2000年代の友部正人
『休みの日】(2001年リリース)
01. 眠り姫
02. 夜中の鳩
03. 休みの日には
04. 雨の音が聞こえる街
05. 働く人
06. 美人のねえさん
07. 言葉の森
08. 地下鉄の音楽
09. アスファルトの駐車場
10. 夜の樹
11. 歌の完成
アコースティックギターとハーモニカと歌だけの極めてシンプルなアルバムで21世紀の幕をあける。“「休みの日」には友部正人を聴こう!”とポップなコピーが帯に躍っている。やさしさとするどさが裸のままで心に届く。
2000年あたりからno mediaというイベントを友部正人が主催をして精力的に活動をはじめる。バンドマン、シンガーソングライターが生業のミュージシャンが書く詩(歌詞ではない)を朗読するというイベントだ。高田渡、遠藤ミチロウ、宮沢和史、真島昌利、知久寿焼など、豪華な顔ぶれが揃い『no media』をリリースする。ぼくは後追いでこのアルバムを手にして聴いた。当時ぼくは高校生で友部正人の存在は知っていたのだが、歌や詩などの作品に触れてはいなかった。宮沢和史と真島昌利が参加しているアルバムとしてこのアルバムを手にしたからだ。高田渡や遠藤ミチロウの存在をこのアルバムで知った。マイクと自身の詩と自らの声だけで表現する、という活動をしていたから、いちばんシンプルな全編弾き語りのアルバムを製作することになったのでは、と都合のいいように紐付けてしまう。
現在でもライブのレパートリーで頻繁に取り上げられる曲はないのだが、気まぐれに「地下鉄の音楽」「雨の音が聞こえる街」なんかをライブで聴けるとうれしい気持ちになる。
なかでもこのアルバムの冒頭を飾る「眠り姫」は、至上のラブソングなのでは、と思う。また、このアルバムの最後の曲「歌の完成」も隠れすぎた名曲だと思っている。
友人Sはこのアルバムをフェイバリットに挙げていた。その気持ち、めちゃわかる。
『何かを思いつくのを待っている』(2004年リリース)
01. 何も思いつかないときの歌
02. 夜になると
03. ぼくらは同時に存在している
04. 横顔
05. 羽根をむしられたニワトリが
06. 石がふくらむあの町では
07. ニセブルース
08. 相合傘
09. 全音符
10. Dのブルース
11. 一日の終わりの長い足
2003年に鎌倉芸術館ホールにてデビュー30周年記念コンサートを開催する。ロケット・マツ、武川雅寛、横澤龍太郎などが参加をしてバックをつとめた。『あれからどのくらい』という2枚組のライブ盤でその音源を聴くことができる。この『何かを思いつくのを待っている』は鎌倉芸術館小ホールで上記のメンバーらと制作している。
こんなことをぼくが言うのは大変烏滸がましいのだが、というか、最初から烏滸がましいことしか言っていないのだが、烏滸がましいのを前提として読んでほしいのだが、やはり友部正人はミュージシャンだな、と思う。メロディー(作曲)が素晴らしい。独特の声や、詩に関しては誰もが認めていることではあるが、やはりメロディーが素晴らしいと思う。ミュージシャンなんだから当然だろ、と思う方がいらっしゃることも当然だと思うが、このアルバムを聴くとそれをより一層感じる。ああ、烏滸がましいことを言ってるなあ!
