見出し画像

最高の夜リベンジ 復路篇


22:35

お客さんの波が引いてきた。
高円寺の女王ことのうじょうさんも
席に落ち着き、お腹を空かせた様子。
オムライスを召しあがる段取りをしている。
マスターが「温める?」と声をかけている。 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

カウンターに座っていた私は荷物を探る。
長袖を脱ぎ、ちょいとばかりお色直し。

Tシャツを取り出し半袖の上から着る。
グッナイ小形さんが名古屋へ来た時に
物販で入手した「Good Night」Tシャツ。

着替える様子を見ていた小形さんが
「おおー、こないだの…」
と言って目を細めている。
デザインは奥さん、尖さくらさんだ
肌着の上から着て、寝るときに使用してるが
肌触り良いので重宝している。
それを小形さんへ伝えたりする。

カウンターにてお隣の女性も交え話する。
その席はライブ中、別人だった気がする。
入れ替わりで、お帰りになったのだろう。

その女性も音楽をしているとのことで
湯澤ひかりさんと名乗られた。

しばらく3人で談笑する。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

女王のモグモグタイムが終わった様子。
私は白いTシャツを上から着る。
サイズは大きめなので余裕がある。
Tシャツはもう一枚あったのである。
胸に縦書きで青い文字
「高円寺の女王」と書かれている。

新しいアルバムを買おう。声をかける。
Tシャツ姿を見て笑っている。
「あはは!女王Tシャツ着てるー!」

アルバムを買い求めると
2日前の誕生日ライブのフライヤーも
一緒に渡してくれた。
「これ、見てくださいよー。
 QRコードがデカすぎて…」
というので見ると
ほんとにバカデカかった。

がはは、と二人して笑う。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Tシャツはどちらも汚したくなかったので
また脱いで、手早くたたみ、カバンへ。

「はぐぱぱさん、お待たせしました…」
タローさんの声に振り替える。手には、
看板に使用していたフライヤーが見える。
本日の演者二人のサインが入っている。
「おお!これは…」
『投げ酒』の特典である。

 

ライブ開始前、タローさんから説明がある。「本日は投げ銭制です。
 良ければ前の投げ銭の缶へ…。
 それで『投げ酒』もありまして。
 こちらは数量限定で特典があります」
つまりは演者さんへのお酒代ですなぁ。

ライブの休憩時間に、投げ銭とあわせて
『投げ酒』をしてみる。

最初に特典がいくつ用意されていたか
聞いていなかったので分からないけれど
タローさんにお声がけした時、
特典はもう、残り3つになっていた。

 「では、こちらからお選びください…」
トランプのように広げられるポチ袋。
特典が書かれた紙が入っている。
何かは開けてのお楽しみ…。

3枚の中から、真ん中を選ぶ。 

「開けてみてください」
タローさんと中身を確認する。
『看板のフライヤー』とある。

おお、これは。
ありがたい。

「お帰りの際まで持っていてください
 特典と引き換えにしますので…」

他に何が特典にあったか聞かないでおく。
何かと比べたくはないから。

そんな感じでゲットできた特典である。
女王のQRコードでかでかフライヤーと共に
大切にファイルに挟んでおこう。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

23:15

さぁ。そろそろ帰る時間だ。
ちょうど湯澤さんも駅へ行くというので
ご一緒させてもらうことに。

小形さんに別れの挨拶をする。
ガバッと頭から覆うようにハグしてくれる。
クマが獲物を抱えるような格好だが
いつものことだ。 互いに背中を軽く叩く。

「バイバイ、またね」と、大きく手をふる
童心にかえる

ライブ中、のうじょうさんも言っていたけど
小形さんと、話したり過ごしたりしていると
感じる感覚のようなもの。
心から子どもに還るような気持ち。
わたしにもあって。
それは、何にもかえがたい
大切なものだと感じている。

