ハグルイ

本を買うのが好きだけど読むスピードが断然遅くて、 死ぬまでに読み切れないかもしれないほどたまってしまった積読本を、 少しずつ消化していく記。

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最近の記事

世界は虚言で出来ている

「くたばれインターネット」 ジャレット・コペック 浅倉卓弥(訳)  この小説(小説なのか?)は2013年のアメリカ(主にサンフランシスコ)を舞台にしており、2016年に発表され、日本では2019年に初版発行されている。私が購入したのは2019年だが、今の今まで読んでおらず積読本の中の一冊だった。小説の舞台となった年から10年近く経っていて、いまやXとなったSNSはツイッターと書かれているものの、状況は全く変わっていない。  主人公はアデレーンというアラフォーの女子で、知人

    • 君たちがいて、私がいる

      「水平線」 滝口悠生  東京23区から南に1200キロメートルの所に硫黄島という島があって、太平洋戦争で米軍と日本軍の間での激戦の末、アメリカ兵が星条旗を立てるあの有名な写真が示す通り、かつてアメリカ軍に占領された。島民は疎開したが、島に残った兵士、および、軍属として徴用され島に残された島民の多くが戦闘によって死亡した。1968年にアメリカから返還されたが、以来島は自衛隊が管理し、東京都が春のお彼岸に行っている、旧島民とその親族向けの墓参事業を除いては一般人の入島は禁止され

      • 人間が主役を降りる日

        「言葉と物」 ミシェル・フーコー 渡辺一民・佐々木明訳  エピステーメーとは、もともとはギリシア語で「知識」を指す言葉であったが、フーコーはそれを「ある時代における知の枠組み、土台となるもの」という意味合いで使っている。その時代における学問、思想、知識の根底にあるものは何なのか。それが時代とともにどのように変化していくのか。フーコーはその時代の文献を読み解きながら、思想の深層にある構造を探り、そのエピステーメーがどう変わっていったのかを明らかにする。これが「言葉と物」で示さ

        • 人間と動物の、ほんの少しの差

          「言語の本質」 今井むつみ 秋田喜美  アンディー・クラークが「現れる存在」で述べているように、人類は外部の「足場」に様々なものを肩代わりさせ、身体や脳の負担を軽減させる能力に突出している。そのため他の動物とは一線を画しているのだ。例えば、ノートにメモを取ること。これは紙とペンを使って思考を言語に変換して書き写し、保存することで脳が記憶する容量を減らすという行為だ。ここで、「言語化」ということが大きなポイントとなる。  コミュニケーションをとるにしても、身振り手振りで身体

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        • 創作
          0本

        記事

          ”これはなんという音楽だろう!このような曲を書けるひとは、自分から抜け出たことのあるひとにちがいない。” ECM盤の解説文より。 アルヴォ・ペルトの音楽は、この評がすべてを語っている。 あまりに美しく、静かに退屈な、小さな音楽。

          ”これはなんという音楽だろう!このような曲を書けるひとは、自分から抜け出たことのあるひとにちがいない。” ECM盤の解説文より。 アルヴォ・ペルトの音楽は、この評がすべてを語っている。 あまりに美しく、静かに退屈な、小さな音楽。

          大人/子供/男/女、らしさ

          「気狂いピエロ」 ライオネル・ホワイト 矢口誠(訳)  ジャン=リュック・ゴダールがこの小説をもとに映画を作り、タイトルを「PIERROT LE FOU」とした。日本ではしばらく、この原作小説の翻訳がなかったものだから、映画タイトルの日本語名「気狂いピエロ」が先行して有名になったが、原作のタイトルは「OBSESSION」で、妄想、妄執、異常な考えに憑りつかれていること、といったニュアンスだ。  失業中で職探しもうまくいかず、家庭でも肩身の狭い思いをしているシナリオライター

          大人/子供/男/女、らしさ

          内実の不在について

          「飛ぶ孔雀」 山尾悠子  スーザン・ソンタグは「反解釈」で、 「解釈学の代わりに、われわれは芸術の官能美学を必要としている」 と述べた。不毛な作品解釈は作品を貶め、本来の美を損なってしまう。我々は「XとはつまるところYを象徴している」というような批評ではなく、作品が、まさに作品そのものであることをみる目を養わなければならない、と。  山尾悠子の作品に関しては、その「解釈学」は全く不要で、ただそこにはイメージと言葉の美しさがあるのみである。「山尾悠子作品集成」の解説で石堂藍

          内実の不在について

          ファンタジーと残酷

          「ティファニーで朝食を」 トルーマン・カポーティ 村上春樹(訳)  ブレイク・エドワーズ監督の映画「ティファニーで朝食を」は、観た。 上品なラブコメで、オードリー・ヘップバーンの美しさに魅了される。が、 私は原作のほうが好きだ。村上春樹も書いているが、オードリー・ヘップバーンにはホリー・ゴライトリーのイメージがない。  作家志望の主人公「僕」の、回想によって語られる物語は、一人の女性のことを中心に展開する。ホリー・ゴライトリー。駆け出しの女優で、彼女を誘う金持ちの男どもが

          ファンタジーと残酷

          現実の悪意に抗う悪態

          「あくてえ」  山下紘加  書店で表紙のイラストの、刺すような視線に射抜かれ、すぐに手に取って購入した。装丁=山影麻奈、挿画=須藤はる奈。 昔からレコード、CDをジャケ買いするのが好きだった。そして、選んだものは大概は当たりなのだ。  小説家を志望する19歳の主人公「ゆめ」は、1994年生まれで2015年に文壇デビューしている作者の分身なのかもしれない。  ゆめを取り巻く現実は鬱憤の溜まりまくるものだ。父親は外に女を作って出ていった。父方の祖母である「ばばあ」はなぜかゆめ

          現実の悪意に抗う悪態

          この一週間で買った本。またも蔵書が増え、読破の道は遠のく。 村上春樹と王谷晶は、神保町のPASSAGE by ALL REVIEWS の「豊崎由美の本棚」で買った。書評のための書き込みあり。

          この一週間で買った本。またも蔵書が増え、読破の道は遠のく。 村上春樹と王谷晶は、神保町のPASSAGE by ALL REVIEWS の「豊崎由美の本棚」で買った。書評のための書き込みあり。

          文学の持つ力

          「テヘランでロリータを読む」 アーザル・ナフィーシー 市川恵里(訳)  「この本はいい本だよ」 とある人が言っていたので、購入して読んでみた。 本当にいい本だった。  少しでも世界の情勢を知っていれば、このタイトルの意味は知れよう。 イスラム革命後の全体主義国家となったイランで、「堕落、退廃、悪徳の象徴」である英米文学に親しむことが、しかもそれが女性であることが、どれだけ危険なことであったか。  教員を務めていたテヘラン大学に反発を感じて退職した後、教え子だった数名の女

          文学の持つ力