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「月夜のストレンジャー」あらすじ

 AR技術の進歩により、各個人が「見たいものだけを見る」ことができる未来。町並みや服装は自由にカスタムできても、顔だけは隠すことができない、はずであった。  40歳になって初めての特定健診でメタボリックシンドロームと判定された広瀬ワタルの顔が、黒いモヤで覆われた。顔を取り戻すためには特定保健指導を受けるしかない。  未知の技術によって分離された自身のネガティブな認知と対峙するになったワタル。力でねじ伏せようとするが軽くのされてしまう。  自身の過去と向き合い、一度は逃したネガ

    • 「月夜のストレンジャー」第3話

       飯島ヒロオは空を見上げて走っていた。職場での目立たない黒髪とスーツ姿から一変して、髪色は紺と緑のツートーン、服装は原色を多様した派手な装いである。  いつものように定時ダッシュして自宅に戻ってからも影の動向を追っていたヒロオは、白いスーツの男が数日ぶりに姿を現し、ビルの谷間を縫うように駆けているのが目撃されたことを知り、いても立ってもいられず街へ飛び出した。運良く白い影を発見し、見失わないように追いかけているところだ。  白い影がビルの谷間に吸い込まれて消える。ヒロオは立ち

      • 「月夜のストレンジャー」第2話

        「スーツアクターを目指していたんですか?」  ウサが言う。   黒い影に惨敗した翌日、自宅のリビングで広瀬ワタルと自称ダイエットサポートデバイスのウサが話している。 「目指していた、ってほど真面目じゃないよ。学祭の出し物のために、ちょっとだけやってただけ。しかも、結局披露せずに終わっちゃった」  小さな頃は純粋にヒーローにあこがれていた。高校生になる頃には周りに合わせてヒーローごっこは卒業したと思い込んでいたが、心にはずっとくすぶっていた。大学に入って同じ趣味を共有できる仲間

        • 「月夜のストレンジャー」第1話

           広瀬ワタルは洗面所の鏡で自分の顔を覗き込んでいた。  顔、があるのだろう。目も、鼻も口も、黒いモヤのようなもので見えないが。  妻のユキが後ろから、「うわ」とだけ言って通り過ぎる。キッチンから、 「それ、顔洗えるの?」  それほど興味はなさそうにユキが言った。  ワタルは手首の端末に指をかけ、横にスライドする。景色と服装が次々に切り替わっていくが、顔の上の黒いモヤだけは晴れなかった。  鏡に顔を近づけ、鼻があるはずの場所に手をやる。指先が黒いモヤに沈み込み、鼻に触れることが

          2019年ベスト映画総評+α

          ベストの10本に挙げられなかったけど気になる映画について書きます。 「アベンジャーズ:エンドゲーム」 「仮面ライダー令和ファーストジェネレーション」 10年に渡るインフィニティサーガが完結した年に、20年続いた平成ライダーサーガ(?)も完結したことはあまり知られていないことだと思いますが、仮面ライダーってコンテンツはMCUに負けないくらいのポテンシャルを秘めたものなんです。が、令和に元号が改まったのでまたしばらくは年に1作の通常営業にもどってしまうのかなあと寂しさも感じつつ

          2019年ベスト映画総評+α

          2019映画ベスト総評

          2019年劇場で観た映画60本くらいから順不同で10本+α挙げていきます。基準は、心が揺れたかどうか。 この一年でなんとなくわかった自分の傾向は、ストーリーより画面重視、言葉で説明できない感情をぶつけてくる映画に弱い、喪失からの回復をテーマにしてる映画に弱いの3点でした。 まず10本。 「恋のクレイジーロード」 「愛がなんだ」 「凪待ち」 「ひとよ」 「蜜蜂と遠雷」 「ゴジラ キングオブモンスター」 「ドクタースリープ」 「ブラッククランズマン」 「スパイダーマン:スパイダ

          2019映画ベスト総評