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大きい箱と小さい箱

仕事机のPCモニターに取り付けていた外付けのwebカメラが突然壊れた。内蔵マイクが機能しなくなり、こちらの声が相手に届かなくなったのだ。

仕事用のPCにはMac Airを使っていて、家ではそれを大きなモニターにつなげて作業している。ノートPC本体のカメラとマイクは生きているので、外付けのwebカメラがなくてもオンライン取材などは可能なのだけど、その度にノートPCを開いて小さな画面で仕事をするのは効率が悪い。

仕方なく、新しいものを購入するために、近所の家電量販店を訪れた。

コロナのころ、テレワークが仕事現場に普及した影響でwebカメラも需要を伸ばし、売り場面積を増やしていると思っていた。

しかし実際の売り場は什器半分ほどのスペースしかなく、フックにかけられている商品の種類も多くない。はじめから需要がなかったのか、コロナが落ち着いて需要が減ったのか。

在庫のあるwebカメラは、日本メーカーと海外メーカーのふたつから選ぶことができた。位置関係から察するに、目立つところに陳列されている日本メーカーの商品を店側は売りたいようだ。

しかし、店舗の意向を無視するように、棚のいちばん下のほうで肩身を狭そうにしている海外メーカーのwebカメラを買うことに決めた。性能はほぼ一緒。値段はこちらの方が少し高かった。

悩んだのだけど、決め手はパッケージの大きさだった。

日本メーカーのパッケージは、小さなwebカメラにしてはやたらと大きい。ガンダムのプラモデル並みの大きさがある。理由は、たくさん印刷されている売り文句が教えてくれた。高画質、音質クリア、4K動画に対応など、性能を消費者にしっかりアピールしたいのだろう。真ん中にはクリアフィルムを使い、webカメラの実物が見えるようにも工夫されている。

一方、海外メーカーのパッケージは、めちゃくちゃ小さかった。小型のワイヤレスイヤホンのケース並みのサイズしかない。おそらく、商品が収まるギリギリの寸法で設計されているものと思われる。性能をアピールするテキストもゼロに等しく、すべて紙でできているので、箱を開けないと中身を見ることもできない。

山に登っていると、環境の変化を目の当たりにすることがある。10年前、12月上旬にはしっかり凍っていた山奥の滝は、近ごろは年を越えてもなかなか凍らなくなってしまった。年々、降雪量は減少傾向にあると聞く。地球は明らかに暖かくなっているのではないだろうか。

そんな地球の異常を受けて、世界では環境負荷を減らそうと、特に欧米を中心に意識の変化が広がっている。多くのアウトドア製品にリサイクル素材が使われるようになったのは、その一環だ。

では、日本もそうかというと、ちょっとようすが違う。環境負荷の少ないアウトドア製品を買った方がいいよ、なんて発言すると、意識が高いね、と揶揄される始末である。私の感覚では、意識が高いのではなく、これが世界のスタンダード。周りの意識が低くいだけではないだろうか。

家電量販店で目にした大きなパッケージと小さなパッケージは、日本と世界の意識レベルの差を目に見える形で表していた。最小の資源で作られていたパッケージの商品はスイスメーカーのものだった。

この国は、世界が沸騰するまで異変に気づかないのだろうか。小さなパッケージを買ったのは、もどかしい現状に対するささやかな反抗なのだった。

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