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小樽百鬼夜想曲

第2章 夜景

2024年8月23日~25日
人生初、北海道•小樽へ
音楽と魂の旅路の記録である


到着

山を切り開いて敷かれた線路は
谷間に位置した駅へ到着する
南小樽駅 下車

小樽の地へ降り立つ

この駅で降りなければ
次は終点の小樽駅

その先も線路はまだまだ続いており
乗り換えして行けば
最終的に函館へ行き着くようだ

夕闇が迫る中
まずは、宿へ向かう

駅を出ると、向かう先は谷間だった
下り切った交差点にはコンビニ
北海道のセコマといったら
セイコーマートだが
なぜか実家のある茨城でも見たことがある

交差点を渡ると左には
綺麗なコインランドリーがあり
道は急な上り坂となる

小樽はどうやら
平坦な地形ではないらしい
小樽が「坂の街」だという事は
わりとすぐに思い知ることになるが
この時はまだ、そこまで意識していない

宿への坂の途中から 天狗山を望む

宿は急坂を登り切った先の
さらに階段の上にあった

宿への階段 ハーブの香りがした


「おたるないバックパッカーズ」
宿に着くとオーナーさんが受付をしてくれた

海外からの旅行者がメインのようで
台帳には見たことない言語の名前がならぶ

記帳するとオーナーさん自ら
施設内について説明してくださった
理由時間に限りがあるけれど
シャワーも洗濯機もある
食材さえあれば台所で調理も可能だ
街で色々買ってくるのも楽しそうだな

風が吹き抜けて、全く感じていなかったが
小樽は『この夏一番の暑さ』だったらしい
「うちはクーラーないですから…」
オーナーは暑そうにしながら笑っている
予約サイトにもクーラーがないことは載ってた
気にも止めていなかった
それくらい涼しかったのだ
中部地方が暑すぎるのかな?

門限、消灯は夜の12時
よくあるシンデレラタイム
それまでには宿に戻り
就寝せねばなるまい

あと5時間ある
1人で楽しむには十分だろう

ひととおり説明してもらい
自分にあてがわれたベッドに荷を下ろす

到着早々だが
最低限の準備を整えたら出発だ
…念のため、ライトを持って行こう
バッテリー代わりにもなるだろう

小樽の情報をXで呼びかけたところ
何件かリプをいただいていた
その中の1件は明日の演者、菅野さんの奥さん
金谷好益さんからの情報だった

情報をもとに
明日のライブ会場の下見と
会場近くの寿司屋へ行ってみよう
煩「予約しなくて大丈夫かな?」
監「遅くなる前に行ってみましょうかね」

19:15
オーナーさんは気さくな方で
出発の前に景勝地を教えてくださった

天狗山では、明日の夜にお祭りがあり
夕方から山麓で花火があがるとのことだ
山頂に行けば花火を見下ろせるという

とても魅力的だったけれど
明日夜はライブの予定であるので…
と、正直に先約のことを話す
それはいい!楽しみですね!
と、明るく返してくれた

準備ができた

私「ちょっと散策してきますね
  門限前には戻りますので…」

見送ってくれるオーナーさんへ
軽く挨拶をし玄関を出る


 

花園地区


宿を出ると
夕暮れはもう夜へと変わっていた
路上は街灯があり暗くはない

宿から階段を降り
通りを右、坂道を少し上る
宿は小高い丘の上にあって
丘の頂上には水天宮という社がある

その社の参道なのだろう
辻には大きな鳥居があった
社へは明日の朝にお参りをしよう

鳥居のある十字路は
直進すれば小樽駅方面
右は水天宮だ

ここを左へ曲がる
見通しのいい長い下り坂
花園銀座通りを右手に通りすぎ
「ミツウマ」の看板が掲げられている
昔ながらの商店街に入る

通りの店はまだいくつか
ポツポツと明りが灯っている
だが飲食店も19時から21時くらいには
飲み屋以外閉まってしまうようだ

知らない街を歩く

この地域は水天宮の丘にむかって
東西に通りが何本も伸びている
その通りの名は北から順に
「嵐山通り」
「スパル通り」
今歩いている「公園通り」
「浮世通り」
「昭和通り」
そして「花園グリーンロード」

