どうして私は星野源を聴いてこなかったのだろう?
久しぶりの休みの朝、起き抜けに麦茶を飲もうとしてコップにそそぎ飲んだはいいがそれが麵つゆで、せっかくの休みなのに最悪である。自分のこのような茶目っ気が許せない。歯磨き粉と洗顔フォームもよく間違える。自分のこのような洒落っ気も許せない。
口の中から麵つゆの味が無くなるまでボーっとテレビを観ていた。本物の麦茶を飲んで、それから麺つゆの味が口の中から薄らいできた頃合いにテレビが星野源のインタビューを映した。
最近の星野源の姿が非常に私の好みなので、散歩のついでに立ち寄る本屋でも星野源の姿をみるとつい立ち止まってしまう。昔の星野源の素朴な感じよりも、今のシュッとした感じの方が私は好きだ。「タイガー&ドラゴン」の星野源よりも「いだてん」の星野源の方が良いみたいな。
そのインタビューで星野源はしっかりとした、それでいて穏やかな語り口で自身の音楽について喋っていた。いわくコロナ禍をキッカケに作曲の方向性が変わった云々と。私はまた麦茶を飲みながら「ほえー・・・」と変な音の嘆息をして、やっぱ星野源はすごいなあとか思っていた。
そうしてテレビは次の映像に切り替わり、私は立ち上がり、切れていた豆腐を買いに出かけようと靴を履く。ドアを開けると秋の匂いが鼻をついた。私は無性にワクワクして、ネギとか使う充てもないけど買おうと思った。それから爽やかな曇り空を見上げて、夕刻になったらお酒を呑みたいなと思った。何故なら今日は休みだから。そして足取り軽くスーパーに向かう道中で私は星野源の音楽を殆ど聴いた事がない事に思い至ったのだ。
そう、星野源の音楽を代表曲の数曲(これも非常に怪しい感じなのだが)を覗いてまるで全く聴いたことがないのだ。星野源の事を嫌いな訳じゃない。むしろ上記に書いたように好き寄りだ。星野源が好きを公言しているプリンスも細野晴臣も好きだ。そんな事を知っているのは、何故なら、インタビューは読むからで、例えばあの非常に素晴らしいムジカのインタビューとか。
なのにどうも音楽を自分から聴こうとは思わなかったのだ。そしてこの感慨も今日の夕刻以降には忘れてしまうだろう。だって今日は休みで、お酒を呑むから。昨日も吞んじゃったけど。
今こうして排気口noteを書いている私の部屋には長年使っているオーディオからビーチボーイズの大傑作『ペットサウンズ』が流れている。その前はビートルズの大傑作『ラバーソウル』が流れていた。この次は恐らくエレクトリック・ライト・オーケストラを聴くと思う。何故なら休みだから。
この期に及んでも星野源の音楽を流さないのは何故だろう?理由は分からない。iPhoneをオーディオに繋げば一瞬なのに。何故かそうはしない。漠然と今じゃない今じゃないと予感があるのかもしれない。
今じゃない。思えば、私にはそう言った今じゃないみたいな予感を信じて未だに聴いたり、観たり、触ったり、体験したり、してこなかった色々がある。星野源の他にも浜田省吾がそれだし、Official髭男dismもそうだ。洋楽ならブラーがそう。観たりは黒澤明の殆どの作品、ブレイキングダウンの最近のやつ、転生したらスライムだった件がそう。触ったりはマンチカン、友人の赤ちゃん、舞台照明のめちゃくちゃ熱くなった灯体がそれ。体験したりはメンズエステとスキューバダイビング。
他にももっとある筈だ。漠然とした今じゃないに阻まれている色んな世界が。それが根拠のない間違えだとしても私はどうも従って生きてしまう。
それが損なのか、得なのかはよく分からない。でも特に困ってないから別にいいのかもしれない。いつかやってくる「今だ!!」の予感を気長に待つのも私の性には合っている。
でもどうせなら「今だ!!」の予感は間違えたくない。なるべくなら。
1つ思い出した事がある。友人と酒を呑む約束をしていて、その友人が遅れてくるとの事、仕方なくいきつけの居酒屋で1人で吞みながら待っていた。隣のテーブル席で若い男女が仲良く話している。聞くともなしに聞いていたらどうやら同じサークルの先輩後輩らしい。女性の方が先輩で男の方が後輩。先輩の女性は確かに美人だった。後輩の男がやたらと「今夜は奢りますよ」としきりに言っていた。どうやらけっこうな杯を重ねているらしく後輩は赤ら顔で酔っている。
ふと後輩と先輩の会話が止まった瞬間と私の頼んだ3杯目のハイボールが届いたのはほぼ一緒だった気がする。つと気になってハイボールに口をやりながらチラリとみると、後輩は赤ら顔のまま真剣な顔で先輩を見つめていた。それから後輩の手が先輩の手に触れようとした。でもひらりと先輩はかわし笑って「トイレ行ってくるね」と席を立った。
どうやら後輩は「今だ!!」を間違えたのだ。さっきの陽気さが嘘のようにシュンとしている姿に、私まで切なくなった。そっか、そっか、今じゃなかったんだ。
この先、私にもこんな間違えが多くあるんだろうと思う。きっと想像した以上に。同じ場面であるのかもしれない。飲み屋で、女性と呑んでいて、それから・・・。なんて事が。
でも、もし間違えなかったら。「今だ!!」で手を伸ばして、向かい側にいる貴方がぎゅっと手を握ってくれたなら。その時、私たちはそのままホテルに行ったりするんじゃなくて、2人で星野源の曲を聴こう。「ええ?!こんな有名なのに聴いた事ないの?!」なんて驚かれて、そんな時間も心地よい夜を過ごそう。だから私は星野源の曲を聴かないのだ。今はまだ。
でもなあ、麺つゆと麦茶を間違える奴だからな自分・・・。
星野源、麺つゆと麦茶を間違えたエピソードを元に曲を作ってたりしないかな。歯磨き粉と洗顔フォームでもいいけど。そしたらその曲から聴くのにな。ファンの皆さんあったりしますか?
京都のビートメイカーTOYOMUによる星野源『YELLOW DANCER』のリミックス集。これが大変素晴らしい。長々と聴かない書いてきたが、このアルバムを聴いてしまった為に中々本家に戻れないというだけが理由かもしれない。そのぐらい私の好みで、尚且つ、素晴らしいリミックス集。
あと、WSオーディション、沢山応募ありがとう。告知してから3日間で埋まるとは思ってもみなかったから驚きです。頑張ってこれから台本書きます。参加者の皆さんが少しでも楽しんでもらえるように、私それから排気口の3人それぞれ頑張ります。
皆さんの穏やかさを祈って。