夢の記者
印象に残っている夢はどんなものがあるだろう。こう問い掛けた時に何と答えるかは相手によりけりだとは思うが、私がこれまで友人に問い掛けて返ってきたものは、恐ろしい夢や奇怪な夢である事が多いように思う。往々にして『恐怖』とは印象に残りやすいものだ。それに、どうせなら盛り上がる夢の話がしたいと思うのではないだろうか。ただ、個人的な理論ではあるが、人は自分の本当に蜜な話はあまりしたがらないと考えている。そもそも夢を操作する事は難しく、自身の願望が反映された甘美なものである事は稀だ。そして、万が一自分が望むような夢に遭遇したとしても、それを話すと言うことは自分の癖を曝け出す事になる。つまり、語る相手は選ぶべきだ。
さて、では私が印象に残っている夢は何かと問われた際に答えるものは何だろうか。少し考えてから、私はこの夢を語る事だろう。
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ある女性記者が主人公の夢だった。主人公は私ではない。恐らくまだ20代の若い記者だが、顔は知らぬ人だ。視点は所謂カメラ視点。まるで映画を鑑賞、いや、映画を撮るカメラマンの視点だ。
記者は山奥、とは言うほどではない、少しだけ山手にある土地へ訪れていた。その土地でいつか語られた逸話を現地の人に聞く為だった。
だが、昼を過ぎ夕方になり、辺りが暗くなっても誰もその話を知らなかった。知らないと言うよりは話したがらないように思え、どうにか聞き込みを続けたが先述の通り惨敗である。
肉体的にも精神的にも疲れ果て、彼女はバス停のベンチに腰掛ける。そして気付くのだ、帰りのバスがもうない事に。やってしまったと思い項垂れる彼女だが、バス停のすぐ前の溜池が視界にチラついた。
よくある放置された溜池だろう。フェンス越しに覗き込むが、水は濁っていて何も見えない。何も見えないはずなのに、彼女は『ぬいぐるみがたくさんある』と思った。
そんな感覚が頭をよぎった瞬間のことだ、背後から声がした。
「そこに近付いちゃいけんよ。早く帰りな」
振り向くと数件前に聞き込みをしたおじさんだった。これは何かあるに違いないと彼女が近寄るも、おじさんはさっさと逃げてしまった。どうして何も話してくれないのか。
彼女は諦めてバス停のベンチに腰掛ける。そして、彼女の意識はそこで途絶えた。
場面は次の日の朝へと展開する。映像は、先程まで女性記者が居たであろうバス停前、溜池の様子が見える。大勢の警官や、防護服を着た消防隊の姿がそこにはあった。水の抜かれた溜池に、バラバラになった女性の遺体が見つかったと知らせが入った。
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夢で見た物語は以上だ。
これだけでも純粋に恐ろしいのだが、私が恐怖するのはこの夢を見た数時間後となる。
そう、世間の話題に追いつく為、私にとって必須になったネットニュースだ。この夢を見た数時間後、昼の通知が届いた音がして、私はいつも通り目を通した。
○○にある放置された溜池から30歳前後の女性と思わしきバラバラの遺体を発見。
そこの地名は私にとって全く馴染みのない場所であった。当然のことながら全く関係性はない。ただ、ただ、あまりに酷似したニュースに、私は心の底から恐怖を感じた。
最近のゾッとした出来事。
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