ガン検診の実施状況:海外と日本
またこのトピック?いつまで続くのよ、と言われそうですが、別にこのアカウントは、「北欧ではー」という記事を書くためだけのものではないですし、そもそも海外生活も30年近くになり、それも4つ目の居住国(日本を含む)ともなると、普通に日常生活中心の話になるのですよ。
まぁ、海外生活における新鮮味がなくなってくるというのも、ちょっと考えものですが。
それはさておき、最近、日本語の YouTube で「健康診断の弊害」を主張する人をちらほら見かけました。中には、「がん検診も無駄」と、論理の飛躍をして批判する人がいるので、ちょっと追記しておこうと思います。
日本の学校や勤務先でおこなわれる健康診断は、各組織でいろいろ差があると思われるので省略します(というか、私は現状をよく知らないので)。
なので、この記事の焦点はあくまでも「ガン検診」です。
ほとんどの先進国は、国や自治体をあげてガン検診を提供・推奨しています。受けるのは任意ですし、無料で検査してくれるものを受ける受けないは個人の勝手なので、なぜわざわざ批判する必要があるのか理解できません。まぁそういうふうに、センセーショナルな動画タイトルにして視聴者を釣りたいだけなんでしょう。低レベルのユーチューバーにありがちです。
で、ガン検診なわけですが、私が過去・現在に暮らしたことのある3つの外国(日本からみて)いずれにおいても、がんの定期検診は行われています。
ガン検診:英国, デンマーク, シンガポール
イギリスの場合
私が成人してから一番長く住んだのはイギリスです。いまとなっては、唯一私が国籍を有する国でもあります。イギリスでは、子宮頸がん検診、乳がん検診、そして大腸がん検診の3つの定期健診が実施されています。
イギリスの子宮頸がん検診は、25歳から 64歳のすべての女性が対象。25歳から 49歳の人には 3 年ごと、50歳から 64歳の人には 5 年ごとに実施されます。
乳がん検診は、50歳から 70歳の女性が対象です。
大腸がん検診は、私がまだイギリスにいた頃は 60歳から 74歳を対象に2 年ごとの検診でしたが、今は対象が広げられ50才からです。対象年齢になると、家庭用の便潜血検査キットが自宅に送られてきます。
これらに加えて、イギリスでは、男性は 65歳になると腹部大動脈瘤 (AAA) スクリーニングが受けられるそうです。
デンマークの場合
私がいま生活しているデンマークでも、若干の違いはあるものの、だいたい似たような検診制度です。イギリス同様、子宮頸がん検診、乳がん検診、大腸がん検診の3つが行われています。
デンマークの子宮頸がん検診は23歳から64歳の女性が対象です。最近、オプションとして、診療所には出向かず、子宮頸がんの家庭用検査キットの送付を選択し、自己採取法で採取した細胞を返送することが可能になりました。これは非常にありがたいです。というのも、現地の医療機関が使う採取器具は、日本人女性にとってはサイズが大きすぎ、痛みを伴うからです。それが理由で、私はイギリスでもデンマークでも、子宮頸がん検診には 1、2回しか行ったことがありません。
自己採取法は正確ではない、という意見もありますが、痛みや不快感が怖くてまったく検診に行かないよりはいいんではないかな、と思います。
乳がん検査は50歳から69歳が対象で2年ごとのマンモグラフィーです。
大腸がん検査は、デンマークでは従来から 50歳から74歳が対象で、便潜血検査 が2年ごとにあり、必要に応じて大腸カメラ検査も行われます。
シンガポールの場合
シンガポールは私が最初に長期で住んだ国ですが、当時はまだ若かったのでシンガポールの医療検診については気にもしませんでした。
現在の情報を調べてみると、やはり子宮頸がん検診、乳がん検診、大腸がん検診が行われています。喫煙者や肺に持病を持つ人には、肺がん検診もあるそうです。
がん検診を受けましょう
ガンの種類や検診のタイプにもよりますが、経済協力開発機構(OECD)の国際比較データによると、日本はがん検診の受診率がおおむね低いです。
ところで、日本では、「子宮頸がん・乳がん・大腸がん」の検診に加えて、胃がん、肺がん、と合計5つのがん検診が実施されているんですね。これが「過剰」とか「無駄」とか言われる理由かもしれません。
確かに、肺がん検診についていうと、その有効性がはっきりと証明されていなかったので、肺がん検診を行う国は少ないです。しかしながら、最近はイギリスで導入が始まったとも聞いていますし、デンマークも検討中です。
一方、国を挙げて胃がん検診を実施しているのは日本と韓国だけで、他の先進国は導入していないはずです。それにはいろいろ理由がありますが、胃がんは他のタイプのガンに比べて罹患率が低いことがあげられます。
じゃ、なんで日本は胃がん検診をしているかというと、日本では高齢者のピロリ菌の感染率が高いので、世界保健機関 (WHO)によって、「胃がんのリスクが高い地域」に指定されていたからです。今後は変わるかもしれません。
ここで話を YouTube に戻すと、ガンにかかった人や、余命を宣告された人が挙げた動画がかなりあるのに驚きます。そして、それらを見ていると、検診でわかった、という場合が少なくありません。
私は先月の検査中、そういう動画をさんざん視たのですが(見ずにはいられなかった)、中には、自分がかかるはずはないとタカをくくって検診に行かなかったとか、不調があったけれども我慢した、という体験談もあります。
我慢しないでください。お願いだから我慢しないでください。
健康は、何にも増して大切なものです。我慢すべき理由がありません。
そして、定期検診が受けられる国に住んでいる私たちは恵まれています。
年に1回とか 2年に1回という頻度は、確かに面倒と思うこともあるでしょうが、それは、一回くらい行きそびれても、その1,2年後にはまた受けられる、つまり、万が一何か問題があったとしても、放置期間が短くて済む、という点が重要なのです。
末尾の動画は たまたま見つけたものですが、とても簡潔にバランスよく説明されています。下記のサムネはちょっと紛らわしいですが、動画内では、ガン検診はむやみに「できるだけ多く」受診すればいいというわけではない、という点も明瞭にしています。推奨されている定期健診の頻度については、それなりの理由があるのです。
がん検診は、国が提供する公共の医療サービスです。各自が賢く活用して、自己の健康管理に努めることは、個人としてすべき最低限の責任だと思います。