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年上の友人、ローズマリー

私はデンマークで友達は殆どいないのですが、その数少ない交流関係の中でかろうじて友人と呼べる人のひとりにローズマリーという人がいます。このローズマリーはイギリス人で、年齢は 80代半ばです。

コペンハーゲンにある英国教会で知り合ったのですが、この人、それはそれは元気です。彼女は教会の世話やいろんな役割なんかも精力的にこなしていて、80代とは思えないエネルギーです。


元気なシニアを絵にかいたような人

ローズマリーは身長が170cm以上あり、イギリス人女性にしてはかなり背が高く、若い頃はさぞかし綺麗であったであろうと思われる顔立ちです。が、性格は竹を割ったような人で、むしろガラッぱちなタイプです。

私がイギリスからデンマークに移ってきて、ローズマリーと最初に教会で知り合って間もない頃、「教会活動に熱心ですね」と礼拝後に彼女に声をかけた際、ローズマリーは、「まー私は定年して長いし他にすることもないし、独り身だからねっ」と言ってカラカラと笑っていました。

なんでも、ローズマリーは若い頃は政治に興味があって、イギリスで地元の大学を卒業後、イギリス二大政党のひとつである労働党に入党し、政党職員として党運営の仕事をしていたそうです。

彼女はその後、ロンドンで大使館に転職し、そこから海外赴任でデンマークに来たのが40代半ばだったとか。そして、赴任期間が切れる時点で、国連のデンマーク事務所に事務員として再度転職し、デンマークに残ることにしたとのこと。

40歳を過ぎて初めて、それも女性ひとりで海外移住って大変でしたね、と私が言うと、「なに言ってんの。あなただって30歳過ぎてから、それも自分で選んで単身でアジアから出てきたって言ってたじゃない?その無謀さに比べたら何でもないわよ」と返されました。

歯に衣着せずなんでもズバズバいう人だし、まぁこの体格でこの性格だし、仕事をし続けてきたらしいので、ずっと独身だったのかな?と勝手に思っていました。

誰しもつらい過去がある

私がデンマークに来て最初の12月に、ローズマリーが彼女の自宅でやるクリスマス・パーティーに誘ってくれました。各国から来ている在デンマークの友人知人を集めてやる恒例のイベントらしく、カップルやその子供、リタイヤした年配の人も含め、年齢も国籍もさまざまな人を毎年20人くらい集めてやっているそうです。

その際、ローズマリーから「あなた、独り者で子供なしよね?パーティーの準備するの手伝ってくれる?役に立ちそうな参加者は子供の世話で忙しかったりするし、年寄りは力ないし」と頼まれたので、えらい単刀直入な人だなと思いつつも快く引き受けました。

ローズマリーは、コペンハーゲン郊外の一戸建てに住んでいます。そのうちのひと部屋は、デンマークの大学院に留学しにきているマレーシア人の若いカップルに貸しています。彼らとの挨拶もそこそこにリビングに入ると、欧米人の家庭のご多分にもれず、壁にはズラリと写真の数々。

そこで気づいたのですが、ローズマリーが、温厚そうな初老のオジさんと写っているツーショットがいくつも飾ってありました。

葉隠:「これ、どなたですか?」
ローズマリー:「あ、それ、亡くなった夫よ。」

あ、ローズマリー、結婚してたんだ。

葉隠:「結婚してたって知らなかったわ。これ、いい写真ですね。」
ローズマリー:「そうなの! ほんっとに優しい人だった。最初の旦那と同じくらいに」

え? ってことは、2回も結婚してたの?

聞くと、ローズマリーは、デンマークに来てほどなく、私たちが現在通っている教会でイギリス人の男性と出会い、意気投合して結婚。当時、ローズマリーはもはや自分が結婚するとは思っておらず、むしろ仕事に専念して一人で生きていくつもりだった所へ突然現れた男性だったので、運命的な出会いだと感じたそうです。さもありなん。

ですが、その数年後に、旦那さんは急病で亡くなってしまわれました。新婚気分も抜けきらないうちに夫に急逝されて、ローズマリーは欝と無気力にさいなまれたそうです。現在のローズマリーを知る私としては、彼女が無気力ってちょっと想像できないんですが、それほどつらかったということだと思います。

しばらくしてローズマリーはなんとか精神的にも立ち直り、教会の内外で色んな活動に関わる中で、今度は彼女同様、配偶者に先立たれた男性と知り合い、いろいろ考えた挙句、老後をともに過ごしたいと感じて再婚に踏み切ったとのこと。それが写真の男性だったわけです。

「でもね、彼も亡くなっちゃったのよ。私が定年退職する2年前に。」
淡々とそう語るローズマリーに、私は沈黙していました。

人生で最大のストレスは、配偶者との死別だといいます。
ローズマリーはそれを二度も経験しています。それも、だれもが将来に不安を抱き始める中高年の時に、異国の地で。

前向きな人は強い

それでも、いまのローズマリーはとてもポジティブで、「最初の夫との時間が短かったから、2番目の夫とは思い出を沢山つくりたかったし、それがある程度できたから良かったわ。まぁお互い死別経験者どうしで、歳とってからの再婚だったから、向こうも同じ思いだったみたい」。

あぁ、だから写真がこんなにたくさんあるのか。

二度の死別を経て、ローズマリーは、関わることが必然ならば、すべてを受け入れていこうと決心したそうです。彼女が60代前半の頃のことです。

その話を聞いて、私はローズマリーへの尊敬の念を新たにしました。

私の場合、今までの自分の海外生活を振り返ると、私は自分自身の生活基盤を構築・維持するのに必死で、煩わしい人間関係はバッサリ切り捨てる、という生き方をしてきました。後悔はしていませんが、もうちょっと違うやり方があったのではないか、と反省することは多々あります。

今年のローズマリー宅でのクリスマス・パーティーには、私は海外での学会があったので残念ながら参加できませんでした。その数日後、教会で例年通り行われたクリスマス礼拝の直前、礼拝堂の通路をはさんだ反対側の席に私を見つけたローズマリーは、「あ、いた!クリスマス・パーティー楽しかったわよ!来年はちゃんと来なさいよー!」。

まぁ相変わらずのパワーモードでした。つーか、声がデカいし目立つんだが…。とは言え、孤独になりがちな海外での生活で、こういう人と知り合えたのは幸運です。

私はローズマリーほど外交的ではないので、彼女のような生き方はできません。でも見習うべき点は多いので、自分のロール・モデルとして今後も親交を深めていけたらいいなと思っています。

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