ゴム玉になりたくない
人って、地面に落ちると、ゴム玉のように弾む。ボイン、と弾んで、バタッと、止まる。
書き出しからテーマがエグい。エグいけど、そんな凄惨な現場を2回も目の当たりにしたことがある。アイスクライミングって、やっぱり危険なんだな。
2回とも、八ヶ岳だった。
1回目は、初級ルートで有名な、裏同心という短い谷。いちばん初めに現れる滝を、命綱をつけずに登っていたおじさんが、突然グラグラし始めたと思ったら、凍った滝から引き剥がされて、真っ逆さまに落ちてきた。
地面にぶつかり、ボインと弾んで、バタッと止まった。その直後に聴こえてきたのが、ギャーーっという悲鳴。声の主は、件のおじさん。額から血を流し、ほかにもどこか強打したのだろう、苦悶の表情で叫びながら、激痛のほどを周囲に発しまくっていた。
2回目は、こちらも初心者の練習にちょうどいいことで有名な、南沢小滝。滝の左端を登る仲間の、右のさらに右のスペースを登り始めた女性が、中段まで登ったら、やはりグラグラし始めて、アッと思った瞬間に地面に落ちて、弾んで止まった。
女性は命綱をつけていた。それでも運が悪く地面へ墜落してしまった。
落ちた女性は静かにうずくまっていた。周囲に緊張が走る。女性の仲間たちがすぐさま駆け寄り、安否を確認。打ちどころがよかったらしく、肩を支えられながら立ち上がり、ヨロヨロだけど自力で歩いてその場をあとにした。
ちなみに、裏同心で落ちたおじさんは立ち上がれず、その場に居合わせたクライマー全員で介抱。数時間後にやってきた救助隊によって運ばれて、最後はヘリコピターで吊られて空の彼方へ消えていった。
アイスクライミングを続けている以上、危険は避けて通れない。かく言う自分も滝から落ちたことがある。運良く繋いでいたロープで止まったので、地面にぶつかり弾んだことはないけれど。明日は我が身、なのである。
危険性をコントロールしながら、なるべく安全にアイスクライミングを続けたい。ボインと弾むのは、ゴメンこうむりたい。