Babel——『バベルの塔、あるいは暴力の必要性』
レベッカ・F・クアン著、刊行日:2022年9月1日、ページ数:560、ジャンル:歴史ファンタジー/政治フィクション、対象年齢:中高生以上
あらすじ(ネタバレ注意)
疫病が蔓延する19世紀前半の中国、広東である一家も次々病に倒れ死に、最後に残った少年も発病して息絶えようとしていた。そこへイギリスからやって来たロヴェル教授が現れ、「シルバーワーク」の魔法を使って少年の病を治す。教授の持っていた銀の棒には二言語で同じことを意味する言葉が刻まれており、力のある二言語のマッチペアによって「シルバーワーク」の魔法は強力に働くのだ。シルバーワークの力は大海を渡る船の速度を増し、蒸気エンジンの効率を高め、大英帝国は力のあるシルバーワークの魔法を一手に収めることで隆盛を極めようとしていた。
孤児となった広東生まれの少年はロビン・スウィフトという英語名を与えられ、ロヴェル教授に連れられてロンドンに渡る。ロビンは教授の用意した家庭教師によって大学に入る準備をし、やがてオックスフォードに移って当時は現地人以外の話し手が非常に少ない広東語に加えて北京語、ラテン語、その他の古代言語、語源や翻訳などを学んで「シルバーワーク」の魔法を働かせるための技能を身につけていく。
ロンドンでの孤独な隔離された生活からようやく自立に向けて勉学に励み始めたロビンにとって、それぞれの事情からオックスフォードの翻訳研究科、通称バベルにたどり着いた仲間と励む世界は夢のように思われた。幼い時に才能を見出されて言語教育を受け、庇護者に連れられて渡英したというロビンと共通点を持つインド出身のラミー、ハイチ人でフランス育ちのヴィクトワ、そして唯一白人だが女子であるために兄が事故で亡くなるまで教育を受けさせてもらえなかったレティという3人の同学年仲間と友情を育んでいく。しかし、ロビンはその感動に浸るひまもなく、かつてロビンと同じ道をたどってオックスフォードで学んだ中国系らしい外見のグリフィンと出会い、大英帝国が祖国を含む世界各国を植民地化して肥え太るために何をしてきたか、バベルとシルバーワークがその力の源になってきたかを知る。そして大英帝国がこれ以上ロビンたちの祖国を壊すことを阻止するため、裏組織ハーミーズ(Hermes)に関わっていくが‥‥‥
感想
とにかく、素晴らしく面白い。ロビンを含むバベルに来た学生たちが盲目的に大英帝国のために奉仕するようレールを引いている様子、一人だけ白人であるがゆえにロビンら3人とは埋められない隔たりがあるレティとの確執など、悩み苦しみながら真実にたどり着き何をなすべきかそれぞれが答えを見つける過程が展開されて、ある者は道半ばに息絶え、ある者は犠牲を選び、ある者は生き抜き自分の幸せを掴みたいと願う。ページをどんどんめくってしまうので、日本語なら一気読みしてしまいそうです。これ、ハードバックで560ページもあり、かつフォントも決して大きくはないのでテキスト量は相当なもの。大長編です。日本語にしたら文庫で上・中もしくは上・中・下の構成になるのかな……!?今年9月に発売されたばかりなのにイギリスのブラックウェルズ、ウォーターストーンズ、アメリカのバーンズ&ノーブルなどの大手書店によるブックオブザイヤーに次々ショートリスト入りを果たしている本で、Goodreadsの評価も4.5の高評価と読者の人気も高いので、面白さはお墨付きです。ぜひ翻訳が出て日本語読者に読まれて欲しい!
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