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別府湯巡り紀行 伍

この物語は

2022年11月5日、6日に

別府ビーコンプラザ

フィルハーモニアホールにて行われた

即興演劇集団「ロクディムにわか」公演

劇場観覧に乗じて

にわか湯巡りをしまくった

ある男の記録である。


目次


序章 なにも知らないのはいつものこと

第1章 別府の洗礼 

第2章 長い道のり 

第3章 別府市民憲 

第4章 猫の目

第5章 爽やかな海に






第5章
爽やかな海に

~嫌なこと忘れたら~

1日目 11:45~13:35



おむすびはたいらげたが…
うーん、なんとも。
食べた気がしない。

それに、南的ケ浜へ寄ったら
是非寄ろうと思っていた
お店がすぐ近くにあるはずだ。

ていうか見えていた。


カロリー消費したらカロリー摂取!
食欲を刺激する赤い看板


参考にしているサイト
「かけ流しクエスト」から
南的ケ浜温泉、詳細欄にその名前がある
「あけぼのラーメン」である。


店の前に向かう、作業着の男性が2人。

…おや?
1人は見たことあるぞ?
さっき屋根に登っていた人だ。


「あっ!忍者だ!忍者!」
「おやめなさいよ」
心の中で煩悩と理性が騒がしい。



二人も店に入るようだ。
続けて自分も入店する。

「三名様?」
奥からオカアちゃんの声がする。
先に入った二人がこちらを見る。
一様に
「(何?)」
「(誰?)」
といった顔である。
「あぁ!いえ、別です!お先どうぞ」
と、やや張った声で返す。



既に4人がカウンターに座っていた。
2人座ると、もう店内は満員御礼。

少し外で待とう…
戸を閉めかけると
オカアちゃんが手招きする。
「狭くってごめんね。座って待ってね」
厨房と客席をつなぐ通路に
丸椅子を出してくれた。優しい。


オトウちゃんは受けた注文を
手際よく作る。
ベテランを感じさせる動き。
麺を茹でているのだろう
鍋の蓋を抑えじっと待つ。


おもむろに蓋を開け
麺の湯切り。
湯から上げて
チャッチャッチャッ!
湯気と麺が踊る。
カッコいい。



客も皆、実に旨そうに食べる。
(書きながら思い出して腹が減ってくる)


順繰りに客は食べ終わり
会計して出ていく。
作業着の二人もすぐに
食べ終わることだろう。


テーブルが片付き席に着く。
カウンターがスッキリしているなぁ
なんとなくそう感じる。

あぁ、メニューが見当たらないからか。
聞いてみると
「上、上!」と、オカアちゃん
カウンターの上に札がかかっている。
「うち、メニューはそこにだけなのよ」
成る程、カウンターを見たとき感じた
「スッキリしている」理由はこれか。


