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別府湯巡り紀行 捌


この物語は

2022年11月5日、6日に

別府ビーコンプラザ

フィルハーモニアホールにて行われた

即興演劇集団「ロクディムにわか」公演

劇場観覧に乗じて

にわか湯巡りをしまくった

ある男の記録である。


目次


序章 なにも知らないのはいつものこと
第1章 別府の洗礼 
第2章 長い道のり
第3章 別府市民憲
第4章 猫の目
第5章 爽やかな海に
第6章 昼下がりのマーチ
第7章 夕暮れのビーコンプラザまで
第8章 夜、さまよう旅路




第8章

夜、さまよう旅路
~スマホは電池切れ~

1日目 19:30~??:??


開幕後、客席の皆が書いた「言葉」が舞う
6人は思い思いに「言葉」を拾い
生きたセリフに昇華させていく
そこには思いもよらないストーリーが



舞台の最中、スマホでの
写真撮影はOK だった。

ライブ感を重視するため
動画はさすがにNGだけれど。

たくさんの人が、自分の席から
後ろの人に気を遣いながら
思い思いに撮影している。

皆の胸に残ったシーンは
どこだったのだろう。



19:30


華やかだった時間は、あっという間に。

舞台に幕が下りた。

懸命に演じる姿を

見て、泣いて、笑った。

1日目の大きな目標。

無事に見届けられたことを安堵する。

つたないぼくの言葉で

感想なんてのは野暮な話だ。




ただただ、心に染み込むように

温かさが満たされていく。

これが、人間味というものだろうか。



入場時に渡されたパンフレットには
アンケートが付いていた。

丁寧に、黙々と書く。

気がつくと客席には
ぼくしか残っていなかった。

立ち上がり、舞台へ一礼する。
振り返りる、と。
スタッフさんが急かすこともなく
静かに待ってくれていた。
スタッフ皆様へ一礼する。

ありがとう。

そうして席を離れる。


エントランス

ガヤガヤと賑わっている。物販である。
ロクディムのメンバーが手売りしている。
観客と直接言葉を交わす。
みな嬉しそうだ。

人の波が引くのを、ちょっと待とう。
人の波間から離れて待つ。
なんだかハイエナのようだが、
人波は苦手なのだ。
少し人数が減ってから
左端から声をかけていく。

左手のブースは眼鏡の男性が
接客対応をされていた。

原田茶飯事さんのCDが置いてある。
最新作の「橇」は持っていたので
ファーストアルバム「いななき」を入手。

ロクディム公演の出囃子などは
このアルバムから使われている。
Web配信などでの権利処理の面倒事を
回避するのに、茶飯事さんは随分前から
楽曲の提供に協力しているのだと聞く。

今にして思えば
CDを手渡してくれた人、舞台の音楽について
教えてくれたかたは、主催オグリキカクの
小栗栖さんだったのではないか。。

https://youtu.be/U0XuHeJMNAc 

もしそうでなかったとしても
とても嬉しそうに話してくださった。
開催できたこと、観客との対話に
マスク越しからも滲む多幸感。

茶飯事さんは今日来ていたのだろうか。
もう、大分入りはしているはずだ。
彼の美声は大分に響いているのだろうか。
そして、あすは会えるだろうか。

中央、トートバッグの物販コーナーへ。
カタヨセヒロシさん、小田篤史さん
そして、名古屋淳さんがいらした。
前回の名古屋公演で新たに
発売されたトートバッグだが、
ぼくは既に肩から提げていた。

名古屋さんがとなりのお二人に
「愛知から!」と紹介してくれた。
ぼくは舞台への素直な気持ちと感謝、
明日も楽しめますようにと面々へ伝える。

右側のブースはTシャツコーナー。
大盛況でほぼ完売の様子。
宍戸勇介さん、りょーちんさんがいた。
「残りこれだけで…」
2人とも、ちょっと申し訳なさそう。
数枚のピンクのシャツが残っている。
サイズはS、S、XLと見える。
物販は持ってきている分のみで
明日も追加はないと言う。

