道端でLINEを聞いてきた男にバドミントンに誘われて体育館に行ったらハイテンションな若者が200人くらいいた話
2020年の晩冬、会社から駅まで歩いてる途中に男1女2のグループに声を掛けられた。
「お兄さん!この辺でおいしい店とかないですか!」
よほど急いでいない限り、こういう手合いには対応することにしている。無視して厄介ごとに巻き込まれるのも癪だし、コロナウイルスが流行の兆しを見せる中、軽率に道端でコミュニケーションしてくるやつならなおさらだった。
いくつかおすすめを教えて少し世間話をした。
名前はサブロー(仮名)といい、僕の1つ年下だということ。
少し前まで浦安に住んでいて、テーマパークでキャストをしていたこと。
女2人は飲み友達で、新宿に飽きたので少し離れたこの街で店を開拓したいこと等々。
会話の終わりにLINEを聞かれた。コロナ自粛の雰囲気に辟易していたこともあり、二つ返事で教えてしまった。
今度飲みに行きましょうね!と残して、彼らは僕が教えた店へと向かっていった。
数日後、彼からメッセージが来た。
「今度、僕が所属している社会人サークルでバドミントンするんですが、よかったらどうですか?」
メッセージとともに、学校らしき体育館で10人くらいの男女がバドミントンのコートを囲む写真が添付されてきた。
突拍子の無い誘いだったが、ちょうど日ごろの運動不足を懸念しており、ラケットスポーツも好きだったので、二つ返事でOKした。
日程は休日の夜、場所は渋谷区の中学校の体育館だった。
当日、電車とバスを乗り継いで、住宅街のど真ん中にある中学校へと向かった。大きな中学校で、体育館は地下含む3階、アリーナのほかに水泳場もあった。
体育館の前でサブローに連絡すると、地下の更衣室で着替えてからアリーナに来てほしいという。
更衣室に行くと10人くらいの若い男たちが着替えていた。意外と人数がいるのかな、とその時は思った。
着替え終わり、1階のアリーナに向かう。
そこには目算で150人を超える若者がいた。
そして、人数はどんどん増えている。
いったんアリーナの外に出てサブローに連絡すると、入り口まで迎えに来てくれた。
「なんか、多いですね……」
「いや~今日はちょっと多いかもですね!賑わっていいですね!」
人数が異様に多いこと以外は、大学のサークルのような雰囲気だったので、とりあえず気にしないことにして、サブローと準備運動がてらラリーをした。5分ほどしたころ、集合がかかった。
4面コートに別れ、5チームでリーグ戦をするらしい。1チームには10~11人いた。
単純計算で200人いることになる。卒業式?
僕はアリーナの一番手前のコートのりんごさんチームに配属された。来た時点ですでに組み分けが決まっており、サブローとは別のチームになってしまった。
「はい!僕がりんごさんチームのリーダーのヨッピーです!今日は初めましての人が3人います!嬉しいですね!ここではみんなニックネームで呼び合います!これから自己紹介してもらってみんなでニックネームを決めたいと思います!」 マジで?
自己紹介タイムが始まってしまったので、とりあえず本名で自己紹介した。
「山田さんね。そうだな~みんなは何がいいと思う?」
「ヤマちゃん!」「やまだん!」「ヤマヤマ!」
こいつら日本人か?ってくらいに積極的に案を出してくる。正直この段階でだいぶ恐怖を覚えていた。
「よし!ヤマヤマにしよう!」
僕が異議を唱える余地なく、僕の名前はヤマヤマに決定した。
「それともう一つ決めることがあります!チームの結束力を高めるため、点を取るたびにみんなで同じ決めポーズをします!」 マジかよ
「今日の決めポーズ、何か案がある人!」
「何がいいかなあ……今日は3人も新しい人が来てくれてめでたいし、めでたい感じがいいよね! めでたいと言えば、オードリーの若林に子どもが生まれたらしいよ!」
「それはおめでたいね!オードリーといえば春日の一発ギャグが面白いよね!」
「じゃあ、鬼瓦でどうかな!」
「賛成!」
1点取るたびに円陣を組んでみんなで鬼瓦をすることになりました。
上述の会話はほぼ原文のままである。やけに声がでかいし、喋りが(下手な)芝居がかっている。もう逃げたかったが、試合開始直前であり、逃げるのは無理そうだった。
試合が始まった。両チーム10名近くいるので、1点取るか取られるたびにプレイヤーを交代、こっちが点を取れば「鬼瓦!」をするので非常にテンポが悪い。ちなみに相手のチームは「はい、オッパッピー!」をしていた。体育館中でいろんな一発ギャグが披露されていた。
7回目の鬼瓦で僕の気持ちに変化が表れはじめた。
「あれ……なんか楽しくなってきたかも……」
自分がプレイしていないときは応援するよう諭されたため常に声を出しており、冬とはいえ、人の密集で体育館内には熱気が充満しいた息苦しさもあり、否応なしに気分をハイにさせられていた。
僕と同じ初参加で最初は照れていた22歳のハッピーくん(本名:村上)も、今では大きな声で鬼瓦をやっている。
よくわからないが、ここにいたら間違いなくやばいと思った。
8回目の鬼瓦をする前に相手が11回オッパッピーをしたので試合が終了した。(人数が多いの11点先取で試合終了)
チームメンバーが負けて本気で悔しがっている隙に、荷物を持ってサブローの元へと走った。
「サブローさん、すみません、ちょっと無理なんで帰ります……」
「えっ、どうしたんですか?なんかありました?」
「あの、ちょっと無理なんで……ヨッピーさんには適当に言っといてもらえますか……すみません……」
「わかりました。こちらこそすみません、人多いの苦手とかでした?気をつけて帰ってください!」
無事、体育館を脱出することができた。
数時間後、サブローから詫びのLINEが来た。あの後、飲み会が開催されたらしい。
コロナ下で彼らを受け入れる店があるのかと思い、どこでやったのかと聞いたが、「普通の居酒屋ですよ」とだけ返ってきた。
あれから1度だけサブローにスポーツに誘われたが、断って以降連絡は来なくなった。あの社会人サークルはまだ活動しているのだろうか……
おしまい
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