ぼくが友部正人のライブに行き始めたのが2008年からなので、また、勿論すべてのライブに足を運んでいるわけではないのでわからないのだが、このアルバムの曲をライブで聴くことが極端に少ない。普段のライブでこのアルバムの曲を聴いたことがない。何度か書いているリクエスト大会にて偶然「夜になると」「一日の終わりの長い足」「羽根をむしられたニワトリが」を聴いたことがあるだけだ。「羽根をむしられたニワトリが」は、リクエストされるもコード進行が思い出せないと言って詩の朗読だったが、それもまたそれでよかった。
ジャケット、内容を含めていいアルバムだと思う。
『Speak Japanese, American』(2005年リリース)
01. Speak Japanese, American
02. ニレはELM
03. おやすみ12月
04. 鎌倉に向かう靴
05. トランペットとトレイン
06. 楕円の日の丸
07. 悲しみの紙
08. 朝の電話
09. Speak Japanese, American(別バージョン)
マーガレットズロース、高田漣、前作から引き続きロケット・マツ、武川雅寛なども参加している。
ぼくが友部正人を好きなったときの当時の最新アルバムなので、非常に思い入れが強い。いまはなき相模大野のタワーレコードでこのアルバムを買ったことをいまでも覚えている。
マーガレットズロースをバックに軽快なサウンドでSpeak Japanese, American!と歌う友部正人が衝撃的だった。かと思えば、次の「ニレはELM」では武川雅寛のバイオリンといっしょにやさしく心地好く歌っている。「ニレはELM」は、ぼくがはじめて友部正人のライブを観たその日の一曲目だったので、そのことも含めて印象深い曲になっている。風邪を引いたときのことを歌ったなんてことのない歌なんだけど、これこそ友部正人の真骨頂といってもいい。この曲も非常に人気の高い曲だ。
9曲目の別バージョンの「Speak Japanese, American」はボーナストラック扱いなので、実質このアルバムのラストは「朝の電話」だ。高田渡が亡くなったときのことを歌った曲だ。ロケット・マツと何度もテイクを重ねたが、結局最初のテイクを採用した、とライブで話していたことを覚えている。確かその話をライブで話していたのは、何年か前吉祥寺スターパインズカフェでリクエスト大会のあった日が高田渡の命日だったことがあり、おそらくそれを知っていて誰かがリクエスト用紙に書いたのだと思う。なんとも切実に、正直に、古い友人の死を淡々とやさしい声で歌っていることが、情感たっぷりに歌われるよりもグッときてしまうものがある。
『歯車とスモークド・サーモン』(2008年リリース)
01. 歯車とスモークド・サーモン
02. あの頃
03. わからない言葉で歌ってください
04. 年をとるってどんな感じ
05. サン・テグジュペリはもういない
06. 老人の時間 若者の時間
07. 地獄のレストラン
08. 夜更かしの続きは
09. 黒い影の生き物
10. 言葉がぼくに運んでくるものは
11. 雨は降っていない
ぼくが友部正人を好きになってはじめてリアルタイムでリリースされた新譜がこの『歯車とスモークド・サーモン』だった。
アルバム全曲をライブで聴いたことがあるのはこのアルバムからだ。このアルバムがリリースされた年からライブを観に行きはじめたので、当然ではあるのだが。この頃の友部正人は足踏みをしたりして歌っていた。「言葉がぼくに運んでくるものは」ではギターを置いて体をくねくねさせるように踊りながら歌っていた。こういう歌い方をする人なのか、と思っていたが、いつの間にかそのスタイルはなくなっていた。友部正人のキャリアを通じて珍しいときの友部正人を観たのかもしれない。
「老人の時間 若者の時間」「地獄のレストラン」「雨は降っていない」など名曲揃い。現在でもライブで頻繁にレパートリーに入ってくる曲がないのは残念なところ。
このアルバムはめちゃ聴いたな。ぼくが大学一年生から二年生のあたり。ライブを観に行きはじめた頃とジャケットの友部正人がセーターを着ていることも関係しているのか、寒い冬の時期の「あの頃」を思い出させる。
上記画像は数年前にinstagramにupしたもの。現在、このアルバムは高円寺にあるはらいそという飲み屋さんに保管されている。『歯車とスモークド・サーモン』が聴きたくなったら、はらいそに行くのもいいかもしれない。
以上が【2000年代の友部正人】です。
次回は【2010年代の友部正人】です。