たくさん売れて大変よろしい!
心の中で、油屋熊八が万歳している。
…いつからいたの?
不満はない。むしろ喜ぶところだ。

ぼくはサイズの大きなXL の
ピンクのシャツを手に取る。
明日はこれを着て舞台を観たい。
そう思ったから。

先ほどと同じように
舞台への素直な気持ち
再訪の旨を伝える。

さて、最後は渡さんであるが
右側ブースから少し外れたとこで
お客さんとお話している。

少し待とうと思ったが
缶バッジの話題が耳に入る。

缶バッジとはロクディムメンバーや
舞台タイトルが描かれたグッズである。

名古屋公演では、3つ入りが
物販で売られていた。
手のひらに3つ乗るサイズだ。
何が封入されているのか中身が見えない
おみくじのような仕様になっている。

「渡さんが全然出なくて…」
無理に話題に入るのはどうかと
躊躇いもあった。けれど思いきってみた
「ぼく1回だけチャレンジで2枚
 渡さんでしたよ(1枚は宍戸さん)
 あっ渡さん、お疲れ様でした」

渡さんはお客の女性と話しつつも
こちらにに気がついていた様子。
「はぐぱぱさん…!」


お客の女性は缶バッジを知人などと
物々交換してコンプしたらしい。
すごい熱意だなぁ。感心していると
「被った缶バッジあげますよ」
と、3枚も渡してくださった。
なんて懐の深い人…。

聞けば東京からいらしたとか
人のことは言えないけれど
相当な猛者である。



渡さんへ、舞台の思いや感謝、
明日も楽しみだとお話する。


おそらくは疲労困憊だろうに
そんな素振りは微塵も感じさせない
パワフルな笑顔でいてくれた。


なんだか、とてもほっとする。
ふと、時計が目に入る。

19:45


あらあら、もうそんな時間か!
ロビーから撤収しよう。



皆に、また明日と別れを告げ、一礼。

ビーコンプラザを後にする。




世界は、夕闇から夜へと
すっかり塗り替えられている。





スマホを見ると、バッテリーの残量は
もう2%しか残されていない。

おやおやおや。


これはまずいですね。



ポータブルバッテリーは持っていない。
買うか悩む。いや、今回はいいか。
宿に戻れば充電できるし。

地図を開く。
手早く、1ヶ所に絞って浴場を探す。
一番近いのはここか。
道順を頭に叩き込む。
歩みを進める。


もうまもなく到着、と言うところでスマホは
「再起動まで、じゃあの」
と、別れを告げた。
すまない。酷使しすぎた。
そしてここまでありがとう。
宿に着いたら充電しますから
ゆっくり寝ていてちょうだい。


9湯目 上原温泉


「かみはる」と言うらしい。
ビーコンプラザから南下して
右折。山側へちょっと進んだ場所にある。

夜だからだろうか
ひどくのっぺりとした外観だ。
蛍光灯の白い光のせいか。

料金箱へお金を入れる。
入口にスタンプがあった。
右が男湯、左が女湯。

中に入る、階段が下へと続き
脱衣所、間仕切りのない浴場だ。
広さは春日温泉と同じくらいだろうか
1人、少年が浸かっていた。
少年が1人?
ああ、お母さんか誰かが
向こうにいるのだろう。
貸し切り気分のとこ悪いね。
ぼくが体を洗っている内に
少年は上がっていった。

湯は熱めだなぁ。気持ちがいい。
外気温が低くなってきているから
そう感じたのだろうか。


ハテ、サテ。
今からどうしよう。
スマホは使用不能。
温泉も大体の位置しか把握していない
フラフラ歩いていれば、ここは温泉の街。
浴場に行き当たりそうではあるが。

ふと、空腹を覚える。

ああそうだ。

夕飯。

何も食べていない。

まずは何か食べようか。





さっきロビーで話した
名古屋淳さんとのやり取りを
ぼんやりと思い出していた。



別れる前に握手をして
名古屋さんはこう言っていた


「別府はいいところですよ!」

うんうん

「美味しいものもいっぱいあるし!」

うんうん

「いいお店も多いですから!」

うんうん



…うん?

具体的には?

何が美味しいの?

いいお店とは…?

何も情報がない

これは気のせいかな?






…まあ、…いいかぁ。

温泉に浸かると

大抵のことが気にならなくなる。

人間の大事な部分が

知らず知らずのうちに

溶け出ているのだろうか。


ただ、まあ。

自分を見失うほどではない。

九州来たら探したい食べ物が

1つあるから。

それは覚えてた。


浴場を出てから
大通りへ戻り、道なりに進む。

もうスマホは使えない。

少しずつ南から東に向かい
道がカーブしている。

ドラッグストアがあった。
「ドラッグセイムス」
東海地方では聞かない名だ。


探し物はあるかなぁ。


パンのコーナーへ。



あっ!あった!


