インドとアメリカ
インドとアメリカ
2019年に出版された 「勝者が全て独り占め」(仮訳)(Winners Take All) は、アナンド ギリハラダス(Anand Giridharadas) が著者だ。
ギリハラダス氏は、2005年から2016年まで、ニューヨーク タイムズ紙の外国特派員であった。
彼はTED の舞台でも講演している。 涙が出るほど感激する内容だ。
彼はアメリカで生まれた、インド系アメリカ人で、 両親がアメリカに、インドから移民として、移り住んだようだ。
彼は、オハイオ州で生まれた。 でも、大人になると、 親と反対に、アメリカから、インドのムンバイに移り住み、執筆者になり、 インドの夢多き現状を文章にする。
6年後、 生まれ故郷のアメリカに戻り、アメリカが極端に 二分化している状態を目にする。
一方では恐れと不安に慄く大衆、その一方で、大望を抱き仕事に夢中になり、大成功を収める少数の富裕層。
前述の書物は、具体例を沢山あげながら、 現在のアメリカが抱えている問題を、新鮮な視点から分析している。
アメリカの成功者は、自分達に都合の良い社会、経済制度を保持することに躍起になっていて、 今メディアを賑わしている、「世界変革」の雄叫びは、あくまで、建前に過ぎない。
「最近の驚異的イノベーションは、残念ながら、その利益を、少数の富裕層だけに、恩恵を与えている。 大多数はその恩恵から取り残されてしまっている。」
「世界を変えると言いながら、実際には自分達の利益を抜け目なく守り、表面的に、貧しき人々を救うポーズを見せる。」と、著者は鋭く指摘する。
「民間人であるエリートが、社会の変化のため先頭を切ると、それは本当の変革にはならず、むしろ、現状維持の方向に向きやすい。」と、著者。 責任の所在が、ぼやけてしまうからだ。
「本当の隠れた目的は、社会の怒りの矛先を変え、その怒りの勢いを緩めること。」と著者は述べている。
なかなか鋭い角度から、現状分析をしていると思う。
すこしの手直しではなく、 根本的社会制度全体のシステムそのものを、今の時代に合った形に、変貌させることも必要なのかもしれない。
263ページの本も、一気に読んでしまうほど、米国の現状をはっきりと、浮き彫にしている。
自分の国であるアメリカが、今後より良い方向に舵を切り替え、 米国の国民全体に、イノベーションの恩恵が行き渡るようにするには、「どうすべきなのか。」を、考えさせられる書物だと思う。
しかも、この問題は、決して米国だけの問題ではなく、 多くの先進国も、対処しなければならない問題のような気がする。
また、テッド トークでは、 ミニマートでの事件を取り上げている。
バングラデシュ国生まれの、ディシデン氏(回教徒)は、自国では元空軍士官であったが、アメリカン ドリームを求め、米国に移住した。
たまたま、世界貿易センター襲撃の10日後である、2001年9月21日、テキサス州ダラス市にあるミニマートで店員として、働いていた。
刺青をした厳つい白人に、 「お前は何処から来た」と、 銃撃を受けた。
正義感に後押しされて、貿易センター襲撃の仕返しをする白人。
英語のアクセントで、外国人である事が判明すると、即、敵視されてしまった店員。
一命を取り留めたディシデン氏は、6万ドルの医療負債を抱えてしまう。
死に物狂いの努力を重ねて、ITの勉強などをして、ついに、6桁の収入を実現した。
死線を彷徨っていた時、 彼は回教の神様であるアラーに、心底から祈りを捧げた。
「助けてください。 命をいただけた暁には、 神様の御心に沿うよう、最善の努力をいたします。」と、祈った。
健康を回復後、 彼は自分を殺そうとした殺人犯の許しを乞うために、裁判まで起こして、積極的に活動を始める。
他のミニマートでも、同様の手口で、2人の店員を殺害していた、その犯人の死刑は、施行されてしまう。
ギリハラダス氏は続ける。 アメリカは移民の国で、多くの移民にセカンド チャンスを与えている懐の大きな国だ。 私もそのひとり。
でも、一方、生粋のアメリカ生まれの市民に対して、経済的に落ちぶれると、優しい手を差し伸べようとしない。 「なぜなのだ」と著者。
アメリカの貧困の問題は根が深く、決して本人だけに、全責任を負わせるのは酷である。
米国生まれのアメリカ人と、移民で新しく市民権を得たアメリカ人が、平和に共存するためには、工場閉鎖その他で、貧困層になった人々への、心のこもった施策がもっと必要なのだ。
「彼らにも、セカンド チャンスを与えるべきだ。」と著者は訴える。
外国から見ていると、 アメリカは白人社会と誤解している人々も多い。
実際は、大きな大陸であるアメリカには、 多様な国々から、長い年月をかけて、移民が徐々に増えている国だ。 わたしもその移民のひとり。
白人が数の上では、少数派にいつかなる可能性さえ、秘めている。
現に、亡夫が7年もの長期にわたって、お世話になた養護施設の持ち主は、インドからの移民だ。
40年近く住んでいた私でさえ、インド系、バンガグラディシュ系のアメリカ人が、増えている状況を、最近まで知らなかった。
お互い、「目の不自由な人が象を撫でる」式で、大国で、変化し続けるアメリカの本当の全体像は、掴みにくい。
それゆえ、 生涯にわたる勉強が、必要なのだろう。 人間の新しい定義は、「命すなわち学びなり」ということか。
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