣旨をすごく捉えたというか、むしろ自分たちが思っているところの先をまた見せてくれるというか、いろんなことを考えさせる作品でしたね。

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大政:結局、原稿はFAXで届いたんですよね。その届いた原稿をどう展示するかもスタッフで悩みながら考えましたね。

関根:読む度に、感じることが違うというか、気になる言葉や感覚が違っていて、そういうところも風景に似ているなあと思ったりしました。それに、この詩を読む前と後で、自分の目で見える世界も、少し見え方が変わってくるように感じました。言葉なので、直接的に風景を表現しているわけではないけど、展覧会のテーマそのものを表現してくださっている作品でしたね。嬉しかったです。

小林:展示では詩の一部を抜き出して、カッティングシートで展示もしましたが、やっぱりどこを抜き出すかで印象も変わってしまうので、慎重に話し合いましたよね。最終的に谷川さんにもご承諾いただいて、この展覧会で軸というか、手がかりとなるような言葉になりましたね。

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岡部:向かいの展示スペースで展示いただいた瀬尾さんは震災後に陸前高田市に入って、そこに住みながら被災された方に聞き取りをして、そのお話を作品を制作する活動されていますね。今回展示いただいたのも、そこから生まれた《二重のまち》という作品に手を加えて、新作《地底のまちへ》という形でご参加いただきましたね。

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関根:瀬尾さんも、この企画の構想を始めたときから、ぜひお呼びしたいなと思っていた作家さんでした。まだ、展覧会の企画の文章がしっかり出来上がる前だったんですが、瀬尾さんにお会いした時に出展のお願いをしたことを覚えてます。
展示は、展示室に入って右回りで見ていくと、瀬尾さんの文章やドローイングが一つの物語になっている構成でした。

小林:瀬尾さんは聞き取りしたお話をベースにしながら、それをそのままの記録ではなくて、そこに創作を加わえていくというスタイルで制作されているそうです。だからなのか、知らない誰かの話なんですが、知ってる誰かの話でもあるような、なんかすごく不思議な感じがする作品でした。

大政:植物も飾ってあって毎日水をやりましたね。

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大政:会期中には、瀬尾さんと一緒に活動されている小森はるかさんのお二人に来ていただいて、お二人の新作映像「二重のまち/交代地のうたを編む」の上映会とトークイベントも開催しました。たくさんの方々が集まって、最後は映画にも出演されているコダハルカさんのライブなんかも行ってとても盛り上がりました。

岡部:瀬尾さんは今SNSで「コロなか天使日記」っていうのを毎日更新されていて、このコロナの状況や感じたことを記し続けていますね。あとは「小森瀬尾ラジオ」という、ネットラジオなんかも放送されてて、頭が動き始めるきっかけというか、考えるヒントを沢山いただいてますね。

小林:瀬尾さんの著書『あわいゆくころ』に、「誰かが忘れずに、覚えていてくれるように。そして同時に、誰もが忘れてもいいように。」っていうフレーズが出てくるんです。今の「コロなか天使日記」のことも当時の震災時のことも、まさにこの言葉にいろいろ込められているなという感じがしています。記憶だったり、語り継がれるものだったり、そしてその中で生まれてくる表現っていうか創作だったりとか、そういったものにすごく丁寧に向き合っている方だなと思ってます。今後もいろいろと何か繋がっていけるといいですね。

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大政:そうですね。あとこの展覧会でとても記憶に残る作品を作っていただいたのが、ハナムラチカヒロさんですね。ハナムラさんは設営のときから美術館にお越しいただいて、いろいろ話をしながら今回の作品《Translucent Fukushima/半透明の福島》という作品を作っていただきましたね。

関根:美術館の空間を大きく使って白い半透明のビニールを設置したりとか、普段だと高くて見れない窓から景色を見るために階段を作って半2階みたいな空間を作ったとか、すごく面白い作品を作っていただきました。ハナムラさんは、「風景は時間や出来事の積み重ねでできていて、一瞬先に何が起こるかわからない。そういうことをビニールを使って表現した」とおっしゃっていました。

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岡部:そのハナムラさんの作品で、美術館の常連さんでもある安藤家のヒロくんに音声を吹き込んでもらったのがとても印象に残ってます。そういう耳で聞く行為、音声だったりとか、あとは日本地図上に自分がどこから来たかポイントしたりとかっていう距離感だったりとか、半透明のビニールをくぐり抜ける感覚だったりとか、いろんな感覚を研ぎ澄ましながら、最後に半2階のお墓が見える美術館の裏庭の風景を見ながら手紙を書くという一連の行為が作品となっている。そして、先に来た方が残された、誰かの手紙を読むことができるというようなコーナーまでが一つの作品となったものでしたね。

