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「権限委譲」と数字の意外な関係性(カンブリア宮殿を見て語ってみた 〜ドン・キホーテ編〜)

本シリーズについて

コーチング・企業のチームビルディング支援で500セッション以上の実績を持つ、株式会社はぐくむ代表の小寺です。このシリーズは、私が大好きな番組「カンブリア宮殿」に取り上げられた会社を事例に、はぐくむ流の組織づくりという観点から考察したことを綴ります。

今回のカンブリア宮殿

2024年10月17日と24日のカンブリア宮殿では、ドン・キホーテが特集されました。

1ディスカウント大手のドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の業績拡大が続いている。2024年6月期の売上高は2兆円を突破し、いまや日本の小売業界で、「セブン&アイ・HD」「イオン」「ファーストリテイリング」に次ぐ売上高4位。その原動力となったのが、カリスマ創業者・安田隆夫から受け継いだ、"顧客最優先"のPB改革と、店づくり。そして、社内に脈々と受け継がれてきた"権限委譲"の文化。小売りの常識を覆すドン・キホーテの新戦略に迫る2週連続企画。

テレビ東京HP、2週分の番組概要から抜粋・編集)

組織づくりの観点から、「権限委譲をどうやって実現するか?」を私の経験を交えて深掘りします。見えてきたのは、権限委譲は単なる「お題目」ではなく、自主自律な組織づくりの土壌をはぐくむ重要な鍵だということです。

なぜ、権限委譲は難しいのか?

部下やメンバーに対するコントロール願望が権限委譲を妨げる

上司は自分の想定内で行われることに対しては安心していられると思いますが、自分の想定外のことが行われると、途端に不安を感じたり、怒りを感じたりして、自分の想定内に行動や判断が収まるように部下やメンバーに指示命令することが多いものです。

そうすると、それまで権限が委譲されていた(自分に任せられていた)と思っていた部下からすれば、「結局、上司の思う”正解”に沿っていなければ、修正される。指示命令、コントロールされるんだな」という学習をしていきます。そして、その後、権限を委譲されたとしても、上司に後からお叱りを受けたり指示命令されるくらいなら、初めから上司の正解の範囲でやっておこうと考えてしまうかもしれません。そうなってしまうと、形の上では権限委譲が実現しても、実際のところは社員の主体性や自律性を発揮できる権限委譲にはならず、ただの見かけだけの権限委譲になってしまいます。

本気で権限委譲を進めたいのであれば、任せた相手の意思決定や進め方に対して、とやかく言わない。後から、その意思決定を否定し、覆すようなオーバーコントロールをしないことが大事になります。そのためにも、上司は自分の部下をコントロールしたい願望としっかり向き合い、それとどう付き合うかをよくよく見つめていく必要があります。

ひとりひとりが経営者、商人として働くことを推奨する経営

今回、番組で取り上げられたドン・キホーテでは、個店の一人一人に裁量をとことん任せていくことを意識して経営をしている様子が放映されていました。

何をいくらで仕入れるのか?どの商品をどこに陳列して、いくらで売り出すのか?お店づくりの根幹部分も含めて、ドン・キホーテは本部では一切コントロールすることなく、現場に任せています。社長の吉田さんは現場に行って、売り場について何かアドバイスをしたり、フィードバックをすることはないといいます。

現場のメンバーがそれぞれに考えて、商品を仕入れて、売り場を作るからこそ、ドン・キホーテのお店はそれぞれに違い、ユニークです。ある店舗では、マグロの解体ショーを実施しながら海鮮商品に注力した店づくりをしていたり、他の店舗ではインバウンド向けのお菓子やそれを持ち帰るためのスーツケース売り場を重点的に作っていました。

ともすると、お店によって並んでいる商品や打ち出し方が違うことは、ブランドとしての統一感がなくバラバラになると思う方もいるかもしれません。しかし、”ドンキ”ブランドとしての統一感は、全てのお店で同じ商品が同じように並んでいることではなく、店舗経営を任されたメンバーがその地域、お客様にとって求めているものを考え、独自の店づくりしていくことにあるように感じました。

お店としての商品群のレイヤーでの整合性は望んでおらず、一段上の「お客様最優先主義」を中心軸に、経営を現場に委譲する。そこに徹底的にこだわって経営をしてきたことがドン・キホーテの凄さであり、躍進の秘訣なのだと感じました。

どうすれば、権限委譲できるのか?

それでは権限委譲のコツを、3つ挙げてみたいと思います。ドン・キホーテの事例と、私が過去にご支援した権限委譲がうまい会社から学んだことを含めて書いてみます。

1. 基準を明確にする

権限委譲がうまい会社は、何が会社における「善」なのか、基準が明確に示されています。何が善くて、何は善くないのか?基準が明確だからこそ、その基準を判断軸にして、社員は創意工夫していくことができます。

一方、基準が不明確だと、人によって判断軸が異なり、ブレてしまいます。そうすると、何を軸に判断すればいいのか、社員が迷ってしまいます。迷うと、上司の判断を仰ぎたくなる気持ちが出てきてしまうものですが、上司に判断を仰いだとしても、会社全体で基準が不明確だと、上司によって判断軸が異なってしまい、余計に社員は混乱してしまうということが起きかねません。

今回放送されたドン・キホーテでは、「お客様最優先主義」が絶対善であり、誰もが仕事をする上で大切にする軸としてありました。しかも、それがただのお題目、お飾りではなく、ことあるごとに話題になり、ことあるごとにそれに沿って意思決定できているか日常的に活用されているものでした。

番組では、「お客様最優先主義」の一つの現れとして、マジボイスという取り組みを通じてお客様の”本気”な声を求め、それに対して本気で応えようとお客様とやりとりする様子が紹介されていました。

出典:マジボイスとは?