マンハッタン
九州のパン工場で製造されている
断じてローズネットなんたらではない


「九州に行ったら探してみて!」
知り合いが猛烈に推していた菓子パン。
普通に売っていて嬉しい。
2つ買って、1個は明朝に食べよう。
1つはもう、齧りながら歩こうか?

安いお酒を一緒に買った。
食べるのは宿についてからにしよう。


路地を歩く。

ここは温泉か?

いや違うか?

幾つかの「温泉」の看板を通りすぎる。


スパポートを見る。

初日にして、9湯か…

キリのいいところで
もう1つくらい入りたいが
できたら宿から近いとこがいいな。

一番有名なあそこは
2日目の最後にしたいし…。


※ご注意

1日に入湯していい目安は
初日は1回です。2日目から
増やしてもいいらしいですが
それでも、2、3回くらいにしましょう。
人によっては体がダメになります。
大事なことですが、旅の2日目終わりまで
知りませんでした。


東向きに、歩き続ける。

線路をわたる。


おいおい、海に出ちまうぞ?


ふと、左手に商店街のアーケード。

北へ向かってずーっとのびている。

入ってみよう。


美味しいもの
ないかな。


幾つかの「のれん」を潜るも

「貸し切りですごめんなさい」

「すまないけど満席なんだ」

…うーん、ツキがない。
土曜日の夜だ、仕方ないな。


食事を諦めはじめた頃
やたら魅力的な路地が
左手に現れる。

赤い提灯か照明のせいか
はたまたネオンのせいか
なんとも妖艶な路地だ。

おぉ…これは…
めっちゃ写真撮りてぇ…

だが、スマホは眠ったまま。
幻惑されながら路地へ吸い込まれる。




「ザバァー」


温泉の香りと浴場の音

幻覚? 幻聴?

こんな商店街の中で、
にわかに信じがたいが
眼前には「温泉」の文字がある。


この路地へ誘われなければ
辿り着けなかった温泉。


何かとても嬉しくなる。


10湯目 梅園温泉

夜の繁華街でも、ひとつ
路地へ入ればすぐ温泉。


艶やかな外観は
照明のせいか
その名のせいか。


玄関に入ると料金箱。
左が男湯、右が女湯。
下駄箱、そして脱衣所となる。


今まで開放的だったせいか
とても狭く感じる。


脱衣所と浴場には壁がある。
既に4人ほどが入湯していた。



さらに人が入ってくれば芋洗いだなァ
体を洗いつつ、浴場内を見回す。


したの方は淡い梅色の壁面タイル。
壁面の上の方は、等間隔に梅の花…
もとい白い磁器の皿が花弁を模したように
5つ並んでいる。


粋だ。


美しいなぁ。



しかし



広いとは言い難い浴場に
男が5人もいると流石に無作苦しい。

早々に退散しよう。
湯船には数分浸かりあがる。



着替えていると
新たに2人、入ってきた。


これはこれは!
狭い狭い!



けれども、いいお湯だった。
狭くとも、誰も文句を言わず
譲り合い、お先にどうぞ、ありがとう
おやすみなさい、まで言い合える。

心まで温まる。



商店街アーケードへ戻り、北へ向かう。
歩いていれば、駅前通りまで出るだろう。
そうすればすぐに宿まで行ける。

これは野生の勘、ではない。
別府の街道は、とても分かりやすい。
海と山さえ、なんとなしにわかれば
行き先は自ずと見えてくる。

ただまあ、行き先たる目的地も
自分には多くあるわけも無し。





程なくして、宿には難なく辿り着く。

時刻は…いったい何時なんだろう


21:30くらいだろうか

しかし、たくさん歩いたな

お風呂にちゃんと入って


マンハッタンを食べよう。


それから、スマホを充電しなきゃ。











つづく












次回 第9章

宿にて
~ええ?キッチンとかあるの?~

御期待ください





別府八湯温泉道公式HP
https://onsendo.beppu-navi.jp/ 


かけ流しクエスト
https://kakenagashi.com/category/beppuhattou 


6-dim
https://6dim.com/ 


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