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なれそめ#5__ついに


〝実は小中の同級生なんだ〟と、いつ言い出そうか。そんな秘密を抱えているわけだけど……この巨大爆弾を披露するタイミングは案外すぐにきた。


「もしかしてさ……同じ中学だったりする?」

私たちは前回のカフェデートから1週間後に夜ご飯を食べにきていた。話の流れでまた地元の話になり、ついにその時は来てしまった。


「あ……、はい……。」

バレた………。黙ってたこと怒るだろうか。私はいかにも〝ヤバい〟って顔をしていたことだろう。

「まじかああぁぁ……! 小学校も同じ?」

「うん、そうだよ……!黙っててごめん」

(それを聞くってことは、私を目の前にしても私が小学校の時にいたかどうかなんて私の記憶ないんだろうな)

「それ(黙ってたこと)は大丈夫!!」

と言って、メガネ君はまた「まじかああぁぁ……」と頭を抱えた。

「俺のこと知ってる?」

「うん、知ってるよ。すごく大人しかったよね、びっくりした」

「あ〜、やっぱ知ってるんやな。恥ずかしい……」

そう言ってメガネ君は赤らめた顔を隠した。私は覚悟を決めて話はじめる。

「いつ言おうか迷ってた。中学の頃の嫌な思い出とか思い出して嫌な思いさせたくないって思った。そもそも同級生ってわかってたら会ってもらえないかと思って言えなかった。黙っててほんとごめんなさい」

私の本音だ。最初、メガネ君と会いたいと思った動機にもちろん〝好奇心〟があったよ。だって、あの無口なメガネ君が明るくメッセージのやりとりをしてくれて、どんな大人になっているのか知りたかったから。

だけど、それ以上に恋愛対象から外されることが怖かった。最初から「同級生だよ」と伝えて会うこともできたかもしれない。けれど、もしかしたら“過去の自分を知る人は恋愛対象に入れない”という人もいるかもしれない。〝同級生だ〟って先入観が第一印象から生まれるかもしれない。私はただ、メガネ君と仲良くなりたかった。


「そっか、俺のこと気を遣って考えてくれてたんやな。“同級生”って知ってたからっていって会わないなんてことなかったよ。嫌な思いも全然してないから大丈夫!」

優しい。こんなビックリ事実を今更伝えられたにも関わらず受け止めてくれるんだ…とメガネ君の優しさを感じた。「あの時は……」とメガネ君は昔を思い返そうとしているようだった。


無口だった理由


まずはメガネ君の小学生の時の大人しさを表すエピソードを話したい。あれはある日、クラスの誰かがおちょけて教室中で笑いが起こった。生徒たちがワハハと笑っている中、誰かが

「あ!!メガネ君が笑ってる!!!!」

とメガネ君を指さした。みんなが一斉にメガネ君の方を向く。私も振り向いた。

皆に見られたメガネ君は一瞬にして口を硬らせた瞬間を私は今でも記憶に残っている。指を指した子は悪気があって言おうとしたわけじゃない。笑っているメガネ君を見ると皆がびっくりするほどメガネ君は感情を表に出さない大人しい男の子だった。

かく言うたいがい教室の隅にいた私は「メガネ君だって、そりゃ笑う時もあるだろうに」と密かに思っていた。


「あれには理由があって…」

「俺、小学2年の時に引っ越してきたやん?最初にミスっちゃったんよな、友達作り。前の小学校がすっごく小さい学校で、学年に数人とかでさ。だから転校してきた時、人の多さに驚いて人見知りしちゃったというか」

えええ、全然知らなかった……!前の学校のこととか。

「話しかけてくれる優しい子もいたよ。でも、なんかその時の俺、自分の出し方がわかんなくて。慣れたら自分から話せばよかったのに、最初無口になっちゃたからさ、急によくお喋りになったら驚かれるやん?だから、無口を貫こうと思って。今思えばおかしいけどさ」

あああ、そんなことをメガネ君は思ってたんだ。私は転校したことないけど、元いた友達や環境を離れる不安とか緊張って想像より遥かに大きいんだろうな。

「本当は明るかった!引っ越してきた近くに親戚が住んでたから、家に帰ったら親戚のお兄ちゃんとずっと遊んでた!学校は正直つまんなかった。だから、卒業して高校入学するタイミングで〝ここで喋らないと一生話せない!〟って思って頑張って友達作ったんよな」


全ての私を総動員させて抱きしめたくなった。

一人も話せる人がいない学校生活はどれほど心細かったことだろう。ホントは話したかったんだ。卒業してから頑張ったんだね。話を聞いていてなんだか泣きそうになったよ。

「この話を実際に同級生だった子に話せる日がくるなんて思ってもみなかった」


一通り話し終えたメガネ君は、ほっとしたような優しい顔で笑ってくれた。





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