義弟のこと㊺

・奥さんと結婚して2、3年経った頃、義弟が結婚することになった。お相手は中学、高校の同級生とのこと。奥さんになる人は三人姉妹で、長女は私の奥さんと中学、高校の同級生だったのだが、5歳離れているので中高で同じ学校になることはなく、弟の嫁になる人が自分の同級生の妹だと奥さんが知ったのは、結婚式当日だったと言っていた。お義母さんは、義弟の学校の父母会などで義弟の奥さんのご両親に会ったりしていたので、なぜその情報が結婚式当日まで伝わっていなかったのか、よくわからん。

・もう一つ、当日になって知らされたことがある。親族なのである程度早めに式場についてお茶なんか飲んでいた私のところに、義弟が嬉しそうに「あにき―」と言いながら近づいてきた。「おめでとう。いい天気でよかったね」と声をかけたら、彼は「頼みがあるんだけど、良い?」と言ってきた。
「何?」
「乾杯の音頭、頼んでいい?」
「え!」
あまりに突然の申し出に、驚いた。当日に頼むか?そういうこと。

・びっくりしたけど、乾杯だけならまあいいか。おめでたい日だし、と思って引き受けた。そうしたら、義弟はさらに嬉しそうに「挨拶もお願いしますね」という。おい!
乾杯の音頭を取って挨拶までしたら「そりゃ主賓じゃないか」と抗議しようと思った。ますます当日に頼むことじゃないだろう。そう言おうと思ったら、彼は新婦の家族の方に走って行ってしまった。仕方がない。せっかくの彼の頼みだと思い、あいさつを考えることにした。当時いつもポケットに入れていたRODIAのブロックメモ(N°13)を取り出して挨拶の内容を書き始めた。今から考えるんじゃそんなに面白い子とも言えないぞ。別に面白くなくてもいいのかもしれんが、このあたりはコピーライターとしての性であるな、と思う。

・前にも書いたが、私の母が障害を持っていたこともあり、奥さんの親族には最初なかなか受け入れられなかった。受け入れてもらえるきっかけになったのは義弟が「あにき―」と懐いてくれたことだったと私は感じていた。だから、そのことを話した。家族として認めてくれてありがとう。そんな気持ちを込めて挨拶を締めくくった。最初拒否していた親族の皆さんへの批判になっちゃうかなと思ったが、今ではみなさん優しくしてくれているし、まあいいかと思って、そのまま話した。

・義弟の結婚式の後、お盆やお彼岸の時に実家を訪れた親族の方から声をかけてもらうことが増えた。
「〇〇(義弟の名前)の結婚式で乾杯やったあんちゃんだろ?良かったよ」
嬉しかった。義弟のおかげで私の存在の認知が少し進んだ。ありがとう。

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