席を立ち、ゆっくりと
メニューを片端から見ていく。

…うん

ここは王道を。

ラーメンを食べよう。


時刻は12時丁度だった。


ラーメン(650円)
直球の豚骨だがあっさり。とても美味。


九州、この地方となれば豚骨ラーメンである。
わざわざ「豚骨」と書いていなくても
ラーメンと言えば豚骨なのだ。


チェーン店などにみるとんこつラーメンの
家系背脂マシマシの様相はない。
白味の強いスープはすっきりとした旨味。

麺は少し堅め。細麺ストレート。
だがそれを噛み締めれば
歯応えとともに小麦の風味が広がる。
スープとよく合う。うまい。

ごま、もやし、こしょうにネギ、海苔が
それぞれいい仕事をしている。
叉焼もうまい。

半分ほど堪能したところで
テーブルにて出番を待っていた
紅生姜を入れる。
スープは優しいピンクに姿を変え
紅生姜は爽やかな酸味を連れてくる。


うわぁ…

うっっまぁ、、



すっかり食べ終わり
気が付くと店内の客は
ぼく1人だけだった。


お会計をし、お礼を伝え、店を出る。



次の温泉はどこか。スマホを開き地図と
「かけ流しクエスト」を見る。



今さらかと思うが
別府温泉はその全域を
幾つかのエリアに分けると、
巡るルートや訪問日程を考えやすくなる。

別府駅周辺や鉄輪地区周辺、また
亀川駅から南の地区など
温泉が集中した地域を予め知っておけば
湯巡りをする上で計画を立てやすい。

初日は駅周辺から入湯をはじめて
近い場所の共同浴場から順に
湯巡りしていこうかと考えていた。


考えてはいた。ざっくりと。ええ。
ただ、お察しの通り営業時間も
ろくすっぽ調べていない有り様。
おまけに財布紛失、回収とバタバタ。

自分の場合を振り替えれば
基本的に先のことを、ほぼ何も考えず
計画を立ててもいないも同様であった。


お陰で何かに左右されず
無計画に湯巡りできるたともいえる。



自分の旅だ。
どうであれ、それでいいか。
わりと痛い目を見ているというのに
心づもりはなおも軽かった。


地図上に、温泉を探す。

近くだと弓ヶ浜か、的ヶ浜か。
ん。弓ヶ浜にしよう。
ここから、まっすぐ北上すれば着く。
海沿いは明日にしようかな。
次も入湯できればいいなぁ。

北へ、歩みを進める。

少し広い通りに出てから
細い路地に入る

弓ヶ浜温泉



通りの交通量は多かったが
路地を入ったらとても静かだった


受付はいない。
春日温泉や南的ケ浜温泉でも
受付の人は不在であった。
やはり場所や時間により
いたりいなかったりなのだろう。
トイレないかな。

受付向かって左手の男湯の戸を開ける。
下駄箱と脱衣所。
3段ほどの棚が壁に並ぶ。
おや、ここも浴場の間に壁がない。
一番手前の棚、中段に
スタンプと朱肉がある。
緑色の朱肉だ珍しい。
ともあれスタンプ。

緑色の朱肉ってのも変な言葉だな。
綺麗に押せた。よしよし。

さて、ロッカーに他に荷物もないし
今回は貸しきりかな?

随分静かだ。

振り返り浴場を見る

「あー…」

そうですよね。

そりゃ静かですよ。




まるでローマの遺跡…ぉっ お湯ゥーッ!!



清掃されているのか

随分カラッとしていた。

お昼ですし、仕方ないね。


湯のない風呂には入れない。






気持ちを切り替えて、次を目指そう。
サクッと靴を履き路地から出る。


お昼の時間帯、ジモ泉や共同浴場の
入湯はどこも厳しそうだ。

ならば、別の場所を目指してみよう。


別府北側は亀川エリアである。
別府に来る時にも停車した駅、
亀川駅から南方面には
街道沿いに浴場がいくつかある。

さすがに亀川駅までは遠すぎて
今からは向かえない。
しかし
エリアの最南端の1ヶ所なら
向かえないこともない。

かっぱの湯

亀川エリアの最南端。
北に30分ほど進めば辿り着ける。
かっぱの湯からさらに北に位置する
前田温泉までは14分ほどの距離。

亀川エリアを踏破するには
かっぱの湯というのは
別府側からも亀川側からも
行くには少しつらそうな位置にある。

しかしだ。
なんといっても、かっぱの湯は
24時間営業のスーパー銭湯。

そう、いつでも入れる温泉なのだ。

これは行くしかない。



かっぱの湯のあとは折り返して
道すがらにある温泉に入っていけば
各所の営業時間とも
都合が良さそうだ。


道すがらの温泉を確認しつつ進む

京町温泉

これじゃ、男女一緒に扉をあけられない

一応確認。
やはり閉まっている

つぎ。

川に出る。境川というらしい。
橋を渡る途中。
トンビが鳴いている。
のどかだ。

国道の向こうには別府の海。

しかしダウンジャケットが
邪魔で仕方ない。
フリースもぬぐ。

海を見ながら北上しようか。
かっぱの湯までのジモ泉は
どこも閉まっているだろう。

橋を渡って少し歩き
コンビニでトイレを済ませ、東へ。


国道を越えてなお北上する。

大分麦焼酎二階堂でおなじみの酒造の
でかい看板が誇らしいお土産屋がある。
港だからか、施設がすごくでかい。


中には入らず、岸壁へ向かう。

絵に書いたような海


あれは「さんふらわあ」ではないか!
名古屋と北海道へ就航している
接岸を見られたのは運がいい


ちょっとだけ
海辺に腰かける。


赤い船舶誘導灯は、昼の海にもよく映える


海風と日差しに包まれながら

爽やかな海に

嫌なこと忘れたら

心が軽くなった。

午前中は色々ありすぎた

お昼は美味しかった。

猫はいつだってかわいい。


さあ、温泉は

すぐそこだ

温泉で汗もながそう。



海に別れを告げ

国道を山側へ戻る。

「ゆ」の文字が見えてくる。

駐車場も広い。さすが24時間営業。
ぼくは歩きだけど。

玄関脇にはかっぱの石像
源泉がボンボコ沸いている。


ジャブジャブ出ているが
触れないほどの熱湯である

これは期待…!


さあ、海でも温泉でも

嫌なこと忘れさせて!







海でぼくは


嫌なこと忘れたら


心が軽くなった




本当にそう思っていた。





軽くなったのが




心だけじゃないのを




この時のぼくは





まだ知らない。









つづく








次回 第6章
昼下がりのマーチ
~ピアノマンを聴きながら~

御期待下さい



  • 6-dim 

 https://6dim.com/ 



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