短歌「名前という呪(しゅ)」
万葉のころ朝顔と呼ばれたる桔梗はしかと朝の顔せる
万葉時代に朝貌と呼ばれていた花は、桔梗のことだという。山上憶良に「萩の花尾花葛花瞿麦の花女郎花また藤袴朝貌の花」という歌があるが、この頃まだいまの朝顔は中国から渡来していなかったらしい。また万葉集に「朝貌は朝露負ひて咲くと言へど夕影にこそ咲きまさりけり」という歌があって、この朝貌がいまの朝顔なら、夕方のほうが美しく咲くというのは不自然だということから、こう考えられているらしい。
夢枕獏の『陰陽師』には「この世で一番短い呪は名前だ」という台詞がある。ところで、「あさがお」という呪をかけられたのは、蕾のときは可憐で、咲くと凜としたこの花のほうか、それともそれを見る私のほうか。