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ライターになりたくて、なれなかった3年間

社会人になってから約3年間、ずっとライターになりたいと切望していたのに、どうにもこうにもうまくいかなかった。前に進もうと足を動かすたび、ぬかるみにはまってずるずる滑って、右へ左へ揺らいでいた。

新卒で営業職として入社した求人広告会社では制作部に憧れたが、制作部のリーダーにものすごく嫌われた。なまじ負けず嫌いで無理くり受注してくるパワープレイが災いし、制作部に確認しないまま短納期受注して反感を買ったのだ。過密スケジュールは品質の低下につながり、制作部からするとただの有難迷惑だった。

おおいに生意気だったし然るべきコミュニケーションを経て制作部と信頼関係を構築すべきだったが、必死でテレアポして邪険にされながら何度も足を運んでもぎ取った案件を「そんな急に持ってこられても作れないから」と無下に突っ返されると「ふざけんな」と思った。

仲裁に入った上司から「もうちょっと社内営業しろ」と言われたが、青く尖っていた私はなぜ必死で売り上げを取ってきているのに社内でも営業しなければいけないのかわからず、なんでですか、と噛みついた。広告を作るのが嫌なら私に作らせてくれよ、という言葉が喉元まで出かかった。いらないならくれ。私が欲しくてたまらない仕事なんだから、くれよ。私が取ってきたんだから、返してくれよ。

――どれだけ切望したところで、未経験の新卒営業が制作にいくルートは存在しなかった。毎日テレアポする電話機の向こうに延々と続く営業キャリアが見えて「ここにいてもライターにはなれない」と悟った私は、すぐに転職活動を始めた。

化粧品会社でライター職(の見習い)として採用され、制作部のリーダーにも退社の挨拶をしに行ったら「ああ、そう」とだけ返されただけで一瞥もされなかった。露骨な嫌悪にひやりとしたが、念願のライター生活に胸は躍り、さっさと荷物をまとめて立ち去った。

ライター人生の幕開けだ、と喜び勇んで入社した化粧品会社では、気づくと部署を転々とする何でも屋さんになっていた。多種多様な経験はできても、ライターにはなれなかった。唯一書いていたメルマガが心のよりどころだったが、「人が足りないから」とコールセンターに回されたときに理由も開かされないままメルマガ担当から外された。

どうしたら制作部に入れるんですか、と訊いたが明確な返答はなく、描いていたキャリアプランは真っ暗に塗りつぶされた。営業経験がある私はコールセンター業務の適性があり、人員不足のこの部署に長らく籍を置くだろうことは容易に想像できた。なんのために疎まれながら断ち切るようにして転職したのかわからない。意志を示そうとわずかな貯金を切り崩してライター講座に通ったが、そんな努力は単なる趣味扱いだった。

自分で現状打破しなければライターにはなれない。そう気づいて血眼でナイフを探した。停滞する今を断ち切るナイフ。鬱屈とした自分を切り捨てるナイフ。未来を、理想の自分を切り開くナイフ。

――勉強するだけじゃダメなんだ、実績がなきゃダメなんだ。

そう思ってライター講座の知人に相談し、仕事を紹介してもらった。ひとつ実績ができるとそれを土台に新しい案件につなげられ、少しずつ実績が積み重なっていった。「ライター経験者」という名目を手にした私は、初めて転職に成功し、ライター職に就いた。活版印刷で「ライター」と刻まれた名刺を受け取り、指先で字の形をゆっくりたどった。

そこからさらに二転三転あって今に至る。ライターと名乗ればだれでもライターになれるが、名実ともにライターになるには仕事を受注し、生計を立てられるレベルの収入を得なければならない。肩書だけ掲げたって虚しさが浮き彫りになるだけだ。

ちっとも順調ではなかった。一歩踏み出すたび壁にぶつかり、探り探り歩く私は土俵の上を頼りなく揺れ動く紙相撲のようだった。右へ左へ傾いで地団太踏む日々だったが、それでもたったひとつ誇れるとすれば、どれだけ揺れても倒れなかったことだ。書いて生きていく。その思いだけが、頭上で太陽のように眩しい光を灯し、私の足元を照らし続けていた。

書いても書いても、自分の文章がうまいとは思えない。もっとうまい人が山ほどいて、今でも毎日地団駄を踏んでいる。それでも、狂おしいほどの嫉妬にまみれても、自分の不甲斐なさに舌をかみ切りたくなっても、それをまた血肉にして書く。書くことが私の存在証明だから。書かないとやり切れないから。書かねば生きていけないから。

書かねば生きていけない私の文章で、だれかの生を照らして、死にたい。書くことが生きる希望だから、書いた文章で、だれかの希望になりたい。そしたら最高に幸せだし、いつでも死ねる。もっと照らしてから死にたいから、もっと生きて、もっと書こうと思う。

aki kawori | Twitter

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秋カヲリ@星天出版代表
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