大政:インスタレーションの作品なんですけど、何かといえば、演劇に近いような形の作品だったかなって思います。お客さんは体験を通して進んでいくんですけど、”誰かに言いたかったけど誰にも言えなかったような話”を風景を見ながらしたためる時間を持つんですよね。自分に向き合いつつ、誰かの時間に向き合いつつ、福島っていう要素も含め本当にいろんな想いがそこで交わっていたんじゃないかなって思います。

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関根:町内の小学生で、何度も来てくれて、何回も手紙を書いてくれた子もいましたね。誰にも言えなかったけど言いたかったことを手紙に書くっていう行為って、考えてみればすごく新鮮だなって、改めて思いました。普段溜めてた想いを出せる場所になったのかもしれないなと思いました。

大政:その子が友達を連れてきたり、あとお父さんを連れてきたり、いろんな人を連れてきて、体験を共有してたも興味深かったですね。

小林:やっぱりハナムラさんの想いとして、震災から8年9年経つ中で、それでもまだ何か誰にも声を伝えきれてないものを持ってる人がいるんじゃないかっていうことで作品を考えられていましたね。やっぱりさっきの小学生のお話もそうですけれども、想いを出せる場所が必要なんだなっていうことも感じた作品でした。

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大政:最後はクワクボリョウタさん。スタッフ全員、どこかでクワクボさんの作品を拝見していて、いつかこの美術館でも実現したいなって思っていたところ、思い切ってお誘いしたら快くご出展いただけましたね。

関根:クワクボさんがおっしゃってたことですごく記憶に残っていることがあります。物を食べたりしたときに美味しいって感じたりするけど、見ること自体を楽しいって思うことがあんまりないから、見ることを楽しめる作品を作りたいと思って、この作品を作りはじめたって伺いました。実際に、本当に見ることに夢中になれる作品ですね。ライトをつけた鉄道模型の電車が動いていろんな日用品を照らしていく作品ですが、見ていると旅に出たような、電車の中から知らない街並みを見ているような、何か映画を見たような気分になりますね。
最初はいち鑑賞者として、その映像を見ているつもりだったのに、気づいたらその中の世界にいるような気分になって、最後まで行って電車のスピードが変わったときに急に現実に戻される切ない感じとかもあります。見るということだけでなくて、いろんなものを全身で感じることができる作品だなと思います。

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小林:すごくよくわかります。この作品は《LOST #17 》っていうタイトルで、Ligtht / Objects / Space / Timeの頭文字をとったものでした。やっぱり今関根さんが話したような、自分を失うみたいな、本当に迷うとか失うみたいな意味も込めてるっていうのが、とても実感できる作品でした。

大政:最初は机の上で電車が回っていくのを周りから見るっていう構想もあったんですけど、いろいろ検討される中で、電車が走るエリアを一段上げるっていうような形になりました。その一段上げるっていうのは言葉で言うと簡単ですけど、真っ暗の部屋を作りつつ、一段上げたステージを作るのに、クワクボさんとアシスタントに来てくださった中路さんお二人が短期間で仕上げてくださって本当にありがたかったです。

小林:クワクボさんも、最近は自分でやることが少なくなったからすごくあの楽しいというありがたいお言葉をいただいて(汗)でも本当に惚れ惚れするような手際の造作でした。

岡部:LOSTシリーズは他の美術館や展示会場でも展開されてますが、ちょっと距離をとって見るような、大きな壁に影を投影するタイプのものが多かったですよね。今回のように小さいスペースだと自分が没入していけるような感覚が生まれて、ここならではな感じになったのかなとも思います。

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関根:あと、この企画展では「みんなで遠足!〜この地を踏みしめる〜」というイベントも開催しました。まち編、ふもと編、やま編と3回に分けて、その場所の歴史に詳しい方に案内していただいて、五色沼周辺、土津神社、商店街を一緒に歩きました。すごく楽しくて、参加していただいた方と一緒にワクワクする時間を過ごせたことを覚えてます。

