クリームソーダと恐竜
かなり文化的な教養を大切にする母だった。
私が幼稚園に入る前から、週に一回は図書館に連れて行っていろんな本を読み聞かせた。
そんな母が図書館ほどではないけれどよく連れて行ってくれたのが、上野にある科学博物館だった。
巨大なシロナガスクジラがシンボルの博物館には、地球の成り立ちが360°映し出されるドームとか、世界で一番綺麗なトリケラトプスの全身化石とか、さまざまな哺乳類の剥製(閉館時間が近づいても帰ろうとしないと、「ここの仲間にされるよ!」と脅されたものだ) とか、あとは類人猿のルーシーとか、色々なものが展示されている。
私が恐竜とか鯨が好きなのは、ここからきているのだと思う。
恐竜の化石を見ると、こんなに大きなものが私たちと同じように生きて、私たちと同じ地面を歩いていたのか!と、何度だって感動してしまう。
博物館に行った時の楽しみが、もう一つ。
それは、全部を見終わった後に飲むクリームソーダだった。
私の母は、着色料を嫌っている。
だから普段は禁止なんだけれど、博物館に来た時だけ、クリームソーダを飲むことが許されるのだ。変なルール。
ちなみに、母は肌に悪いからと柔軟剤を使わないからタオルはヤスリくらいゴワゴワだし、ファブリーズも同様。病院での出産は母子の愛着形成に良くないからと私は自分の家の和室で生まれたし、染髪料は子宮に毒が溜まるからヘナしか使わない。
だから、クリームソーダは、幼少期の私にはそれはそれは特別で魅惑的な飲み物だった。
何味かわからない緑色の甘いシュワシュワに、ソフトクリームが浮かぶ。それらはだんだん混ざり合って、緑から薄緑、そして白のグラデーションができる。
今は私は母のさまざまな「宗教」から半分くらい解放されて、柔軟剤をしっかり規定量使ってふわふわのタオルで肌を労るし、なんなら他人様の何倍も病院にお世話になっているし、周りと比べて厳しすぎる門限もなくなって、いろんな喫茶店を巡る。(髪は染めていない)
やっぱり幼少期からの生活環境って大きくて、私は正直あのかき氷シロップみたいな類の味が得意ではない。
し、なんなら牛乳でお腹を壊すタチなので、ソフトクリームも避けて暮らしている。
それでも、重ねてきた歴史の分だけ趣があって紫煙漂う喫茶店で頼んでしまうのは、クリームソーダなのだ。
クリームソーダにストローを突っ込むと、初めはグラスの底に溜まったシロップの濃すぎる甘ったるい味がする。
その甘さが、苦手で、そして大好きなのだ。
トリケラトプスが歩く大地、シロナガスクジラが泳ぐ海、グラデーションを描く緑。異世界みたいな世界が私の地続きだって、どうしたって世界の壮大さに打ちのめされて、ワクワクしてしまう。
いつだって私を未知の世界に連れて行ってくれるクリームソーダは、文化の味がする。