統合失調症の私が伝えたい5つのVol57

76 統合失調症患者で、就労しているMさん

統合失調症に罹患しながらも、就労して頑張っておられる、Mさんも文章を寄せてくださった。就労しておられるだけでなく英語の勉強にも意欲的に取り組んで、英検一級に合格されている。また、病気の当事者が、病気の方を支える「ピアサポート」の活動にも取り組まれている。Mさんの希望で、
Mさんの文章をそのまま載せた。読んでみて欲しい。統合失調症によって、失うものはあるかもしれないが、それで終わりではないということをMさんの文章を読めば、わかってもらえると思う。

 
私の精神障害とノーマライゼーション

Q. 発病のきっかけとその後

発病のきっかけは,大手新聞社入社1年目の人事異動の季節に,私自身の大抜擢の噂が流れ,周囲が私に対しそれを隠した事。サプライズ的に知らせ大喜びする様子を皆で見たいとの思惑だったらしいが、何も知らない私が内示の時間直前の定時に帰宅したため、「本人の意思が確認できない」との理由で、私に対する内示発令は半年延期になった。

入社試験で唯1人、論説委員3人から推薦されたとの理由で「成績1番で入社」との噂がついて回り、いわゆる「内示拒否した成績1番の新入社員」とレッテルを貼られた。その頃に兆候のあった幻聴と脳内への「語り掛け」と,社内の各種「噂」に振り回され,幻聴と妄想が激化し、5月の連休を機に姉夫婦が会社まで迎えに来て,実家まで連れ帰られ,精神科医は「神経衰弱症」と診断。大抜擢人事も撤回。

その後、休職と復職を繰り返し、2度の入院後に休職満期退社。その後,統合失調症と診断。デイケアや「通所リハビリテーション」(職場適応訓練)利用して新聞社の求人広告に応募、またハローワーク紹介の豆腐工場の仕事、皿洗い、古美術骨董品オークション会社でカタログ校正等をした。

現在は障害者枠で郵便局の「後方支援事務その他付随する関連業務」の職で、窓口後方で店頭消毒や物品発注から受注数計算や書類整理、切手見本作成、ポスター制作、英語通訳等の総務的仕事に従事。

Q. デイケア利用で良かった事は?

デイケア利用では規則正しい生活習慣と、スタッフやメンバーとの会話、多様なプログラムで、入院せずに症状が抑えられ、人との普通の会話や作業に慣れていった。新聞プログラムのお陰で、自分で文章執筆や、パソコンで編集やレイアウトしたり、他のメンバーと協力したりして、紙面作成作業が出来て、新聞社時代の自分を多少は客観視できるようになった。

Q.  現状は?
~仕事,ピアサポート、趣味の英語~

仕事はパソコンを使う事務を希望で、給料が非常に少ない点以外は,現在の郵便局の仕事で満足してる。

ピアサポーターとしては、精神障害で30年や20年と長期入院を余儀なくされている方々を入院経験ある同じ精神障害者として病院訪問等で交流したり退院後の生活の仕方や魅力を話したりして退院支援した。しかい郵便局に就職後は、勉強会以外は参加してない。

英語は小1~小3まで米国のロスで生活していた事と、中学・高校の受験勉強や大学で国際政治学の勉強、英語サークルでディベート活動。新聞社時代の半年の語学学校通学、大学4年から十数回のTOEIC受験の経験がある。今はフィリピン人4大卒の主婦講師のオンライン英会話レッスンを毎朝3時から25分×4コマ=100分、7年の受講等で、8回目の挑戦で2020年8月に英検1級試験合格。今もほぼ毎朝受講。郵便局店頭に外国人のお客様が来られても躊躇なく局員の同僚との通訳可能。社会人英会話サークル等でもリアルの例会やコロナ禍によるZOOM例会やクラブハウスでも英会話が楽しめている。

Q.  精神科医療についてどう思うか?

発病当初は、担当の精神科医に何を話せばよいか,分からなかったが、自分の症状や生活状況,デイケアや、その時々の職場の状況や悩み等を話す事にしている。処方薬については、多少、神経の興奮が収まる感覚と眠い感覚以外は、「ちゃんと処方薬を飲んでいるから大丈夫」との安心感が得られている。

デイケアやナイトケアで多様なスタッフや、メンバーと話す事も大事だが、パソコンやスマホを使い、SkypeやZOOMやFACETIMEで話す事が出来たら、「病院までの往復の通院時間が節約できるのに」と思う事がある。精神障害のカミングアウトも難しい。精神科受診と薬の服用は一生必要と思う。

Q. 精神疾患に対しての現状についてどう思うか?

2022年正月向けの年賀状にこう書いた(抜粋)。
「A) 人間は多様。①言葉の意味は文脈・時代で変化。②血液型は数百通りで組合せは数兆通り。③世界に6900の言語。④物理学でいう「観測者の問題」から物事の100%完璧な描写・認識は不可能。
B)   故に,多様な人間の100%完璧な相互理解は不可能。
C) 一定の相互理解は可能で必要。①現実の紛争克服や日常生活で実績。②人類は絶滅せず数百万年存続の実績。③「戦争は人の心の中で生まれる」(ユネスコ憲章前文)。④悲劇回避へ世界78億人に可能で必要」。

従って,多様な障害者個々人に合った対話と医療があるべきだ。そして,普通の人の普通の日常の中に身体・精神・知的障害者も当たり前に生活しているノーマライゼーションの状況で、初めて障害者差別や偏見が減ると思う。老後も最低限の収入保障が欲しい。

Q.夢は?

順不同で「国会図書館に自分の本を入れる事」「話の合う女性と結婚」「自分が誰とでも率直な議論や意見交換,中身の濃い対話ができる環境を作る事」。

以上。M記


いつも前向きに、そして意欲的に物事に取り組んでおられるMさんの姿勢から、私自身、大いに影響を受けている。特に、英語を学び続ける姿勢には、敬服している。Mさんとは、まるいクリニックで知り合ったのだが、ユーモアとウィットに富んだ、とても面白い方である。
 Mさんも述べられているように、統合失調症患者であることをカミングアウトすることは、とても勇気がいることである。偏見や差別が怖いからだ。偏見や差別を恐れる心配なく、カミングアウトできる社会になればいいのにと、Mさんの文章を読んで、改めて強く思った。


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