幽霊が本当に見えてきた話
夏が終わろうとしているこのタイミングで、夏になると思い出す、『幽霊が本当に見えてきた話』をしたいと思う。
高校2年の部活動中、陸上部に所属していた私はマネージャーと『幽霊は本当にいるのか』という話で盛り上がっていた。
確かその日は雨による基礎トレばかりで、お喋りが中心になっていたんだと思う。
怖がりなマネージャーは「幽霊なんて居ないって言い切れないけど、怖いから見えなくていいかな…」と心底怖がっている様子だった。
それを受けて、意地の悪い私はすかさず、「実はうち見えるねん…」と切り出していた。もちろん私は霊感などこれっぽっちもないし、幽霊とご対面した事はない。ただしホラーは好きだった。特に怖がる人を見るのが好きで、お喋りが大好きだった。
「え?嘘はいいよー」
「いやいやマジで。実際この高校ってか、うちらの陸部にゆかりあるというか…」
私はその場で嘘八百をペラペラと語り出した。
「玲子ちゃん言うてさ、長距離選手やってんけど大会直前に交通事故で亡くなった子がおってさ…結構いい選手で、何より練習熱心やったんよ。いつも校舎周り走ってるで。昔の部活ジャージやから、結構前に亡くなられたんかなぁ」
私が自然にそう話すものだから、マネージャーは一瞬真剣に聞きはしたものの「もう、そういう冗談やめてやー」とムッとした顔をする。
「ごめんごめん、でもマジやしなぁ」
と、いくら仲の良い相手にしてもそこで冗談とやめればいいものの、諦めの悪い私はその話を嘘とは言わず、そのまま突き通すことにした。
「玲子ちゃんに限らず、うちの家の近所に脱サラしてラーメン屋始めたけど上手いこといかず、自分で命絶った30半ばの佐藤さんと、古いアパートの大家さんやってて火事で亡くなられたおばあちゃんとその飼い犬とか…」
「え、待って待って、続くの?」
冗談でも怖い話は遠慮したいマネージャーからついに本気で制止が掛かった。「だって信じてくれへんから…」とあくまで本気でしょげている風に答える私にマネージャーは困惑し始めていた。
「えぇ、本間に見えんの…?」
「マジやって」
その日から私は『幽霊が見える』という体で生活する事になる。
例えば部活中、誰もいない校舎周りをたまに目で追いかけては微笑むという、まぁ明らかに頭のおかしな事を実行した。あくまでマネージャーが見ている時のみである。
そうするとマネージャーは「もう怖いから冗談でもやめてやー」と言った。
だが、そう言いつつも冗談だと信じている彼女は「今日も玲子ちゃん走ってるん?」だとか「佐藤さんて普段何してんの?」と聞いてくるようになった。
そうなると毎日ではないが、不定期に私は『存在しない見えもしない幽霊達の進捗報告』をするようになっていた。
「佐藤さん何故か脱サラしてんのにスーツ着てはるねん。そんでラーメン巡りしてる」「大家のおばあちゃんはベタに紫のカーディガンで…何でおばちゃんとかって紫好きなん?」「あ、玲子ちゃん今日おさげにしてる!」「大家のおばあちゃんの飼い犬、ゴールデンレトリバーやねんけどめちゃくちゃデカいねんよー」
と言ったような内容である。全てその場の作り話だったが、前に話した設定は忘れぬようしっかりと覚えていた。
あまりに私がいつも当たり前に話すせいで、ついにマネージャーも「本間に見えてるような気がしてきたわ」と言い出した。恐らく1ヶ月以上は続けていたと思う。
そんな『幽霊が見える』状態で過ごしている間に夏休みに入っていた。雨ばかりで基礎トレが多い日々から解放されると同時に、夏休みは普段出来ないトレーニングが増えるのも事実である。
「今日は坂ダッシュしに墓地の急坂んとこ行こう」
