クーラーの下で考え事をしていました。神様はいる。神様はいない。ずっと声に出していました。

 苦手な梅雨がやってきた。ホントはまだ来てないのかもしれないけれど、これを梅雨と呼ばず何を梅雨と呼べばいいのだ状態。湿気でムシムシするし、家のチビ達も心なしかグッタリしている。梅雨の何がいいのか全く分からない。重い身体を引きずって散歩するのも気が向かない。

 先月と比べて余りにも忙しい日々を過ごしている。その忙しさの殆どが来るべき排気口新作公演とは無縁ばかりか、その進捗を疲労で遅らせる類のものでトホホとなる。

 先日、100パーセントこちらが悪いのだが、久しぶりにとある理由で他人から怒られた。先方は私の事をどうやら大学生のバンドマンだと思い込んでるらしく、怒りの加減を調整するチューナーが20代前半に調整されていた。その為、言葉の端々にはある種独特な労わりと呆れの響きが宿り、「わかっちゃいるがやめられない」を理解しつつも、「わかっちゃいるならやめてくれ」が込められた先方の怒りの主張に平身低頭を繰り返す私は裸足だった。

 忙しさと怒られの合間を縫うようにして新作公演の台本作業もしているのだが、毎度の事ながら全く難航中である。本当、亀の歩みである。トホホ・・・。

 公演予算とにらめっこしながら、電卓を弾く日々も同時に過ごしている。今回は正しくは通常の本公演ではないので、よく言えば招聘、砕けた言い方で「研究室の博士課程の先輩と、カウンターで夜の共犯者になる」という事なので、お呼ばれコーデにもお金がかかるというものなのだ。手のひらにある公演予算と経費やギャラのにらめっこ。「笑ったほうが負けなんじゃないの先に泣いた方が負けなのよ」東京ノートならぬ三鷹ノートばりに「雀の涙 寒い懐に 薄手のカーディガン だからこの賞金は譲れはしないな」と、R‐指定のパンチラインが頭をグルグル。

 馬車馬働きの排気口。今年もう2公演もやっている。2公演もやって懐を変えれない自分のスキルを恨みな排気口とまたもR‐指定が言ったかはさておき、薄手のカーディガンなのは変わらない。と、言っててもしょうがないので頑張るしかないのだが。

 その昔、居酒屋で知り合ったおじさん。50代ぐらい。店の中で殆ど喋らないのに、私たちや他のお客さんの酒が無くなると赤ワインをボトルでみんなに振舞うおじさん。そのおじさんがある日、私にこんな事を教えてくれた。「いいかい、演劇は、どんな演劇でも3回もやれば、港区でラウンジ嬢と豪遊出来るし、歌舞伎町でホスト遊びを豪勢に出来る、それからタワマンでホームパーティも開けるんだ」と。私はその言葉を信じて今までやってきたのだが現状は全く違う。

 先日その、おじさんを久しぶりに居酒屋で見かけた。「覚えてますか?」と声をかけると、おじさんはすっかり人が変わったように上機嫌だった。「お前にも酒を奢ってやる」そうして私とおじさんはひたすら酒を呑んだ。夜も深くなった頃合いに、フトおじさんは店内から外の喧騒を見つめると36杯目のビールを一息で呑んで「少しの優しさと少しの相槌で全く違う結果になったはずなんだ」それから小さく私にしか聞こえない声で呟いた。「この気持ちを忘れないうちに俺は死ぬんだ」

 その帰り道、私は若い女性が二人組で歩いているのを見かけた。どちらもお呼ばれコーデ。まるでラウンジ嬢の様に綺麗な方たちだった。おじさんの言葉を思い出した。でもそれは程なく意味のある言葉では無くなってしまった。若い女性は楽しそうに喋っている。「ナイトプール」「VIP席」「大麻リキッド」という言葉が聞こえた。

 その2人には明るい光が差していた。私は思わず声をかけてしまった。「あの・・・」2人は怪訝そうに私の方を振り返る。「なんでしょうか?」
「・・・これから3人で虹の付け根を見つける旅に出ませんか?」

 こうして私は交番に連れていかれ、たまたま暴れて公務執行妨害で逮捕され、偶然にも覚醒剤を1億グラムも所持していたのが幸いして暗い牢屋に入れられてしまった。

 このnoteもその暗い牢屋で書いている。音が聞こえる。そういえば今日はFBIアカデミーの実習生が私に会いにくるのだ。

 梅雨でも穏やかで。無理せず。皆さんのご健康を祈って。

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