小形さんはいつだって見送ってくれる。
ライブ後、いつも遅くまで残ってしまうから。

心残りのないように。と、思ってはいる。
ただ、再会できる保障なんてどこにもない。

それでも笑ってバイバイと言うのは
笑ってまた再会したいから。

ありがとうの気持ちは尽きない。



湯澤ひかりさんと話しながら
高円寺駅へ向かう。

湯澤さんから
「どうして、小形さんと出会ったの?」
と聞かれる。一瞬言葉に詰まる。
とても長い話になるので、簡単に説明する。

人と話すことが心地よいと思えるのは
酒の力だろうか。本心だろうか。

ふと、心の片隅がほころぶ。

小形さんにもだが、湯澤さんにも
「家族」の話を偉そうに話してしまっている。ろくすっぽ「家族」と暮らしていないのに。

それで、それをあまつさえ心地よい?
心の淵で、悪の華が咲く。

頭の奥から強い声がする

「家族」という形は一様ではないからな?く
幸せであることは、それぞれである
それは嫌と言うほど見てきたではないか
「こうあるべきだ」というから苦しくなる
1人1人、苦もない生き方であってほしい
わたしがここにいる理由もそこにある

悪の華は枯れる。
引き戻してくれるのは
いつも身勝手な声だ。

身勝手でかまわない
これはわたしたちの問題だ

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

23:39
高円寺駅 ホーム

列車が来る。湯澤さんと乗り込む。
新宿へ着く手前でお別れ。
僅かな時間でも、お話しできてよかった。

「またどこかのライブハウスで」
別れ際に、湯澤さんへ伝える。

再会は希望。
それが叶うかどうかは、問題じゃない。
希望は、あること自体が大切なのだ。



23:50

新宿駅

人の波にのまれる。

おや?ここはどこだ。
…しまった。迷っている。
時間もない。スマホの地図と格闘する。

こっちに行ったらダメだ。北じゃない

南に行かないと…いや、東か?

バスタ新宿はどこか!



深夜バスで帰る
シンデレラおじさん

0:00

バスタ新宿4階へ駆けこむ。

ドライバーに名前を告げると
面倒そうに名前にマーカーを引く。

出発5分前。

係員は荷物を受け取りもせず
貨物ドアを目の前で閉める。
ドライバーと雑談をしている。

どうやら私が最後の客らしい。
ドライバーは私に案内もせず
「乗車してください」も言わない。

最後の客だとしても、その態度…。

声をあげるか悩みかけて
守護妖精が現れ言い捨てる

 人の態度など気にするな。ほおっておけ
 わたしたちには大きく関係しない人生の話だ
 心を割くほど重要でもない

座席に腰を下ろし、それもそうかと思い直す。
彼女の言葉はいつも正しい。

明日、名古屋についたら、久しぶりに
柳橋中央市場まで行って朝ラーしようかな。

まどろみの中、バスはすぐに発車する。

暗闇が眠りを呼んでくる。

意識を閉じる。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


早朝。人影疎らな名古屋付近

06:20

定刻通りに、バスは名古屋へ到着。
朝焼けも足踏みしている、冬の名古屋駅前。
柳橋中央市場までは歩いて10分くらいか。

今年のイベントはあと1つ。

来年はどうしようか。
冷たい風が吹く。
まだ方針を決めていない。
無茶はあまりしたくない。本数も減らそう。
今年できなかった富士登山はどうするか。
その前にガレージを作らないといけない。

そんなこと考えつつ。
ラーメン屋のある柳橋中央市場へ到着する。

なんだか商店が軒並み静かな水曜日

おやおやおやおや…
…ラーメンのお店、開いてないですねぇ。

調べたら水曜は午前9時開店とのこと。
妖精が腹を立てる

「前もって調べておきなさいよね…」

彼女の言葉はいつも正しい。

さて…10時に仕事が始まる。あと3時間半。

職場まで行ってシャワーを浴びよう。

朝食は味の濃いものでも食べようか。

仕事してからおうちに帰るのだ。

普通の1日の始まりである。



おしまい



いいなと思ったら応援しよう!