ライブ会場「A.LIVE」は「公園通り」から
通りを二つ南へ進んだ「昭和通り」にあった

きちゃった///(1日早い)

照明の看板は点いていたが
なんとなく明日の楽しみにしたくて
扉を開ける勇気が出ない

リプで教えてもらった会場近くの
お寿司屋さん「都寿司」へ行ってみよう

道を挟んですぐの所にお店があった

二重扉の玄関を入り
厨房にいる大将に声をかける

私「すみません、予約していないのですが…」

人の良さそうな大将からは
申し訳なさそうに、こう返される

「すみません、あいにく本日は
 1時間以上はご予約待ちでして…」

うん、そんな気はしてた
予約がいっぱいだということは
味に間違いないということなのだろう
繁盛しているのは良いことだ

しかし1時間以上、ともすれば
お店も閉店間近になる
迷ったが、ここは粘らず退散しよう
「次回は予約をして来ますね」
大将へお伝えして、そっと玄関を去る


やむなし
潔く寿司は諦めるぞ
煩悩が「えっ?寿司は?海鮮は!?」
などと騒ぎ出す

しかし、元はと言えば
銭湯の営業日を間違えて
降りる駅を変えたことが原因だ
少し、反省してもらおうか

煩「自分が辛くなるだけじゃない?」
監「それはまあ、そうなんですけどね」

身一つの辛いところだが
夕食はひとまず先送りとなる

それよりも
夜になってから元気に騒いでいる
もう1人の要求を解決してしまおう
夜景夜景とずっと言ってる

ここから
さっき宿のオーナーの言っていた
天狗山に向かってもいいが
少し、距離があるように思えた


距離感がわかりにくい
地図を開く


旭展望台という場所がある
ここから歩いていけそうな距離感だ

大体の位置関係は頭に入れた
道のりは比較的簡単だ
よし、行こうか



小樽公園

公園通りを西へ向かう
この先、街の中央あたりには
小樽公園なるものがあるらしい

通りをひとつまたぐと、ぐんと上り坂

坂の上は鬱蒼とした森のように見える
森?いや、確か公園だったはず…
通りの名前に「公園通り」とあるものの
ちょっと不安になる


坂の途中に営業時間の終わった
「ミルクスタンド」というお店があった
北海道の乳製品やパンなどは、どれも絶品と
情報リプをいただいていた 何食べようかな

塩タブレットを一粒、口に放り込む
食事はもう少し動いてから
そう思いつつ、水を一口

舗装はされていて車も通れるのだが
山か公園か判別つかないほどには
急な上りの曲がりくねった道を進む


小樽公園は山を切り開いたような作りだった

敷地は広く、野球場や体育館など
競技場として活用されているらしかった
「山頂運動公園」と言ったところか

明るい時間帯ならば
いい散歩コースになりそうだ

いまは、真っ暗ですけどね

体育館のような大きな会館前に来た
駐車場の薄明かりに 動く影がひとつ

キタキツネかな
ホンドギツネより尾がふわっとしてる
どうも、こんばんは


公園まで上り切ったかと思えば
また下り坂…変化に富んだ地形だ


地図ってのは平面だ 騙されちゃイカン


谷間の下まで歩き交差点へ来ると
行く先は…またまた上りだ
地図上だけでは得られない
情報量がすごい(物理)


ははぁ~ん、はいはい
なんとなくわかってきたぞ

さては小樽
かなり大変な地形してるな?



地獄坂


坂道をぐんぐん上る
そりゃあ展望台へ行くんだから当然ではある

急坂の住宅街を抜けると
青い看板が現れる

看板前を右折すれば
展望台へ続く道だ
位置確認をする

どうやら、ここは地獄坂らしい
展望台の方面へ行かずに直進すれば
小樽商科大学があるはずだ

「小形さんの通ってた大学かぁ…」

一息つく。名前の通り
まだまだ地獄の上り坂が続いている
「グッドナイトレディオショー」でも
いつだったか言っていた地獄坂がここか

見上げると、青い看板にはこうある

「旭展望台 この先1.3km」 

…あ、ここからが本番?

