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黙っててくれてありがとう
風呂に入ったら扉の内側にブンブンがいたんだよ。
あぁごめんなさい、先に「ブンブン」の説明をしようね。我が家では家の中を飛び回る虫の総称がブンブンである。ハエ、蚊、蛾の類はひっくるめて「ブンブンがいる」くらいにまとめられている。
風呂場のブンブンは俺が入って来たにも関わらず何事もなかったかのように扉に止まったままでいる。
天敵に対しての警戒心は強いであろうと思われるのに微動だにしていない。
どちらかと言えば他人の苦手な俺でさえ、人気の少ない温泉場なんかで人に顔を合わせた際は軽く会釈くらいするというのに…ヤツの態度はどうだ?
自分とは種の違う圧倒的な大きさのヤツが来たので息を潜めているのだろうか?
しばらく駆逐艦対Uボート的な睨み合いが続いたのだが…
終いの湯船に浸かった後、風呂の上がり際に俺は攻撃を仕掛けた。
高さも丁度良かったので裸の下半身をヤツにグッと近づけてやった。多少でも驚いてその場を飛んで離れるやろ。
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動かない!
これが霊長類ヒト科の女性であれば悲鳴を上げて逃げられ法的にも社会的にも罰せられて人生を棒に振るだろうし、対男性である場合には殴られていてもおかしくない状況である。
それでもヤツは動かなかった。もともと俺のことなど眼中にないのかもしれん。
「しょうもないことしやがって…」くらいに思われていたのかなぁ。
誰も見ていないとはいえまったくの“やり損”である。つまらん。
ヤツは虫なのでヒトの言語を話さない…俺の下半身の寸評を聞かされなかっただけ良かったのかもしれない。