後出しになって申し訳ないが、私の通っていた高校はかなり田舎にあり、裏門を出て畑を抜ければすぐ坂道があった。そこの坂を登ると墓地があるのだ。決して山の中ではなく開けたところであまり怖さはない。ただかなりの急斜面にあり、トレーニングをするのに丁度良い場所があったのだ。まぁ、街灯があまりないため、明るいうちにしか出来ないので夏休みの日中にはもってこいの場所なのである。
墓地に囲まれた急坂でトレーニングをするなんて、今考えると罰当たりな気もするが所詮高校生であることは許して欲しい。
「ねぇねぇ」
坂ダッシュを何本かして休憩している時に、マネージャーが私に話し掛けてきた。
「墓地はやっぱたくさんいる?」
正直な所、私は先程の坂ダッシュで疲弊しており面倒くさくなっていた。自分からやり出した事だというにひどい話だが、その日は本当に疲弊していた。
「あぁ、、うん、うじゃうじゃ、おるおる」
ただそう言った瞬間、本当にうじゃうじゃと青白い半透明の幽霊たちがたくさんいる気がした。
その時私は『玲子ちゃん、佐藤さん、大家のおばあちゃんとワンコ』に対して最早愛着が湧いており、いつも皆のビジュアルをしっかりと想像して話していた。そこに本当に見えているように話していたのだ。
自分自身に暗示が掛かっているかの如く、その時『そうな、いるとしたらこんな感じでたくさんおるんやろな』と頭で思い描いたことで、本当にたくさんの気配を感じていた。あぁこれは良くないな、と私はその時初めてそう思ったのだ。これは良くない、この話はこれ以上してはいけない。
「そっかー!」
と、何故か幽霊などの怖い話が苦手なマネージャーはニコニコと答えていた。あまりに話をし過ぎて耐性が付いていたのだろう、マネージャーは怖い話がそこまで苦手ではなくなっていた。
「…冗談抜きで言うけど、マジで一人で夜遅くここ通ったりしたアカンで?」
「通らんよ〜こっちに来る事、部活以外でないし」
確かに裏門の山側に用事などないだろう。マネージャーは明るく答えたが、私は何か不穏な予感がしていた。自分が撒いた種ではあるが、今更になって恐怖を感じていたのだ。
ただの思い過ごしであれとその時は思ったのだが、その予感はすぐに的中した。
その日の夕方、部活が終わり各自解散し着替えをしている時のことであった。マネージャーの姿がなく、他の部員に所在を尋ねると、
「墓地にタイマー忘れたみたいで今取りに行ったで」
何と言うことか、つい先ほど『一人で行くな』と言ったばかりであるのに!!
私の顔は真っ青であったことだろう、そう聞いた私は部活終わりとは思えない速度で駆け出した。墓地までは少し距離がある、全速力で掛ければ墓地に着くまでに追い付けるのではないか。色々な算段をフル回転させながら私は死に物狂いで走った。
だが途中で追いつく事は出来ず、結局私は墓地まで駆けることとなった。墓地に着いた頃、辺りはもう真っ暗闇で殆ど何もわからなかったが、前方に人影を認めてマネージャーの名前を呼んだ。
しかし、その人影は一つでは無かった。音もなく全身黒の装束をした人型が、気付けば自分を取り囲んでいた。
ビィィィン!
囲まれている事に気づいたその瞬間、何処からともなく矢文が飛んできて足元に刺さっていた。立ち尽くす私は何の迷いも無くその文を開いた。
そこに書かれていたのはマネージャーを預かっている事、そしてその身柄は、我が一族が守り続けていた秘伝の忍術書と引き換えに返すと言う事…
そう、あの時の不穏な空気は此奴らの気配であったのだ。敵対する忍一族のものだったのだ。
私は腹を括った。
「一般人まで巻き込むなんて、そんな奴ら、たかが知れてるわ」
そこに私の姿はもうない。
こういうこと?笑
あ因みに幽霊見える下りの話はほぼ実話です。何やってんだよ高校時代の自分…
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