岡部:まち編では、このはじまりの美術館がある周辺の風景の成り立ちを、お客様と一緒にまさに足で踏みしめて体感できた貴重な機会でしたね。

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小林:あとは、プランツ・プラネッツでデザインでお世話になったITWSTのお二人には、今回「一瞬のヒント」というワークショップという形で関わっていただきましたね。参加者の方にインスタントカメラでこの美術館の周りの風景を切り取っていただいて、それを最後まとめてITWSTのお二人が冊子にするという豪華な内容でした。

大政:3台のインスタントカメラを置いて、1人3枚だけ気になった風景の写真を撮るというルールでしたが、完成したものを見ると本当にいろいろな風景が集まりましたね。残りわずかですが、ZINEはオンラインショップでも販売しております

関根:3台のインスタントカメラもITWSTのお二人がすごくかわいくペイントしてくださいました。カメラを持って美術館から出かけるお客様も、すごく楽しそうでしたよね。あと、みんなが撮った写真が1冊の冊子になったときに、記憶したい、記憶したいと思った風景が、こんなにみんないろいろなんだなって感じました。撮影した時も、冊子になってからも、楽しいワークショップでした。

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岡部:それと、5周年のはじまるしぇもこの企画の期間中に開催しましたね。はじまるしぇの中で、まんなか展のメインビジュアルのハルジオンを描いていただいたコーチはじめさんが、「大きな花の顔出し看板で写真を撮ったり、好きに塗ったチョウチョを貼ったりできるコーナー」っていうワークショップも開催いただきましたね。みんなに見られながら大きな花の顔出し看板から顔を出すのが、恥ずかしさもありつつ参加したみんなが笑顔になるワークショップでしたね。

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関根:本当に楽しいワークショップでしたね。コーチはじめさんのことは以前から大好きで、この展覧会をやるってなったときにぜひコーチさんにイラストを描いていただきたいと思っていました。メインビジュアルになったハルジオンのイラストを最初に見たときに、なんか、身体の中に爽やかな風が吹くような感覚がしたんです。その感覚がこの展覧会のイメージというか、伝えたいことに近いような感じがして、このビジュアルにしたいって思いました。

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大政:コーチさんは会期中何度も観に来てくださったりとか、最近お越しになったときはまんな展のイラストをラベルにしたワインを美術館にプレゼントいただき嬉しかったです。
今までの展覧会だと、デザイナーさんにメインビジュアルの作成をお願いしてたんですけど、今回は初めてビジュアルはイラストレーターの方にお願いしてデザインは別の方というスタイルをとりました。デザインは初めて一緒にお仕事させていただいた加賀谷さんでした。

関根:加賀谷さんは、私の友人から紹介してもらったデザイナーさんでした。とても細やかに対応していただいて、私が悩んで決めきれないときも、本当に一つずつ丁寧にデザインしてくださる方で、かっこいいフライヤーとポスターと記録集ができました。今回の展覧会撮影は仙台在住のはま田あつ美さんに撮っていただきました。はま田さんは加賀谷さんのお知り合いでご紹介いただきました。特にハナムラさんの作品では、動きを感じるこだわった写真になったのでぜひ見ていただきたいです。

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小林:そして.記録集ではまさに『風景論』という著書も出されている、港ちひろさんにご寄稿いただきましたね。

関根:港さんの本なども読ませていただいていたのですごく嬉しかったです。展覧会のテーマとか、伝えたいことをすごく汲み取ってくださっていただいた文章でした。

小林:今回「あした と きのう の まんなかで」っていうタイトルでしたが、港さんの文章でもやっぱり「まんなか」っていうところすごく捉えていただいたなと思っていて。真ん中ってやっぱり揺れるんですよね。常に揺れていて「今」っていうのが積み重なっていくようなイメージがありました。その積み重ねが今目の前にある風景も作っているし、これからの風景も作っていくっていうような、そういうところが伝わればいいなって思いましたね。

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関根 :今こうやって改めてこの展覧会を振り返ってみて、やっぱり生きてること自体がいろんなことの積み重ねなんだなっていうことを感じています。今のコロナウイルスの影響とかもあって、当たり前だったことができなくなったりとか、何が本当に正しいのかわからなくなることとかもあったりして。だけどそんな中でも、自分はどうするのかってことを考え続けなきゃいけないなって思いました。私達はみんなそれぞれ最前線にいて、それぞれの積み重ねのなかで風景を作ってるんだなってことを改めて気づきました。

岡部:そうですね。積もる話が多くて長くなってしまいましたが、そろそろこの辺で。関根さん今日はありがとうございました。また美術館に遊びに来てくださいね。

関根:はい、もちろんです!ありがとうございました。

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