エクレアを食む。
エクレアを初めて食べたのは多分、小学生の高学年くらいになってからだったと思う。
それもケーキ屋さんのエクレアじゃなく、近所にあったエブリワン(いまはもうない)のアソートセットに入ったやつだ。
エブリワン(マジで神コンビニだった)には紙袋に5つほどのシュークリームが入って500円くらいのセットが販売されていた。確かその中に2つエクレアが入っていた。どこか特別感のある存在だった。チョコレートでコーティングされたシュークリーム。手軽なプチ贅沢の中にある特別な贅沢。それが僕のエクレアのイメージだ。
エブリワン(マジで復活して欲しい)のアソートパックの中にあるエクレアはシュークリーム同様に皮がフワフワとしている。
だから少しこだわって、エクレアには食べるというよりも「食む(はむ)」と言いたい。
エクレアを食む(はむ)。
ふわふわした感じがあるじゃないか。
エブリワン(僕が初めてバイトをしたコンビニ)がなくなって、もう何年経っただろう。
思えば大人になってからエクレアなんて食べなくなった。子供の頃は「エクレアがあるよ」という母の声に目を輝かせていたはずなのに、高校生くらいの時から「いや、いいよ」と断っていた。甘いものが嫌いというわけでもない。きっとクレープや進化していくコンビニスイーツを食べていく中で、僕の中の特別感(エクストラレア)がなくなったのかもしれない。
エクレアは僕の中でエクストラレアじゃなくなったのだ。
大人になった。もう30だ。
エクレアなんてコンビニスイーツに限らずお店のものも含めて10数年は食べていない気がする。でもふと最近、少しだけ「エクレアが食べたいな」という衝動に駆られる時がある。
何故って。
岡崎体育のせいだ。
岡崎体育のエクレアという曲のせいだ。
いや、「せいだ」は良くない。
「おかげだ」がベストだろう。
岡崎体育のおかげだ。
岡崎体育と僕は歳が同じだ。
そして髪型も相まってか一時期「似ている」と言われていたこともあった。岡崎体育と聞いて知らない人もいるかもしれない。知らないのなら是非とも聞いて欲しい。
レキシじゃなくて、Vaundyじゃなくて、岡崎体育の曲を聞いて欲しい。彼の曲はキャッチーで面白い仕掛けがあって、言葉遊びに溢れていて、そしてエスプリの効いたオマージュもあって、是非聞いて欲しい。彼の作る曲は多彩で、方向性はある意味では一貫しているのだけれど、同一人物が作っている(歌っている)とは思えないようなものも多い。
「Music video」もいいし、「感情のピクセル」もいいし、JINROのプロモーションにも使われた「割る!」も最高だし、ポケモンのOPやEDに使われた曲もある。話し出すとキリがないのでとにかく聞いて欲しい。
というか、今からちゃんと「エクレア」の話はするから聞いてほしい。
今、YouTubeで話題になっているチャンネルで「THE FIRST TAKE」というものがある。数々の有名なアーティストが一発録りのパフォーマンスを無機質な白い部屋で行うものだ。
そこで岡崎体育が歌った曲が「エクレア」である。岡崎体育を少しだけ、本当にかじっている程度に知っている人ならどんな曲か知っているかもしれない。めちゃくちゃいい曲だ。
同世代の「頑張っているけど ちょっとしんどいなって思いながら、それでも頑張っている人」に聞いて欲しい。
どうしようもない夜は
ちょっぴり缶ビールあけよう
グビグビ飲めるわけじゃないけど
時間をかけて
という歌い出しから始まる、この曲。
1番では 「悩み」や「閉塞感」のような少しネガティブさを感じるような歌詞が並ぶ。
そしてサビに移る前にこう歌っている。
今でも誰かに憧れてる
敷布団の上 真似してる
想像上のステージと
想像上のオーディエンス
やれるとこまでやろう
わかるううううううう!!!!!
めちゃくちゃにわかりみの嵐だ。
きっとみんなもそうだと思う。どこか現実と向き合っていつつもぼんやりと夢というか憧れを抱いているし夢想することもある。
でも不安なのだ。だから「やれることまでやろう」というのも凄くわかる。
そして二番。
ぼんやりと「決意」めいたものがひしひしと伝わってくる歌詞になっている。
魂を込めれば
ちょっとくらいは
カッコよくみえる
直前までガンプラの話をしていたというのに(?)唐突にこんな歌詞が入ってきて、ドキッとさせられる。そして、その後にこう続く。
今まで誰かに憧れた
壊れた傘を振り回してた
感動的なフィナーレと
感動的なクラップヤヘンズ
いけるとこまでいこう
やれるとこまで、ではなく。
いけるとこまで、なのだ。
憧れも「今でも」ではなく
「今まで」となっている。
強い言葉ではないのに、しっかりと芯の通ったような強い意志を感じる。
そして、このサビに続くのだ。
いい曲はいい人とともに
いい曲といい歌は
いい人といい場所で
いい曲はいい人とともに
エクレアは穏やかな曲調だが、どこか「芯」を感じられるような曲だと思う。そしてこの曲を味わう上で本当に意識するべき点は彼(岡崎体育)が夢を叶えた漢だということだ。ことある事に「30歳になるまでに さいたまスーパーアリーナで公演をする」と公言してきた「夢」を叶え、この曲を歌ったということだ。
彼は僕のここ数年の中で1番尊敬している「同級生(※あくまで年齢が同じ)」だ。
決してカッコよくはない。
いやカッコいい。
めちゃくちゃにカッコいい。
そんな彼のこの「エクレア」を僕もよく聞く。仕事や私生活が上手くいかないときに、ゆっくりと飲み込むように聞き込んでいる。
別に曲に自分を重ねる、とかではなく。
素直に元気と活力を適度に補給するために、この曲を聞いている。
「やればできる!がんばろう!」だなんて、そういう熱血的なものは聞いてて、どうにも疲れてしまうのだ。胃もたれする。
ちょうど「エクレア」だからこそ。
食後のデザートや夜食程度に食べられる。
この曲を聞くと昔の自分(小学生の頃)を思い出す。何も悩みなく、全てが希望に満ち溢れていたままエクレアを齧っていたあの頃を。色々なものに憧れて、新品の傘を振り回していたあの頃を思い出す。でも僕はもう大人だから、現実が待っている。徹夜で悩むわけにもいかないし、それで何かをガラリと変えられるわけでもない。
だから歌詞にもあるように
今日はおやすみ。明日考えよう。
と切り替える。
いけるとこまでいく。
やれるとこまでやる。
そんな風に決意を新たにする。
そして、そんな夜はちょっぴり。
ほんの少しだけ、コンビニに走りたくなる。
今はファミマになったエブリワン。
ファミマに行きたくなる。
エクレアを買いに行こうかな。
いやでもこの時間は太るか。
そんなことを考えながら今日も僕は
作業をしながら耳で「エクレアを食む」のだ。
エクレアはここから聞けます。
https://youtu.be/W34CoKVr_eg