邪険にする人 されるひと
「邪険」という言葉を聞いたことはあっても
あまり馴染みのなかった幼少期。
「どのように表記するのか」をしかと認識したのは
「犬夜叉」だったと思う。そう考えると、漫画って学びの手段だ。
さすがに成長してくると
それがどういうものなのかを知ることになる。
これはきっと、よくある話で
何も特別なことではないと思うけれど
私の母は、義理の父母の住むところに「同居」する流れで嫁いできた。
今考えるととんでもないな、と思うのは
お見合いを重ねてもなかなか結実しない息子(長男)を案じて
義母は神社に足しげく通い、願掛けに行きまくっていたらしい
※ただし通っていたのは不動明王様のところで
その手に携えた倶利伽羅剣では嫁を招くご利益はないのでは・・・
もう、神仏に頼らざるを得ないくらいにもう必死。
我が家は無宗教であらせられるに、こういう時だけ縋られたところで
神仏界隈の皆様方も「Pardon?」だったであろうとお察し申し上げる
そんな状況の中
父の眼鏡にかなう女性が現れた。
そう。わが母である。
“交際”を目的とした女性との言葉の交わし方も
ましてやエスコートの”エ”の字も辞書に載っていない父と
初対面から明らかにこちらを訝しんでいる態度の義母に
当然のことながら交際を断った母であるものの
執拗に迫ってくる仲人の押しと脅迫めいた売り込み文句に
折れた結果、当然待っていたのは地獄の日々であった
高血圧まっしぐらの濃すぎる味噌汁
「すすぎの段階であっても風呂の残り湯」を使わされる洗濯
何をしてもしなくても、火矢のように飛んでくる罵詈雑言と嫌味
なぜ神仏にまで縋ってようやっと来てくれた嫁に対し
そんなことが出来るのか
答えは単純明快
「自分のかわいい長男坊を”ほかの女”に盗られた」という錯覚である
父の生まれは、日本が経験した最後の戦争 その終戦末期
焼け野が原を駆け抜け、虫でも草でもなんでも食べて過ごした時勢
それに輪をかけて、小児リュウマチを抱えたりと何かと手のかかった長男坊は、母親にとって手塩にかけたかわいいかわいい愛息子なのであった
「生涯独りぼっちではかわいそうだから嫁には来てほしい」
「だがしかし、自分の愛する息子が盗られるのは悔しい」
相反する感情が同居する中、勝利を手にしたのは後者のほうで
故に熾烈な嫁いびりを、親戚中巻き込んで執り行っていた
その間、母親のいう事は絶対だった私の父親は
私の母親を守ることは一切せず、見て見ぬふりをし続けた
「じゃあ別れればよかったのに」と思う人もいるだろうけれど
経済的な問題と体調の兼ね合いからそれが出来ないという事もある
したがって、その暗黒時代を耐え抜いた母は
義母義父がこの世を去って
「ようやく私が報われる時代が来る」
そう信じていた
しかし待っていたのは
「義母の性質を隅々まで引き継いだクローンのような夫」だった
神経を逆撫でする発言に、「いやだ」と思うことを率先して実施する
酒とたばこに溺れる暴力沙汰が無いだけで
「精神的・言葉による暴力」は今もなお続いている
それに対抗するように
金切り声を挙げて応戦する母
連日継続するこの地獄のような環境で
共に暮らす人間に影響がないといえば噓になる
人にせいにするのは良くない事は重々承知の上で挙げると
それが影響して子供は神経過敏になり、人の顔色を窺い、心を閉ざし、
「この世すべてが憎い」という表情にすらなっていった。
現在齢80を超えた父は
以前より丸くなったようにも思える。
自分の妻(私にとっての母)に構ってほしくて声掛けや触れようともする
その全てが、私の母にとって「心底厭」な事であるのは想像に難くない
だからこそ、毎日のように金切り声を挙げて全身全霊で拒絶する
訳あって共に暮らしている私にとっても当然落ち着かない環境である
邪険にする母 される父
このトムとジェリーの追いかけっこのような日々は
どちらかが旅立つ時まで続いていくのだろう