デンマークの LGBT事情
日本で LGBT法案が物議をかもしていますが、デンマークは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー(LGBT)については先駆的存在であり、LGBTの権利保護についても世界最高水準にあるとされています。
ただし、詳しい話をしだすと問題点も多々あり、そもそも私がデンマークのことを良く言う事はあまりないので、問題点についてはまた別の機会にするとして、今回は、デンマークにおける LGBT事情をざっくり書き留めておこうと思います。
性の定義が信じがたいほどユルい
デンマークでは、個人が自分の性自認を決定することを認めています。
性不同一の場合、18歳以上であれば性別を法的に変更できます。
つまり、身体的性別にかかわらず、本人が自分は女性だと思うなら女性、男性だと思うなら男性なわけです。法的に変更されるので、これはパスポートにも反映されます。
また、デンマークでは、居住民はすべて社会保障番号をもっていますが、その番号の末尾は、女性の場合は偶数は女性、男性は奇数になっており、性を変更した場合はこれも変わります。以前は、成人が社会保障番号を変更するためには、性の自認を証明するために6ヶ月待たなければなりませんでしたが、今はその必要はなくなりました。
さらに驚くべきことは、性別変更をするにあたって、デンマークでは医療的処置を必要としません。身体的に性転換せずとも、性別が変えられるわけです。驚愕、の一言に尽きます。
ただし、施設の使用は身体的性別による
ならば、デンマークはブッチぎりで LGBT文化の先頭を突っ走っていて、なんでもありなのか、と言うとそうではありません。
デンマークは LGBT の分野で先鞭をつけましたが、トランスジェンダーはまだ比較的新しい概念です。実際、デンマークでも、2017年まで、トランスジェンダーは「精神疾患」として位置付けられていました。
そして、法律で決められた「性の自認を証明するための所要期間」が撤廃された今でも、生物学的性別よりも性自認が重要視されるような状況にはなっていません(今後はわかりませんが)。
つまり、どっちの性別を自認してもいいし,それを法的に認めるけれども、性別によって分けられている施設の利用などは、身体的・生物学的性別にのっとる、と言う事です。
実際、デンマークでは、トランスジェンダーの女性(身体的には男性)が、女性用トイレや更衣室、ひいては女性用刑務所に入ることはできません。
ごく最近の裁判(2023年 5月)でも、トランス女性の受刑者 (性別については、男性から女性へ法的に変更済みの人物です)は、男性用刑務所で刑期を終えなければならない、という判決がなされました。
トイレの区別はどうなっているのか
じゃ、いま日本で問題になっているジェンダーレス・トイレの状況はどうなっているのか。
北欧を旅行されたことのある方々はご存じでしょうが、北欧はジェンダーレス・トイレが非常に多いです。これは、トランスは男女どっちの設備を使うべきか、と言う難題にたいする一つの妥協策だと思われます。
ただし上記の通り、デンマークでは、原則的にトランスの女性は女子トイレには入れないので、女装の男性がもぐりこんだという話は聞きません(あるのかもしれませんが、その多くは外国人ではないかと思われます)。
むしろ、女装の男性は普通に (?) 男性用トイレを使っています(男性の同僚談。パブのトイレなんかで、たまに女装男性に出くわすらしい)。
そして、トイレのつくりや設置場所もそれなりに考えてあります。オフィスや大学のジェンダーレス・トイレの場合は大体が個室・単体で、ドアが直接廊下に面していることが多いです。つまり、出入りが誰の目にもつきやすいようになっています。
一方、デパートなどの公共のトイレは大抵が男女別々です。小さいパブなどでは別になっていないことがありますが、それとて、例の歌舞伎町のトイレのように、集合トイレとして区切られたスぺースの内側に、男女共用トイレがズラッとならんでいる、というのはまれです。
とはいえ、うちの大学にはそういう集合トイレもあるのですが、すぐ外に、身障者向け(ただし誰でも使える)個室の広いトイレがあるので、デンマークですら(少なくともうちの大学では)、女子学生はこちらを好んで使っています。
なので、トイレについては、「ジェンダーレス・トイレのみがある」場合と、「従来通り男女用トイレが別になっている」場合、のいずれかがほとんどで、日本の一部地域が新設したような、「ジェンダーレス・トイレと男性用トイレが併設されていて女性専用はない」などと言う謎の設定は見かけません。
そしてこれとて、現地の女性からは、「男性用」「女性用」プラス「ジェンダーレス・トイレ」の3パターンあるのが理想的である、と言う声が、現在も根強くあります。
小国だから可能なこともある
あと、私がデンマークに言及するたびにいう事ですが、デンマークは小国です。日本の九州くらいの大きさしかなく、人口は九州の半分程度です。つまり、個人の匿名性がかなり低い。
この小国において、地元民は幼少時からの人間関係をずっと維持します。
中高年になっても幼稚園からの友達とつるむとか、親友は小学校時代の同級生とかザラです。内輪意識や同調圧力が強く、体面を非常に気にします。
日本や米国で頻発している事件のように、女子トイレや女子更衣室をのぞく目的だけのために女装をする、などという愚行をデンマーク人男性がするとか、ちょっと考えにくいです(いろんな人がいるので断言できませんが)。
そんな姑息な犯罪がばれた日には、一族郎党、末代までの恥であり(それはどこでもそうでしょうが)世間が狭いので逃げ場がありません。
とはいえ、プライド・パレードなんかは御多分にもれず、奇々怪々な様相の人達がねり歩いているので、デンマーク人がとりたてて節操があるわけではありません(むしろ逆)。
何が言いたいかと言うと、上記のような社会的背景を度外視して、具体的な制限・禁止措置も明確にせずに、日本の社会で LGBTを推進するなど愚の骨頂です。このまま LGBT法が日本で成立されるなら、それを許した日本の政治家たちは猛省を強いられるべきでしょう。
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