鎌倉高校前フォーエバーサマー。

 雷雨と低気圧の暗いトンネルを抜けて、まるでスキップしたくなるような晴天の今日。長らく体調不良で滞っていた作業を進める。輝かしい光に煙草の煙が溶け出す午後。食べ切れない量のケンタッキーを頼んでしまった自分の事も少しは許せそう。

 排気口WSオーディション参加者の皆さんにおかれましては選考結果を送らせて頂きました。合否問わず皆様の想像力に見えない敬意と慈愛の花束を。もし落ちてグぬぬ!!な方は私を恨んでください。枕元に立って下さい。それがあんまりにも続くようなら、霊能力者に祓ってもらう。でも、そうはならない恨み合い。今、そんなのってそうそうないよね。

 WS毎に書き下ろす辛い台本作業は、その全てを参加者皆さんの素晴らしさによって帳消しになった。だからまた次のWSの時も台本を書く。愚痴とか酒とかに塗れて。そこはちょっと大目にみてね。

 「選ばれなかった」というのは「選んだ」人間の素晴らしさを見つめる視力の欠如も意味するんだ。だからまた会おう。今度はもっとブルーベリー食べて貴方の前に立てるといいな。

 私が多くの影響を受けている、そして長年敬愛&愛聴しているASIAN KUNG-FU GENERATIONが7月5日に『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』を発売する。これは2008年に江ノ電各駅を楽曲にした10曲入りアルバム(傑作!!)『サーフブンガクカマクラ』に残りの5駅を足した江ノ電全15駅収録の完全版である。正にその間15年振り。待ちに待った。わー!!なのだ。

 この感激具合を読んでいる貴方に分かるだろうか?幸いにも私の周りにはアジカン好きが多い。『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』発売の報を聞いて飛び上がらんばかりの胸の高鳴りを酒に溶かして踊る夜を過ごしている。

 既に発表されている「柳小路パラレルユニバース」「日坂ダウンヒル」という楽曲の素晴らしさ。「柳小路パラレルユニバース」の一節には「BGMはバディ・ホリー メアリータイアームーアはいないけど」とある。これはザ・クリケッツを率いたバディーホリーが流れているという意味ではなく、恐らくweezerの名曲「 buddy holly」を指している。その曲のサビで高らかに歌われる歌詞は「僕はバディ・ホリーみたいで 君はメアリー・タイラー・ムーアそっくり 奴らが何て言おうが気にしない そんなの気にしないよ」

 「日坂ダウンヒル」は同じくweezerの名曲「El Scorcho」オマージュ。歌詞には岡村靖幸「あの子ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」や『スラムダンク』オマージュも。とかく素晴らしい、本当に素晴らしい楽曲なのである。

 去年の夏である。真夜中の酒宴の席の事だ。まだ『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』の詳細が発表されていなかった頃、酔った雑談の中で、その場にいるみんなで残りの5駅の楽曲名を予想するゲームをして楽しんだ事がある。その時に私が予想したのが「鎌倉高校前フォーエバーサマー」だった。実際は「日坂ダウンヒル」であったが(日坂は鎌倉高校前駅の旧称)私は何故かこのタイトルを妙に気に入り排気口の仮フライヤーにも使っている。

 「鎌倉高校前フォーエバーサマー」我ながら良いタイトルな気がする。アジカンの楽曲に素晴らしい詩を添える後藤正文ことゴッチのロマンチシズムと勝手ながら交信出来た真夜中の酒宴だった。その日、夢にゴッチが出てきたのだ!!寿司を美味しそうに食べていた!!

 多くの場合において台本作業の想像力の源泉はアジカンの楽曲である。現実を憂いて安易な冷笑主義に陥りそうな時も、全てを諦めて「正しさ」と「間違え」しかこの世には無いと思い込む時も、アジカンの楽曲がそうではない明日を音と言葉で鳴らしてくれる。そんな時に私は、如何にもう何も出来ないような疲れの中でも踊って夜を超える事が出来る。

 現在、鋭意台本作業中の排気口新作公演『逆光より(仮)』にもその影響はあるのだろう。

 演劇は「滅びゆく人々」或いは「悲劇の直前の時間」を慈しみをもって描く事が出来る。今、目の前で演じられる全ての声と身体が滅んでいく。その時間がもう間もなく哀しみに浸される。そんな予感を多くの歓びに変える事が出来る。それはロックミュージックを聴いてる時の歓びに近い。

 どうかそんな歓びが1つでも増える様に。例えば、誰かがコンポで流した音楽がとても気に入ってしまう事。酒で失敗してしまう事。何もかも嫌になる事。もう死んでしまおうかと思う事。それでもフト流れる音楽に心を動かされてしまう事。

 まるでスキップしたくなるような晴天の今日。この具合だと今年の夏も暑そうだ。『サーフ ブンガク カマクラ(完全版)』を聴きながら夏の私はきっと稽古をしている。まだまだ台本を書いてるかもしれない。夏バテ気味かもしれない。クーラーの入れ時を迷っているかもしれない。

 誰かから聞いた哀しい話に気分がしょげてるかもしれない。自分の残酷さを自覚して嫌悪しているかもしれない。貴方の失敗を同じように笑っているかもしれない。誰かの成功を憎んでいるかもしれない。穏やかな心で何かを丁寧に愛でているかもしれない。

 しかし、どうであろうと心躍る音楽に「永遠」を託しているのだろう。

 その永遠が溶けて、もう一息で消えてしまう瞬間の結晶こそ排気口新作公演『逆光より(仮)』だ。2023年9月29日から。みんなが夏を忘れた頃だ。落ち葉の下に埋もれた命を潰して歩く季節だ。

 全ての穏やかさを祈って。


 

 


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