道の前に立つ
「うわぁ~…真っ暗じゃないの」
煩悩の言う通り
看板の所の街灯が最後の灯りらしく
行方は漆黒の闇が口を開いている

山道、あと1.3キロ、歩くの?

真っ暗な夜に?

あと忘れないで
ココ北海道ですよ? 

熊、出ない?
出るよね?

ココ北海道だし

暗がりや高い場所に来ると
やおら調子が上がってくる御方が
元気に発破をかけてくる

守「おぉ…盛りあがってきたなッ!」
煩「ちょっと怖いですよ道もこの人も」
監「ちゃんと守ってくれるんですか?」

ライトと笛を取り出しつつ独り言ちる

守「えぇと…その辺はまぁまぁ…とりあえず…」

何かゴニョゴニョ言いつつ
スマホをいじりだす守護霊さん
Bluetoothを切って音楽をかけ始めた

 監「私、イヤホンで聴いてたんですけど」
守「流していけば怖くないぞ。ホレホレ」

しぶしぶイヤホンをケースにしまう

SpotifyではなくCDからDLした曲が流れる
人家はないので、少し音量を上げる

監「どうして選曲こっちなんです?」
守「サブスクありまへんねん」

ガリザベンさんのモノマネだろうか
全然似ていない

監「いや、熊どころか別の気配もしますよ?」



ライトを点灯させても


森林はその光を飲み込んだ


やばすぎない?


ライトに道がぼんやり浮かび上がる
光の届かない先は暗くて見えない

暗闇の先が道なのか、カーブなのか
崖なのかさえ、判別できない

風がカバノキを揺らしている
なかなか太く大きな木々
道の両側をずっと整列している
白い樹皮が人肌のようにも見えてくる

監「やぁ…やばいってェ…この道は…」
煩「ちょっとライト消してみない?」
監「そんな『どうでしょう』みたいなこと」
煩「ちょっとだけ…試しに」

ポチッ(消灯)

監「やばい!やばいから!つけて!つけて!」

ポチ(点灯)

守「暗いと怖いかね?」
煩「実家の夜くらい暗かったね」
監「あっちは種類が違いますけど」

木の上から花骸が舞い落ちてくる
それが粉雪のようでもある
昼間ならさぞ爽やかなものだろうが
今は19時も後半の時分
木々のざわめきは唸りをあげて
どよめきのようにも聞こえる

 監「少し、急ぎましょ」

スマホから音楽が流れきたのは
ガリザベンさんの「あふりかメキシコ」
すごく好きな曲だけれども
それどころではない

笛を咥えて、ヒュッ、ヒュッと鳴らしつつ
なるべく早く展望台へ行けるように
弾むような歩調で進む

熊もそうだが、天気が心配だ
風があるから雨が来るかもしれない
傘は宿に置いてきてしまった
夕食前にずぶ濡れになったら
目も当てられない

 

