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スリッパ大臣下駄次郎
僕の曽祖父は政治家だったらしい。
らしいと書いたのは、僕は会ったこともないし、最近まで存在すら知らなかったからだ。
先日、1年ぶりに地元の祖母の家へ顔を出しに行ってきた。前回会った時は、祖母のお見舞いだったため、元気な姿を見れてとても嬉しかった。
祖母は生まれつき体が弱く、人より多く骨折や病気をして入退院を繰り返している。
もう年も年なので心配になるのだが、至って本人は平気なようだ。この日も久しぶりに僕がやってきたので、お酒を一緒に飲むと言って聞かなかった。
お医者さんからも特別止められているわけではないし、とてもご機嫌だったのでお供させてもらうことにした。
祖母は普段からお調子者で、とってもおしゃべりなのだが、お酒を飲んでいるのもあり、いつもはあまり話したがらない真面目な政治の話をしだした。この前あった選挙の話、新しく就任した総理大臣の話。カネと政治。今の政治に不満を持つ祖母が言った。
「あんたのひいおじいちゃんが生きとったら今の日本もこんなにならなかったのにね」
どういうこと?と聞いたら、祖母の父親が政治家で、大臣も務めていたらしい。
そんな話聞いたことないよと問うと祖母は、
「あんな最期を迎えられたら誰も話したがらないよ」という。
酔っていたのもあり、その話を詳しく聞くことができた。
僕の母方の曽祖父の名は、足立下駄次郎。
この名を知らない人はこの国にはいないと思う。僕自身も、とても驚いた。
足立下駄次郎は第1代内閣総理大臣、このスリッパ国最初の総理大臣だ。元々この国は日本の一部だったが、今から82年前に独立した。(スリッパの生産量が日本一の町だった事からスリッパ国と名付けられたのは、ここの国民なら常識だ)
なぜ今まで僕に知らされなかったか、僕は理解した。
この国ができて12年後、今から70年前、事件が起きた。足立下駄次郎、通称スリッパ大臣は普段からスニーカーを履いていることが、バレてしまったのだ。この大スキャンダルのため総理大臣を辞任し、その後政治の世界から消え、この世を去ったのだ。
祖母は言った。「お父さんはそんなことしてない。スニーカーなんか履いてない。スリッパ職人から総理大臣になったんや、そんな人が裏切るわけない」と。
僕はこのスリッパ大臣が曽祖父だと知らなかったが、この事件には不自然なことが多く、(スニーカーの紐がそのスニーカーとは違うブランドのものだったと判明されたりなど)この人は実はスニーカーを履いてなかったんではないかと思っていた。そんな人ではないと思っていた。だが、涙ながら伝える祖母姿を見て確信に変わった。スリッパ大臣は、ひいおじいちゃんはそんなことしてないと。
こんなことを書いて僕は無事ではないかもしれない。明日には何か起こるかもしれない。だが、僕は伝える。この事を多くの人に知ってもらい、今のこの国を良いものにしたい。ひいおじいちゃんみたいに、この国の将来を考えて。