【小咄】カカオ60%は苦い。
昔話をする。
厨二病を乗り越え、
高二病になっていた頃の話だ。
当時、世間では高カカオのチョコレートが謎のブームを巻き起こし、めちゃくちゃ流行っていた。60%や70%、はたまた99%というような暴力的な苦さの商品が所狭しとスーパーに陳列されていた。おおよそ、どこかのTV番組で放送された影響だろう。
とにかく甘いチョコレートよりも苦いチョコレートが持て囃されていた。そんな中、僕は背伸びをしがちな高二病の患者(クランケ)だったので、決まって60%のチョコレートを常用していた。しかも当時は個別包装タイプではなく板チョコしかなかったものだから、バリバリと高カカオのチョコレートを食べるジャンキーのような「危ない男」を気取っていた。
「苦くねぇのか?それ」みたいな事をいう同級生に「フッ、子どもだな」とでも言いたげな顔で「別に」と答えていた。そのくせ珈琲が飲めないから、ただのおかしいやつだという悪評だけが高まっていたに違いない。
まぁ高二病と厨二病のダブル羅患だったのだ。
正直、どうしようもない。
そんな秋口の頃、恋をした。
その子はとても笑顔が素敵でキラキラとしたオーラを纏っていた。僕は飛んで火に入る夏の虫のように、その輝きに惹かれていたのだろう。
つまり、高カカオの板チョコをバリバリと食べる闇深いアホがキラキラした可愛い女の子は恋をしたのだ。
その輝きに僕の闇は敵うはずもないし、彼女の感性に僕の瘴気が適うはずもない。
その恋は当たり前に実らなかったし、叶わなかった。
むしろ、マジで勘弁してくださいくらいの手酷いオーラで「怖い」と言われた。
流石に僕の高二病&厨二病も醒めるくらいのフレーズだ。
「やった、怖がられた!」みたいなのは一切なかった。
帰り道、慰みをくれる悪友たちの横でポケットからカカオ60%のチョコレートをいつものように取り出し、噛った。
当たり前に苦い。
「苦いなぁ・・・」
その日、その瞬間。
僕の変な呪縛は恋とともに
カカオ60%のクソ苦いチョコレートがブチ壊してくれた。
数年後。
性懲りも無く高カカオ商品は今も変わらず店頭に並んでいる。今では個包装されていて、健康食品や機能性食品のように並んでいる。
それをひとつ買った。
あの時の同じ、カカオ60%のものだ。
もちろん苦く感じる。
食べた瞬間にフラッシュバックした、あの日のビターな思い出。
当たり前にのようにそちらの方が苦く感じた。
やはりカカオ60%のチョコレートは苦い。
チョコレートと人生くらい、甘いものを好むべきだった。
そんなコトを考えながら微糖の缶コーヒーを僕は今飲んでいる。
厨二病・高二病は乗り越えてきた。
しかしまぁ。
こんな生活をしていれば今度は
成人病を羅患する日も近い。
人生は苦いことのほうが多い。
カカオ60%のチョコレートくらい苦い。
だから時には、
甘い方を選ぶのも有りだ。
よく出来ている。
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