権限委譲を進め、自主自律な組織をはぐくむ上では、何を善しとするのか?何が自社の絶対軸なのかを明らかにして、それを体現できるように日々の仕事に落とし込んでいくことが大事になります。

2. 「任せる」と決めたら任せる。介入しない

権限委譲がうまい会社は、相手の役職や年次に関わらず、一度「任せるに値する」と判断したら最後まで任せます。そして、途中で介入することを避けます。

管理統制型の会社では、任せたはずが、指示系統ラインの中から外からも、アドバイスや指示が飛んでくることがあります。階層間でベクトルが一致していないと、そのアドバイスや指示の内容がバラバラで、任された人を混乱させてしまいます。そして、結局そうなると、社員は多方面の顔色を伺いながら、自分の持てるものをのびのびと全力で発揮することができなくなってしまいがちです。

そういう意味でもドン・キホーテ創業者の安田氏が、つい部下に口を出してしまった吉田社長に対して「権限委譲とは、プロセスコントロールをしないこと。」と伝えたエピソードは、とても印象的でした。

真に任せるとは、どういうことか?自分自身の中で「任せる」についての定義や、解釈の深掘りをしていくことは権限委譲を進めていく上では大事なプロセスになると思います。

3.情報の透明性を高め、数字に対するリテラシーを高める

権限委譲がうまい会社は、役職や年次に関係なく、全員「数字がわかる」ことが多いです。言い換えると、ひとりひとりが経営をしていく上での大事な数字が読める、理解できる会社だということです。

管理統制が厳しい会社だと、役職に紐づいて、見られる数字情報や決裁金額が制限されることも多いです。一方、権限委譲が進んでいる会社では、経営や数字情報を積極的に開示し、経営や数字に対するリテラシーを高める機会を提供しています。「自分だったらどうするか?」を考える機会と、実際に考えたことをもとに実践する機会があることで、社員が自ら考え、判断し、行動して、振り返りながら、より良い未来・成果を目指すサイクルが進んでいきます。

ドン・キホーテでも、社員だけでなくアルバイトにも「商品を、何円で何個仕入れ、何円で何個売れたら、利益(=給料・昇給の資金源)が出るのか?」を考えて実践(商談)できる様子が放映されていました。

また他にも、100万人商圏ごとの支社長に社長の権限を渡す「ミリオンスター制度」が紹介されていました。

ドン・キホーテでは全員が経営者・商売人であることを大切にしていますが、上記のように社員、アルバイトに関わらず、自分ごととしてそろばんを弾ける機会があることで、自分の仕事に面白みを感じている様子や、育っていく様子が伝わってきました。

権限委譲をすると、どんな良いことがあるのか?

「工夫の余地」が事業の強みになる

ドンキの強みは、個店に大幅な裁量権を与える「個店経営」にその真髄があります。店を知り尽くした店長やアルバイトが、お客様が最も喜ぶ商売を考え、工夫する。その結果、マグロの解体ショー、お宝ウィスキーが当たるガチャガチャなど、エリアや個店の特性を活かした企画がお客様を魅了しています。

大胆な権限委譲で、個人がクリエイティビティを発揮するための「工夫の余地」を大きく生み出すことで、個店ごとのユニークな魅力が生まれ、それがお客様に支持されることで、売上向上、事業発展の好循環につながったのです。

自分を活かして創意工夫するよろこびを感じながら働ける

ドンキの店長やアルバイトは、自分なりの着眼点を活かして工夫することを楽しんでいました。他人に決められた予定調和の仕事ではなく、自ら考え、自ら変化を起こし、お客様を喜ばせられる。それは、自分を活かして働くよろこびそのものであり、お金と同じくらい重要なインセンティブになります。

権限委譲によって、個人が自分の考えやアイディアを存分に発揮して働けるようにすることは、個人の存在や意思、クリエイティビティを認め、尊重することであり、社員が創意工夫して働くよろこびを感じられる土壌づくりにつながっていきます。

事業成長のためには人の力を最大化することが大事だと思いますが、権限委譲は人の力を最大化していくために大事な鍵を握っていると思います。

結論:権限委譲のコツにも結果にも、「数字」は大きく関係します

日本全国・海外でも、個店ごとのユニークさを活かして「お客様最優先主義」を実現するドン・キホーテ。組織躍進の土壌となった、権限委譲とそのコツを考察しました。

「お題目」になってしまいがちな権限委譲。売上とは直結していない、と考える方もいますが、ドン・キホーテの取り組みが示すように、権限委譲は売上に対して関連性があると考えられます。

そして、上手に任せるためには「数字」を開示し、「数字」に対するリテラシーを高め、実践する機会を提供することが必要であります。そして、任せた結果もまた「数字」として返ってきます。それらの「数字」との上手な付き合い方が、権限委譲を進め、望ましい成果を得るためにも大事になるかと思います。

最後に、吉田社長の経営者としての佇まいは、今の時代のリーダー像にも大きな示唆を与えていたように感じます。経営者として、現場に対して指示命令・コントロールを振りかざすのではなく、現場の力を信じ、その力を最大化する「黒子」として存在する。私も、吉田社長の日常的な経営スタイルを、もっと知りたくなりました。

取材・執筆 Maiko
編集 小寺 毅

おわりに:「生命的なチームをはぐくむ」技法

株式会社はぐくむでは、「生命的なチームをはぐくむ」お手伝いをしています。
その一つの技法として考えているのが、ジャーナリング×対話です。メンバーの自己理解やチームの相互理解が深まり、組織も個人も躍動する”生命的”なチームをはぐくむ秘訣について、11月25日にオンラインイベントを実施します。どなたでも歓迎です。ぜひご参加ください。

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