車にひかれてぺしゃんこになった
木の実や虫が道にへばりついている

ライトで足元を照らすから
よりフォーカスされて生々しく見えてしまう

時々出くわすカマドウマや
キリギリスの亜生体がでっかくて
現れるたびにドキリとする


綺麗なままの木の実もあったけれど
拾って眺める余裕もなく
呼吸は浅くなる

雰囲気の「夜がまわる」が流れてはじめる
ああ、酒が飲みたいなぁ…


10分だろうか

15分だろうか

いくつかのカーブを曲がると
やっと展望台の光が見えてくる

それでも街灯は少なくて
看板はライトを当てないと見えないくらい
暗がりに沈んでいた 

駐車場もあるようだし、入口からここまで
車なら5分もかからないだろう





旭展望台


道は車も通れる幅で
片側1車線の車道だったのに
1台もすれ違うことなく展望台に到着した


白く眩しい照明 旭展望台


当然、そこには誰もいない
東屋と看板が、寂しい色味の照明に浮かぶ

「おぉ~着いた着いた!」

夜景ッ♪夜景ッ♪と
浮かれた魂が走りだす

手すりに飛び乗って
私より先に夜景を眺め始めた

標高は僅か190m

やれやれ
小さく息をついてライトを消す

「降りなさいよ、落ちたら危ない」

と、何一つ危なくない
虚空に声をかける


眺望できるスペースへ踏み入ると
下界から夜風が吹きあがる



夜景の街が見える




幾千、幾万もの煌めきが眼下にあった

「うーん…」
手を上にして 背伸びをしながら
なぜか得意気に、話す

守「来られてよかったのう」

小さな間をおいて答える

私「来たがっていたのは あなたですよ」


音楽が切り替わる

ギターのイントロが聴こえてくる

曲は「きみは、ぼくの東京だった」

これは自主制作盤の音源だ

歌声は、ゆっくりで
今の小形さんより、ずっと頼りなくて
それでも、擦り切れるほどに優しい



ここで、流れるのか

 

遠く山の向こうで、稲妻が雲を光らせる



あぁ



ずるい



ずるいなぁ




泣けてきたじゃないか


守「なんじゃ、また泣いとるのか?」

監「ちょっと黙っていてくれませんか」


ずるいよ だって あなた

もう いないじゃないですか


守「そんなしょぼくれた眼で
  
  ちゃんと見られているのかい?

  こんなに夜景が綺麗なのに」


誰もいない展望台で、私は
涙をこぼしながら一人歌っていた

長い髪のまま

なにも変わらない彼女は

手すりに腰かけて

静かに夜景を見ている


 


 


 

下山


守「…で、誰がもういないって?」

相変わらず、得体の知れない何かが
真顔で聞いてくる。意地悪だ

小形さんの曲が終わって、佐古さんの
「ダンスマニア」が流れている

守「お主は、相変わらず即物的じゃの」

問いかけが
単純に気持ちを見透かすとか
そんなレベルではないから厄介だ

わりと意地悪なことを言われて
いつだってやり込められてしまう

監「もう、あんまり言わないでください…」

1人なので醜態とまでは思わないが
流石にちょっと恥ずかしくなる

記念に写真を撮りたいとか言いだしたので
何枚か撮影することに

…いやいや、あなた
たぶん写りませんよ?

守「これとか2人いるっぽく見えないか?」
監「普通に怖いこと言わないでください」


さあ、夜景も見たんだし
早く山を降りて夕飯だ
食べられる場所を探そう

20:10

スマホを見ると電波がない


煩「ウっソぉ…」
監「まずい状況ですね」

圏外である

煩「なんかしました?」
守「人のせいにするな、失敬な」

とにもかくにも
電波のあるとこまで戻らないと
食事の場所が探せない

いや、そんなことより

緊急時に連絡もできない

監「ちょ、ちょっと、走りますよ」
守「あんまり長居しても悪いからの」
煩「なんて?」
守「いや、こっちの話。ありがとねぇ」

来た道を、冷や汗をかきながら
小走りで下り始める

小走りで…って いや、怖すぎる
ライトがなければ完全に詰んでた
というか、この領域に踏み込んでいないか
カーブの怖さが尋常じゃない
先が見えない 闇が深い
クワガタのメスかな 虫もたくさんいた
踏まないよう 足下にも注意して進む

 

20:17

やっと電波が入る
山を下る時間は上りの半分くらい
怖くって走ったからな

ただ、林道入り口から地獄坂に出て
下り道の先、また小樽公園の
あの小高い丘へ戻る気力はない

早く何か食べたいな
カロリー高いやつがいい


遠目だったけど、キツネ可愛かったなぁ
そんなことを思いつつ、スマホで呟く

ここからTLが狂いだす

何気ないこの呟きから時差が生まれる
すぐに大変な事態を招くのだが
当然、知る由もない


スマホで開いているお店を探しだす


早く何か食べられるお店を見つけないと






今回はここまで

 

いらっしゃい

ご覧いただきありがとうございます

次回は 食事とお風呂と事件です

土曜か日曜に更新予定です

よろしければ、またどうぞ

 

次回 晩飯後に銭湯2件行きますが
すでに、事件は起きてました


追伸

編集中、気が付いたこと

最後の写真右下「キッチン ぐるぐる」は
小形さんが友部正人さんのレコードと出会い
毎日入り浸っていたお店と教えてくれました




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